(3)現地調査結果

(1)調査地域の地質と層相 

表3−1−4に調査地域の地質層序総括表を、図3−1−7に調査地域の地質図を示す。

表3−1−4 調査地域の地質層序総括表

図3−1−7 調査地域の地質図

以下、各地層毎にその層相についての概要を述べる。  

@浜石岳層群(Hd) [写真10写真11

浜石岳層群は、入山断層系の西側に広く分布し、ほぼ南北方向の構造をもつ。層厚は約4,000mを越えると推定されている。

浜石岳層群は主として礫岩からなり、礫は大礫〜巨礫を多く含む。礫種は、火山岩や閃緑岩が多いが、チャートや泥岩,凝灰質砂岩も認められる。

由比町室野以南では、入山断層とその東側に位置する派生断層との間に浜石岳層群の凝灰質砂岩が分布している。

A城山層(m)[写真12

城山層は、蒲原町蒲原の城山付近で貫入岩体に付随して小規模に分布している。層相は、凝灰質砂岩と泥岩からなる。

B蒲原礫層(Kb)、および別所礫層(Bs)[写真13写真14写真15

蒲原礫層は、主に蒲原町北部に広がる蒲原丘陵に分布する。この他に富士川町泉水付近の入山断層沿いに帯状に分布している。これに対し、富士川以北に分布するほぼ同じ層準の礫層を、別所礫層という。

蒲原礫層は径2〜5cm程度の円礫を主体とする。礫は安山岩等、多くの種類の礫からなり、浜石岳層群を不整合に覆う。

図3−1−8に、由比町入山(室野地区)で認められた不整合境界のスケッチ図を示す(写真9参照)。

また、別所礫層は礫径の濁汰が悪く、所々巨礫を伴う。このことから蒲原礫層は海成、別所礫層は海成〜陸成と考えられる。蒲原礫層中には大阪層群中のアズキ火山灰が確認されることから、この地層は前〜中期更新世の堆積物とされている。

C岩淵安山岩類[写真18

岩淵安山岩類は、庵原地域全体に広く分布し蒲原礫層と別所礫層を整合に覆う。これらの境界層は場所によって異なるが、所々砂岩と火山角礫岩の互層からなる漸移部を伴う。

層相は、主として安山岩の溶岩火山角礫岩、安山岩の角礫を含む泥流堆積物からなり、一部凝灰岩を伴う。

図3−1−8 由比町室野橋付近の道路法面にみられる不整合境界

写真9 浜石岳層群と蒲原礫層の不整合境界(由比町東山寺・室野橋付近)

D鷺ノ田礫層[写真18

鷺ノ田礫層は、由比川上流域と有無瀬川流域に分布している。本層は岩淵安山岩類を不整合に覆う。層厚は200m以上と推定される。

層相は主として亜角〜亜円の大礫〜巨礫からなり、一部泥岩を伴う。本層中の泥岩には、上総層群中のKS−10火山灰が認められるため、中期更新世の堆積物とされている。植物化石やステゴドンの化石が産出しており、陸成層と考えられている。

E段丘堆積物(t)および羽鮒層(hb)[写真20

由比川流域や、富士川流域に数段の段丘堆積物が認められる。特に芝川付近では段丘の発達がよく、芝川溶岩の浸食面を含めると8段の段丘面が認められる。

このうち芝川町羽鮒付近では姶良丹沢火山灰(AT)を狭在するシルトが認められ、地質調査所(1996)によって羽鮒層と命名された。

F古富士泥流堆積物(T〜W)

調査地域北部の富士川以北に分布する。古富士火山の泥流堆積物である。堆積年代は、約2〜8万年と推定されている。

層相は、玄武岩質の巨礫を含む砂質火山灰からなり、所々に火山砂礫を伴う。

山崎他(1981)は、泥流面の地形面区分とその上位の火山灰層の層相から、T〜Wの4つのステージに区分している。

G新富士火山溶岩類[写真19

富士川流域に分布する新富士火山の溶岩流堆積物からなる。このうち調査地域においては、津屋(1981)の区分によれば、芝川溶岩[SW1],北山溶岩[SW5]と沼久保溶岩[SSW2}の3つが分布している。

H崖錐堆積物(dt)および沖積層(a)

沢沿いや、低地部に分布する堆積物である。

以下に、主な層相の露頭写真を示す。

写真10 

写真11

写真12

写真13

写真14

写真15

写真16

写真17

写真18

写真19

写真20

(2)断層露頭調査結果

判読したリニアメント沿いに断層露頭調査を行った。表3−1−5に断層露頭一覧表を、図3−1−9に断層露頭位置図を示す。

確認された断層露頭は、派生断層を含め20箇所である。これらの確認位置、スケッチ図と、写真は、別冊資料集に整理して添付した。

20箇所のうち、入山断層(泉水断層や派生断層を含む)が12箇所と多く、その他、芝川断層1箇所、中山断層2箇所、善福寺断層4箇所であった。

図3−1−10図3−1−12に、入山断層と被覆層の関係が認められた露頭のスケッチ図を示す。

表3−1−5 断層露頭一覧表

図3−1−9 断層露頭位置図(縮尺1/50,000)

図3−1−10 入山断層北部・段丘堆積物を切断する派生断層

図3−1−11 入山断層北部・崖錐堆積物を切断する断層       [杉山・下川(1982)に記載された露頭]

図3−1−12 安居山断層南方延長部・段丘堆積物を切断する断層  (今回の調査で確認されたが、現在は法面保護工により確認できない)

0 5(m) 崖錐堆積物 表土の発達悪い 地表に低崖や段差は認められない

法面勾配45° 至由比 40E 60 県道 崩壊堆積物 褐色中〜粗粒砂 

シルト分を含む 至富士宮 W E 

段丘堆積物が断層により変位している。変位は段丘堆積物の基底面が露出してしないため不明であるが、おそらく1.5m程度と推定される。段丘堆積物中に断層活動時の崩積土と考えられる地層が認められ、その付近より断層面は不明瞭となる。現地表面に段差は認められない。この段丘面は現河床より比高差が約15mあり、表土の発達も悪いことからかなり新しい時代の堆積物であると考えられる。

(3) 堆積物調査結果

入山断層系付近の由比川流域南部と芝川流域南部には、段丘地形が発達している。ここで両流域の段丘堆積物についての調査結果を示す。     

@由比川流域南部(入山断層南部)

図3−1−13に空中写真判読による入山断層南部の地形面区分図を示す。

由比川流域には、T面〜Y面までの6段の平坦面が判読できる。この中で最も広く分布するのはV面とY面である。

図3−1−14にU面の段丘堆積物の柱状図と写真を示す。U面は開析されてほとんど段丘面としては残存していない。この堆積物は葉理が発達する水成の砂礫層からなり、層厚は約9mに達する。この堆積物の下部に黄色の砂質火山灰が確認された。火山灰分析を行ったが風化が進み、火山ガラスは検出されなかった。しかし、重鉱物として角閃石や黒雲母が認められることや、火山灰の層厚が10cmと比較的厚いことから、御岳第1降下軽石[On−Pm1](木曽御岳山、約8〜10万年前)の可能性があると考えられる。

図3−1−15に御岳第1降下軽石[On−Pm1]の等層厚線図を、図3−1−16に火山灰と海成段丘の層序およびこれから推定された海面変化曲線の関係図を示す。

仮にこの火山灰が御岳第1降下軽石とすると、U面は小原台面に相当することとなる。

図3−1−13 入山断層南部の地形面区分図(縮尺1/10,000)

基底付近に火山灰挟在。柱状図参照。

この付近は全体に残丘状の尾根が多く、 

平坦面としては判読できない。

不明瞭な低崖あり。

赤丸は堆積物の確認できる露頭位置

リニアメント位置

T U V W X Y T U V W X Y

T U V W X Y T U V W X Y

T U V W X Y  T U V W X Y

T U V W X Y T U V W X Y

T U V W X Y  T U V W X Y

T U V W X Y T U V W X Y

T U V W X Y  T U V W X Y

図3−1−14 火山灰を含む段丘堆積物の地質柱状図(縮尺1/100)

深度(m) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

層厚(cm)(50)(100)(250)(200)(110)(30)(30)(30)(10)(10)(110)

不明 暗褐灰色砂礫 暗褐色砂礫 暗褐灰色砂礫 暗褐色砂礫

暗灰色礫混り砂 暗黄灰色粗粒砂 黄色砂質火山灰 暗褐色礫混り砂

暗灰色礫岩[蒲原礫層]

径2〜4cmの亜角〜亜円礫を多く含む。 

ややシルト質。

一部角礫を含み、崖錐性。

径2〜10cmの円礫を多く含む。

基質は中〜粗粒砂からなり、シルト分を少量含む。

弱い葉理が認められる。

斜交葉理の顕著な砂礫。径2〜10cmの円礫を主体とする。

下位にいくに従い礫径が大きくなる。

径2〜10cmの円礫を多く含む。

下位にいくに従い礫径が小さくなる。

径1〜3cmの円礫を多く含む粗粒砂。

径2〜5cmの円礫を主体とする。

淘汰良好。弱い葉理が認められる。

シルト分を多く含む淘汰不良の細〜中粒砂。

径2〜5cmの円礫を主体とする礫岩。

写真21 段丘堆積物中の火山灰

図3−1−15 御岳第1軽石の等層厚線図と主な産出地点

図3−1−16 放射年代測定されたテラフと海成段丘の層序およびこれから推定された海面変化曲線

由比川流域に分布する段丘面のうち比較的広く分布するU面、V面とY面について現在の河川勾配と比較する。

図3−1−17に由比川流域の段丘投影図を示す。

U面は、前述した火山灰を含む段丘堆積物の地形面で、分布は少ないがその勾配はほぼ現在の河川勾配と同様であり、海進期の堆積物であるといえる。

これに対しV面は現在の河川勾配よりかなり急勾配で、河口より沖合500m付近で海水準と交差する。これについては後述するが、海上音波探査において、深度−100〜−130mに認められた段丘堆積物に連続すると考えられ、立川期(約2万年前)の段丘堆積物であると考えられる。

V面より低位のY面は、U面と同様にほぼ現在の河川勾配と等しい。また羽田野・一色(1977)でY面を、約3,000年前の完新世段丘であると指摘していることから、Y面は現在より約3,000〜8,000年前の縄文海進期の段丘であると考えられる。

図3−1−18に過去15万年前の氷河性海面変化曲線を示す。

図3−1−17 由比川流域の段丘面投影図

図3−1−18 過去15万年間の氷河性海面変化曲線    [小池・太田(1996)から引用]

A芝川流域南部(芝川断層南部)

図3−1−19に芝川断層南部の地形面区分図を示す。

リニアメントを境して南西側では段丘面が発達するのに対し、北東側では発達していない。これは北東側に対して南西側が相対的に隆起したためと考えられる。

芝川断層の南西側には、段丘面0面から9面の計10面が判読できるが、このうち6面以降は芝川溶岩流下後に形成された地形面である。

これらの地形面には層厚の差はあるが、全てに堆積物が認められた。

0面は標高約160〜180mの富士川沿いに認められる地形面である。堆積物は、径5〜10cmの礫を主体とし、やや固結した粘土および火山灰の薄層を挟在する。前述したように、この段丘堆積物は富士川・富原橋南方で入山断層の派生断層に切断されている。火山灰などを用いて試料分析を行ったが、堆積年代は特定できなかった。

1面は標高約160mの地形面であるが残存は悪く、径10〜20cmの礫が点在するが、古富士泥流堆積物の堆積面と考えられる。

2面は標高約150mの地形面であり、3面は2面を浸食した旧河道と考えられ、2面より約3〜5m低い。

この地形面を構成する堆積物は、現在は法面保護工のため確認できないが地質調査所(1996)にその露頭の状況が報告されている。

図3−1−20に地質調査所(1996)に示された姶良丹沢火山灰(AT)を含むシルトの露頭状況を示す。

この火山灰を挟在することから、この堆積物の形成時期は約2.2〜2.5万年前と推定される。地質調査所(1996)は、この堆積物を「羽鮒層」と命名しており、今回の調査でも同様の堆積物について、この地層名を用いた。

後述するが、羽鮒地区で実施したボーリング調査結果では、この堆積物の層相はは腐植土を主体としている。

4面の堆積物の写真を写真24写真25に示す。4面を構成する堆積物は大礫〜巨礫を主体とし、層厚2m以上のローム層に覆われる。礫の中に花崗岩の風化礫が認められるため、この段丘堆積物は、富士川本流の堆積物と考えられる。

図3−1−19 芝川断層南部の地形面区分図

図3−1−20 羽鮒層の層相と姶良丹沢火山灰(AT)    [地質調査所(1996)から引用]

写真22

写真23

写真24 4面の堆積物(芝川町長貫・長達寺南)

写真25 4面の堆積物(芝川町長貫・長達寺南)

5面の堆積物の詳細は不明であるが、径20cm以上の円礫が認められた。

6面以降は芝川溶岩流下後の地形面であり、6面は芝川溶岩上面またはおよびその直後に堆積した堆積物の堆積面である。この堆積物は、津屋(1940b)に記載された楠金段丘堆積層に相当すると考えられる。

今回の調査では津屋(1940b)に記載された露頭は確認できなかったが、後述する羽鮒地区のトレンチ調査で認められた緑灰色のシルトは、この堆積物に相当すると考えられる。トレンチ調査から得られた堆積年代は約1.2〜1.3万年前であり、芝川溶岩の流下時期もこの頃ではないかと推定される。

7面は、芝川西岸に広く認められ、芝川流域の段丘面としては最も広く認められる面である。6面を浸食して堆積した芝川の旧河床礫からなる。

今回の調査では大久保地区のトレンチで認められ、径5〜15cmの円礫を多く含む暗灰色な火山砂礫からなる。堆積年代は富士黒土層に覆われることから

約0.8〜1.2万年前と推定される。

8面および9面は芝川溶岩の浸食平坦面であり、堆積物は砂礫からなるが、比較的層厚は薄い。