(3)トレンチ調査結果の総合解釈

今回のトレンチ調査は、委員会での検討の結果、関ヶ原断層帯を構成する断層の内、関ヶ原断層を対象に実施することとした。関ヶ原断層は、地形地質調査の結果F−1〜F−6の6条に区分できることが判明した。また、反射法探査により、低地に伏在する断層が、各反射断面毎に数条推定されている。これらの内、断層線が絞り込め、かつ更新世後期以降の堆積物が覆うF−1断層を対象にトレンチ調査を実施した。地形地質調査では、断層線を覆う更新世後期以降の地形面に断層変位地形は認められていない。

秋葉地区ではF−1断層を対象に1箇所(秋葉トレンチ)、丸山地区ではF−1から分岐したF−1−2断層を対象に2箇所(丸山A・丸山Bトレンチ)のトレンチ調査を実施した。表2−5−5−1にトレンチの諸元,表2−5−5−2にトレンチで観察された地層対比及び環境変化の解釈を示す。また、表2−5−5−3に断層の活動性に関する考察結果の対比を示す。

@ 地層の総合的な対比

・トレンチ調査では、各トレンチの東側壁面・西側壁面の2面を観察し、出現した堆積物を堆積環境の違い及び連続性の良い削り込みにより、上位の地層から6〜7層に区分した。また、できる限り14C年代測定試料を採取し、年代値を求めた。

図2−5−5−4に、トレンチで採取された試料と14C年代の関係を示した。ここでは上位の試料から下位の試料の順に整理番号をふり直した。ただし、秋葉トレンチでは整理番号10と13を対比から除いた。この2試料を除いた理由は、図2−4に示されている、全体的な傾向に対して、10は若い年代,13は古い年代,が得られたため、試料が混入物質であると判断したことによる。

・14C年代測定の結果、秋葉トレンチのF層から採取した材化石の2試料の年代値をのぞき、観察した地質層序で年代値に矛盾がないことを確認できたため、地層の観察による区分を層序区分とした。

・上記で得られた14C年代を基準にして、表2−5−5−2にトレンチで確認された地層の総合対比表を示した。また、表2−5−5−3に確認された地層を堆積物と表層被覆層(農耕土・盛土・表土)に区分して示した。

これら対比表及び各層の層相から、秋葉トレンチD〜F層と丸山AトレンチのW〜Y層は、河成及び湖成堆積物から構成され、層相が類似していた。丸山AトレンチのV層は黒ボク土と考えられる。これらいずれの地層も、1万〜2万年前の14C年代が得られた。

1万年前以降1千年前まで堆積物の欠如期間がある。

一方、秋葉トレンチB〜C層、丸山Bトレンチb〜g層は、それぞれ弱い水流による河成堆積物、土石流堆積物と考えられる。これらの地層からは1200yBP〜220yBPの14C年代(秋葉トレンチのB層からは13世紀後半〜14世紀の土器片)が得られた。

図2−5−5−4に14C年代値を地層との対比結果をまとめた。

確認された地層は大きく分けて10000〜17000yBPの更新世後期の河成及び湖成堆積物からなる地層と1000yBPの完新世の土石流堆積物からなる地層に2分でき、

10000〜1000yBP及び17000yBP以前の地層が欠如していることが確認できた。

これから、17000yBP以降の堆積環境の変化が最低3回起こっていることが推定された。

A 断層の有無

・秋葉トレンチでは、トレンチ西側で実施したB−4ボーリングで基盤岩の中・古生層(美濃帯)の破砕帯を確認した。基盤岩を覆う15,000〜16,000yBP以降の堆積物に断層は認められなかった。

・丸山地区の2箇所のトレンチでは、基盤岩の中・古生層(美濃帯)中の断層ガウジ(粘土)及び破砕帯を底盤全面に確認した。基盤岩を覆う16,000〜17,000yBP以降の堆積物に断層は認められなかった。

・以上2点の結果から、トレンチ調査を行った範囲内では、少なくとも16,000〜17,000yBP以降の堆積物中に断層がないことを確認した。

・したがって、地形地質調査で分布が推定されたF−1断層及びF−1断層から分岐した断層F−1−2断層は、16,000〜17,000yBP以降活動していないと考えた。

B 地層の変形の有無

・古地震の痕跡と考えられる地層の変形(地震イベント)としては、秋葉トレンチでの12,000yBP頃の地層の落ち込み(イベント1)と、丸山Bトレンチでの390yBP以降の開口亀裂(イベント2)を発見した。

・イベント1の変形範囲はD層の下部とE層に限られ、基盤岩である中・古生層や基盤岩を覆うF層に変形が及んでいないため、近傍の地震や遠地地震により形成されたと考えられる。

・一方、イベント2の開口亀裂の存在範囲は、基盤から基盤を覆う完新世の堆積物まで連続しており、極近傍の強い地震動により形成されたと考えられる。丸山Bトレンチの開口亀裂の原因と対比できる地震動は、

1586年1月18日の天正地震    M=7.8

1891年10月28日の濃尾地震    M=8.0

1909年8月14日の江濃(姉川)地震 M=6.8

が考えられる。

C 断層の活動性評価

・上記@〜Bを総合して関ヶ原断層の活動性評価を行った。

・地形地質調査で推定されたF−1断層(F−1−2断層を含む)上で実施したトレンチ調査では、基盤岩である中・古生層(美濃帯)の破砕帯を確認したが、基盤岩を覆う更新世後期〜完新世の堆積物(河成及び湖成堆積物,土石流堆積物)には連続していない。したがって、F−1断層の更新世後期以降の活動(変位)の証拠は得られていない。また、更新世中期以前の堆積物が存在しないため、更新世中期以前の活動性は不明である。

・丸山Bトレンチでは、基盤岩である中・古生層から基盤岩を覆う土石流堆積物まで連続した開口亀裂(イベント2)が発見され、極近傍での強い地震動を受けた痕跡として断定した。対比される地震記録は、1586年1月18日の天正地震,1891年10月28日の濃尾地震,1909年8月14日の江濃(姉川)地震の何れかが考えられる。