(5)解釈(地下構造の推定)

一般に,重力異常が周囲より低い地域(L)は,低密度の物質が厚く集積していること,言い換えれば基盤が深いことを意味している。逆に,周囲より重力異常が高い地域(H)は,高密度の物質が地表近くに分布していること,すなわち,基盤岩あるいは溶岩や貫入岩が地表近くに存在することを示唆している。

“基盤”までの深さを数値に置き換えるには,この地域を構成している岩石,堆積物などの密度を知った上で,理論計算をする必要がある。

当地域の様に充分固結した中・古生層の密度は一般に2.6 から 2.7 g/cm3 程度である。特に,中・古生層(美濃帯)の石灰岩は,砂質・泥質の堆積岩より密度がやや高い。一方,これらいわゆる基盤を覆う地層は新第三紀後期から第四紀の堆積層であり,それらの密度は 2.0 から 2.3 g/cm3 の間である。ここで,調査地域の地下構造を中・古生層と新第三紀以降の表層からなると近似すれば,両地層間の密度差は最小で 0.3,最大で 0.7 g/cm3 と大きな幅を持つことになる。ここでは本地域での代表的な密度差としてこれらの中間値 0.4 g/cm3 程度を仮定して解析を進めることにする。実際には真の密度差によって,真の表層の厚さはこの場合の推定値の倍であったり半分であったりし得る。

図2−3−2−3(A断面)から図2−3−2−5(C断面)は図2−3−2−1に示した断面位置(AからC)に沿った地形および重力異常断面である。断面幅は 250 m である.いづれの断面図においても,図の左側が南側であり,右側が北側である。各断面の始点と終点(’を付けた)の緯度・経度を表2−3−2−2に示した。

これらの図において,+ 印,○印,□印はそれぞれ断面線中央付近,手前側,裏側に位置する測定点であることを示している。各断面図は重力異常および標高の変化が最もよく現れるように,縦軸のスケールが各断面図毎に異なっているが,横軸(水平距離)は共通である。

これらの断面について2次元タルワニ法に基づく地下構造解析を行なった。先に述べたように表層と基盤との密度差を 0.4 g/cm3 を基本とした。 

断面Aについて解析した1例が図2−3−2−6−1である。図の下側に示したように,低密度層が約 100 m 集積しており,北側のへりでやや高角度で基盤に接しているとすれば重力異常を説明することが可能であることを示している。なお,北側の山地部では重力異常が観測値と合っていないのは,解析に際して山体部分の引力を計算していないからである。また,山体のへりでの低密度層の形態についても,今回の測定データからは明確にすることはできない。逆断層的(a)でも,正断層的(b)でも測定値を近似することができる。この位置は地質学的にも基盤と新規堆積物との境界に一致し,また,想定されている活断層の位置とも対応している。

図2−3−2−6−2は(1)の中心部分を拡大したものである。ここでは逆断層的(a),垂直断層的(b)な2つの場合を示している。

図2−3−2−6−3は(2)に示した地下構造に対して密度差を 0.1 づつ変化させたとき理論重力異常にどれだけの違いが生じるかを示したものである。密度差 0.1 の違いで最大で 0.5 mgal の差が生じている。

図2−3−2−6−4は密度差が 0.3 の場合について解析を行なったものである。密度差 0.4の場合と比べて低密度層がさらに数十メートル厚くないと測定値に合わないことを示している。

断面Bにそって推定された地下構造は図2−3−2−7に示すように,基盤上面が起伏に富んでいる。この断面においては水平距離 2 km あたりより南方と水平距離 5 km あたりより北方に基盤が露出している。この事実を満足するように堆積層の深さを推定したものである。推定された地下構造によれば,水平距離 2 km 地域および水平距離 4 km 地域に,それぞれやや急傾斜の構造が見られる。低密度層の厚さは約 200 m である。

断面Cにおいては地質図上で堆積層が分布するのは水平距離 2 km から 3 km の間である。明らかにこの地域では堆積層は薄く,80 m 程度と推定される(図2−3−2−8)。

以上の解析では密度差を代表的と思われ 0.4 g/cm3 を仮定して行なった。もし,密度差がこれより実際には大きければ境界面の深さをより浅く,逆に密度差が小さければ境界面の深さをより深く想定しなければ観測値を満足しない結果になる。

ここでは地層の密度を2種類と単純化して解析を行なったので,この前提が崩れれば推定される地下構造もその度合いに応じて異なってくることに再度注意する。地下構造の結論に至るには重力異常以外の観測事実も充分考慮に入れて検討しなければならない。

図2−3−2−3

図2−3−2−4

図2−3−2−5

図2−3−2−6−1

図2−3−2−6−2

図2−3−2−6−3

図2−3−2−6−4

図2−3−2−7

図2−3−2−8