(3)データの処理及び解析方法

重力異常を知ることによって地下構造を推定する方法が,重力調査あるいは重力探査といわれる方法である。より基礎的なことについては河野・古瀬(1989)が参考になる。

ブ−ゲ異常とは,各測定地点毎に異なっている幾つかの目に見える明らかな違いを補正し去った後になおも残っている重力の違いのことである。明らかな違いとは,測定点の位置(緯度,経度),標高,測定点周辺の地形などである。したがって,これらの明らかな違いを補正した後にもなお残る異常は,目に見えない地下構造の違いを反映している。

以下に,重力測定および測定データ処理法について説明する。

@測定

関ケ原町地域を中心とし,周辺の分布も知る必要があるため北東部に位置する伊吹山地とその南西に拡がる丘陵および近江盆地において測定を行なった。測定は,測定機器運搬の都合から自動車の通れる道路上である。測定間隔は概ね 500 m 間隔としたが,この地域は平地と山間部が混在した地域であるため,特に山間部では道路と道路の間にかなりの範囲で測定点が無い地域が生じた。地震波反射法が行なわれた測線やその他必要と考えられた地域では約 50 m 間隔で詳しく測定を行なった。

調査地域の標高は,最小値が岐阜県高田町付近での約90m,最高値は調査地域中央部に位置する伊吹山山頂三角点での 1,377.1 m であった。多くは,百メートル前後である。

調査に用いた地形図は,国土地理院発行1/25,000地形図と調査地域内の各市町村発行の1/5,000地形図および建設省北伊吹山山麓開発調査事務所による1/5,000地形図などである。測定点は,後にその位置を緯度・経度に変換した。

測定点の標高は,測定位置にこれら各種地形図上に記載されている水準点,三角点,独立標高点のどれかがあればそれを採用した。それらのどれも無い場合は地形図の等高線から標高を内挿して推測した。その誤差は 2 m 程度と推測される。標高値のほとんどは独立標高点の値である。それらの誤差は山地部で 1 m 程度と推測され,平野部では 0.2 m 以内である。調査地域中央部において詳細な重力測定を行なったところでは,本調査と平行して行なわれた地震波反射法探査の際行なわれた水準測量の成果を使用した。その精度は 0.1 m 以下である。

測定現場においては,重力計の測定値の他,測定時刻,気温,気圧,簡易GPS装置(Global Positioning System;全地球測位システム)による緯度・経度,などを記載するとともに携帯用コンピュータに入力し暫定的な重力異常値を計算し,測定の妥当性を検定した。また,測定点には目印のマーカーを打込み,現場のスケッチを取ると共に写真を撮影し必要があれば正確に現場に復帰できるようにした。

重力測定には重力値の精密な相対測定ができるLaCoste & Romberg社製G型重力計及びシントレックス社製自動重力計CG−3Mを用いた。

重力基準点としては,金沢大学構内にある国土地理院設置の一等重力点を採用した。測定の最初と最後をこの点で行ない重力計の機能検定を行なった.また,調査地域内の既存の測定点において測定を行ない,測定値の確認を行なった。

今回行なった調査地域内における測定点は計1,000点である。

A重力の基準点と基準値

絶対重力値の基準値は,建設省国土地理院による一等重力基準点(金沢)の値,

 g = 979 841.70 mgal

である。

Bドリフト補正

測定の最初と最後をこの基準点で行ない,必要な全ての補正を行なった後なお残った残差を重力計のドリフト(閉合差)とみなしてその残差がゼロになるよう最初の測定時間からの経過に比例した補正を行なった。

C地球潮汐補正

測定時刻からその時刻における月と太陽の位置を計算し,それらによる引力を補正した。これを地球潮汐補正という。この量は最大でも 0.2 mgal である。

D正規重力補正あるいは緯度補正

測定点の位置は,調査後ディジタイザ−を用いて緯度・経度に変換し計算に使用した。地球自転に伴う緯度による重力値の変化を補正するため1971年国際重力基準網(IGSN71)による正規重力式(1965年測地基準系正規重力式)を用いた。その式は,

 γ=978 031.85(1+0.005 278 895sin2φ+0.000 023 462sin4φ) (mgal)

で与えられる。ここでφは測定点の緯度である。

E大気補正

上式には,大気の引力が含まれているので,それを補正する式

 Atm = 0.87 −0.965×10−4H (mgal)

を用いた。ここでHは測定点の標高(m単位)である。

Fフリーエア補正とフリーエア異常

重力値 g から地下構造の情報を得るには測定点の標高の違いによる重力の違いを補正する必要がある。その一つがフリ−エア補正であり,測定点直下の海水準から測定点までの重力の減少を補正し海面での測定値に変換するものである。その補正値をD1とすれば

 D1=(dg/dz)・H=0.3086H (mgal)

で与えられる。dg/dzは重力の鉛直勾配と呼ばれ,通常 0.3086(mgal/m) の値が使われる。

重力測定値にドリフト補正と地球潮汐補正とをほどこしたものを改めて重力測定値gとする。この重力測定値に正規重力の補正,大気補正とフリ−エア補正をほどこした

 Δg'= g −(γ−Atm) + O.3086H (mgal)

がフリ−エア異常である。

G単純ブーゲ補正

測定点と海水準面との間には物質(岩石)があり,それによる引力が測定値に含まれている。測定値を正しく海水準面での値に変換するには,この引力を補正する必要がある。この補正の内最も単純な方法が単純ブ−ゲ補正と言われるものである。これは,測定点の標高と同じ厚さを持ち無限に広がった平板による引力でもって実際の引力を近似する補正方法である。この補正量をD2とすれば

 D2=−2πGρH

である。ここでπ=3.1415...(円周率),G=6.6732×10−8dyn.cm2.g−2 (万有引力定数),ρは岩石の密度である。物質が花崗岩や古い時代の固結した堆積岩の場合ρは2.67 g.cm−3 に近く,その場合

 D2=−0.1120H  (mgal) (2.67 g.cm−3のとき)

となる。

H地形補正とブ−ゲ異常

実際には,測定点の周りの地形は平板ではない。実際の地形による引力の補正を地形補正と言うが,それは当然ながら測定点ごとに異なり,簡単な式では表わせない。

ここでは,地形を全て数値化し,その膨大なデ−タを用いて計算する方法をとっている。一測定点の地形補正計算のために,数万点の地形データを用いる。地形補正量は測定点の周りの地形によって異なる.日本列島の場合,平野部のゼロから富士山山頂での 140 mgalまでの間の値を取る。多くの場合数mgalである。必ずしも測定点の標高の大きさには関係しない。調査地域では,この値は多くが 1mgal 前後であった。

この地形補正量をTrとすると,海水準面より下の密度分布の違いによる重力異常すなわちブ−ゲ異常は

 Δg"=Δg'−2πGρH+Tr (mgal)

で表わされる。

具体例としてJR関ケ原駅前(緯度351.626',経度1368.418',標高 122.0 m)における各値は次のとおりである(単位は全て mgal)。

 g = 979 708.962,

 γ= 979 763.565,

 Atm = 0.858,   Tr = 1.533,

 D1 = 37.649, D2 = −13.655,

 Δg'= −16.096,   Δg"= −28.218。