(4)関ヶ原断層に関する検討

地形地質調査によって、閉塞丘や鞍部の連続,尾根・河谷の左横ズレ,時代の異なる地層の近接及び断層露頭や破砕帯の分布から、関ヶ原断層の位置を認定した。認定した断層線を覆って分布する低位段丘面上には、低断層崖などの断層変位地形は認められなかった。中位段丘や高位段丘は断層に沿って分布しない。

東海層群に変位が認められる断層露頭及び確実に変位させていると考えられる近接露頭を3箇所発見できたが、更新世後期以降の活動の証拠や繰り返し活動している証拠(活動の累積性)は得られなかった。

反射法探査では、山地前縁の低地部に、東海層群の基底と考えられる反射面にずれが認められ、伏在断層が推定された。地表の低位段丘U面に変位地形が認められないため、低位段丘U面まで変形させた断層活動は起こっていないものと考えられる。

トレンチ調査は、西北西−東南東の変位地形の連続として推定された断層線(F−1断層及びF−1から分岐したF−1−2断層)を対象に2地区(秋葉地区1箇所、丸山地区2箇所)で実施した。

@ 秋葉トレンチ

・基盤の中・古生層はトレンチ底盤には出現しなかった。

・トレンチ近傍で実施したB−4ボーリングにより、基盤の中・古生層の破砕を確認した。

・トレンチ壁面に出現した河成〜湖成堆積物中には断層変位は認められない。

・最古の河成堆積物の14C年代値は15,000〜16,000yBPである。

・西側壁面には堆積構造で説明のできない2箇所の小規模な礫層の落ち込み(イベント1)が確認され、その形成時期が12,000yBPと推定できた。近傍〜遠地地震により形成されたと考えられる。

A 丸山Aトレンチ

・トレンチ底盤には、基盤の中・古生層泥岩が全面に出現した。

中・古生層は、全面が破砕帯であり、黄褐色〜暗灰色の断層ガウジや破砕された岩盤が認められた。

・トレンチ壁面に出現した河成堆積物中や崖錐には断層変位は認められない。 

・最古の河成堆積物の14C年代値は16,000〜17,000yBPである。

B 丸山Bトレンチ

・トレンチ底盤には、基盤の中・古生層砂岩・泥岩が全面に出現した。

中・古生層は、全面が破砕帯であり、黄褐色〜暗灰色の断層ガウジや破砕された岩盤が認められた。

・トレンチ壁面に出現した河成堆積物中には断層変位は認められない。

・最古の河成堆積物の年代値は不明であるが、変位していない地層から得られた最古の14C年代値は390yBPである。

・ここでの14C年代値については、測定そのものに問題はないが、測定を実施した試料はきわめて小さな炭化物であり、地層堆積時にトラップされた試料ではなく二次的に混入している可能性もある。

・東西両壁面では、基盤の中・古生層(美濃帯)から河成堆積物の下部に至る鉛直に近い開口亀裂(開口幅:4〜8cm)が3条観察された(イベント2)。堆積物中の礫は、この開口亀裂に向かって礫の落ち込みが確認され、流入物質が存在しない。

・14C年代測定の結果、開口亀裂の認められる地層の年代値は390yBPであり、開口亀裂の認められない地層の年代値は得られていない。

トレンチ調査では、基盤である中・古生層(美濃帯)中の断層は確認できたが、これを覆う更新世後期以降の堆積物を切断する活断層は認められなかった。また、更新世後期の堆積物には、断層運動に伴うと考えられる地層の撓みや、傾斜は認められなかった。

地震動の痕跡としては、秋葉トレンチでの12,000〜13,000yBPの地層の落ち込み(イベント1)と、丸山Bトレンチで390yBP以降の基盤から堆積物まで連続した開口亀裂(イベント2)が確認された。前者は近傍〜遠地地震により形成されたと考えられ、後者は極近傍での強い地震動により形成されたと考えらえる。

390yBP以降の極近傍の強い地震動としては、

1586年1月18日の天正地震    M=7.8

1891年10月28日の濃尾地震    M=8.0

1909年8月14日の江濃(姉川)地震 M=6.8

の3地震が考えられる。

また、秋葉地区・丸山地区のトレンチ調査の結果10,000yBP以降1,000yBP頃まで地層が欠落しており、この地層欠落期間の前後で河成〜湖成堆積物から土石流堆積物に層相が変化している。この事実から、堆積環境の変化が起こったことが示唆される。

表1−3−6−1に各種調査により得られた活動性に関する事項を示す。

以上の成果をもとに、関ヶ原断層の活動性評価を以下の項目について行う。

@ 最新活動時期

A 再来間隔

B 平均変位速度

C 単位変位量(1回に活動に伴う変位量)

D 想定マグニチュード

E 長期予測

F 今後の課題

G 防災上の提言

@ 最新活動時期

地形地質調査の結果では、関ヶ原断層覆う中位段丘面・高位段丘面は、断層線を覆って分布しないため、最新の関ヶ原断層の活動性評価は困難であると考えられた。

トレンチ調査の結果では、河成及び湖成堆積物の堆積以降(16,000〜17,000yBP以降)の活動の証拠は確認されなかった。

ただし、秋葉トレンチでの地層の落ち込み(イベント1)や丸山Bトレンチでの(イベント2)が認められた。これらは、遠地地震もしくは近傍での地震動の痕跡と考えられる。

特に丸山Bトレンチのイベント2では、極近傍の強い地震動を受けた痕跡と考えられる。このイベント2と歴史地震(歴史地震の起震断層)との関係を把握し、開口亀裂の成因となった起震断層を明らかにしておく必要がある。

A 再来間隔

今回の調査では、断層で変位した堆積層を確認することができなかった。したがって、上記2つのイベントは直接の断層変位を示唆するものではなく、再来間隔は見積もることができなかった。

B 平均変位速度

トレンチやボーリング調査で確認された地層からは、断層変位が直接認められなかったために平均変位速度を見積もることはできなかった。

一方、反射法の結果、東海層群基底と見なした反射面が山地前縁で90〜150m垂直変位している。東海層群の堆積年代を300〜100万年とすれば、平均変位速度は0.15〜0.03 m/千年で、(B〜)C級の活動度となる。ただし、この活動度は更新世後期以降の活動度ではない。

C 単位変位量(1回に活動に伴う変位量)

今回の調査では、基盤を覆う、河成及び湖成堆積物には、断層による変位が確認できなかったため、単位変位量は見積ることができなかった。

D 想定マグニチュード

地形地質調査で得られた関ヶ原断層の長さは、東海層群に変位が認められた部分に限定すれば8kmである。

活断層研究会(1991)によれば、東側延長方向の宮代断層南側の変位地形の連続を関ヶ原断層としているが、地質調査により確認した断層はいずれも南傾斜の断層であり、関ヶ原断層とはセンスが異なるため連続しないと考えた。

しかし、反射法R−3測線により、東海層群基底と見なした反射面のずれから、低地部にも関ヶ原断層と同一センスの伏在断層が推定でき、これまで含めると長さは最大9kmが見込まれる。

内陸性の地震断層においては、長さLや単位変位量Dと地震のマグニチュードMの関係が松田式(松田(1974))により以下のとおり知られている。

Log L = 0.6 M − 2.9 (Lの単位はkm)

Log D = 0.6 M − 4.0 (Dの単位はm)

この式に、L=8km,9kmを代入すると、推定されるマグニチュードはそれぞれM=6.3,M=6.4となる。

E 長期予測

今回の地形地質調査(空中写真判読や地表踏査)では、東海層群には、断層活動に伴う変形が露頭で確認された。

しかし、トレンチ及びボーリング調査では、基盤を覆う河成及び湖成堆積物には断層変位による変位を確認することはできなかった。

したがって、河成及び湖成堆積物の堆積以降(16,000〜17,000yBP)以降に断層は活動していない。

トレンチ調査により関ヶ原地域の2つの地震イベント(イベント1及びイベント2)が得られた。

丸山Bトレンチでは極近傍の強い地震動により形成されたと考えられる開口亀裂(イベント2)が認められ、これは開口している地層の14C年代値(補正年代)より、16世紀後半以降の地震に対応すると考えられた。

しかしながら、今回の調査では、再来周期が求められなかったため、地震の長期予測を行うための情報は得られなかった。

F 今後の課題

以下の事項が関ヶ原断層に対する課題として残されている。

・委員会では、開口亀裂が認められた地層の14C年代値(補正年代)の信頼性に対する議論が行われた。議論の結果、測定手法は信頼性のあるものであり、得られた結果についても層序的な矛盾もないが、年代測定を行った試料(小さな炭化物や材化石)に対する信頼性が十分ではない可能性があるとの結論に至った。今後、同じ地層から信頼性の高い年代測定試料を採取し、地層の年代測定を行い信頼性を高めていく必要があるとの指摘を受けた。

・反射法により推定された伏在断層の有無を確認するため、東海層群の基底面と考えられる反射面のずれを直接的に確認する。及び、低地部での   基盤深度を直接的に確認する必要がある。

関ヶ原断層帯に対しての今後の課題は次のものがある。

・地形地質調査の結果では、低位段丘面に宮代断層の活動により形成された考えられる撓曲崖が認められた。宮代断層の断層活動と撓曲崖との関連を明らかにしておく必要がある。これによって、不十分であった関ヶ原断層の活動性を補うことができる可能性がある。

また、養老断層−柳ヶ瀬断層間の地震のポテンシャル調査の一環として、今須断層,池田山断層を含めた活動性調査があげられる。

G 防災上の提案

今回の調査では、関ヶ原市街地を南北方向に横断する延長2km,深度500m程度までのP波速度構造断面が反射法により得られた。速度分布から地震動を増幅する軟弱層の分布は認められなかった。反射法測線近傍で実施した深度100mのボーリング(B−1)でも軟弱層の分布は認められなかった。したがって、軟弱層や未固結の砂層の分布する地域と比較して、地震動の増幅や液状化の発生に対して発生危険度の低い地盤であると見なされる。

また、B−1では、ダウンホール法によるPS検層とコアの密度測定によって、深度44mまでの速度比(Vp/Vs)とコアの密度が求められた。これらの成果を利用して、動的な地震応答解析を実施することにより、交通の要所である関ヶ原周辺の起震断層毎の工学的な影響(地表加速度や最大変位等)を把握しておくことが防災上有効である。

一方、丸山Bトレンチで発見された開口亀裂は、極近傍での強い地震動により形成されたと考えられる。この開口亀裂は、関ヶ原周辺の地域にも分布していると考えられる。今後も、極近傍での強い地震動により同様な亀裂が形成される可能性もあり、施設の種類によっては影響を考慮する必要がある。