(1)地形調査結果

使用した空中写真の一覧を表1−3−2−1に示した。

地形区分にあたっては、杉山ほか(1994)を参考にした。

本調査地域の地形区分は、表1−3−2−2の区分で実施した。

空中写真判読により予察図を作成し、現地で地形面構成層の確認を行い、成果となる1/25,000地形分類図を作成した。1/25,000の地形分類図は付図に添付した。

また、断層変位により形成されたと考えられる地形抽出し、図1−3−2−1−1図1−3−2−1−2断層変位地形分布図として示した。解説は表1−3−2−3に示した。

1)地形面区分のまとめ

調査地域の地形は、大局的には山地と低地に区分される。

(山地)

伊吹山地は中・古生層(美濃帯)からなる山地で、最南端に位置する伊吹山(1,377m)を最高峰に、1,300m前後の峰々が連なっている。山地を開析する河川は南北方向が卓越している。伊吹山の南西斜面には大規模崩壊を示唆する馬蹄形に窪んだ斜面がみられ、山麓部には崩壊物質によってできた流れ山(小丘)が数多く分布している。山腹斜面にみられる小規模な崩壊地・崩壊跡地はまとまった分布傾向はない。

(低地)

伊吹山地西部〜南西部や南宮山北東の山麓では小さな谷の出口に扇状地が形成されている。隣接する扇状地は互いに重なり合い、山麓部に一連の緩傾斜地が形成されている。主な河川に沿っては段丘が形成されており、上位よりM面、L1面、L2面として区分した。段丘面の形成年代については、調査地域内の段丘に関する既存の研究事例がないため、鈴鹿山地東縁での研究事例(太田・寒川(1984))を参考にして、M面は約5〜8万年前、L1面が2〜3万年前、L2面が1.5万年前と推定した。

M面は開析が進み段丘面としての保存は悪い。L1面との比高は十数m程度である。

L1面はM段丘面と比較して、面の保存が比較的よい。分布範囲は狭く、スポット的に分布している。L2面との比高は数m程度である。

L2面は段丘面の保存が良好で、多くの箇所で宅地等として利用されている。 主な河川に沿っては谷底平野が形成されているが、その幅はせいぜい500m程度である。

2)断層変位地形のまとめ

調査地域内には段丘面上の低断層崖・撓曲崖,鞍部の連続,閉塞丘,尾根・谷の屈曲,三角末端面など、断層変位地形が分布する。

垂井町宮代から養老町橋爪の山麓部ないし低位段丘面上には、上下変位量数mの低断層崖や撓曲崖などが分布している。

地質的な脆弱部を示すと考えられる鞍部の連続は、高月町高野〜伊吹町吉槻の山中や関ヶ原町玉〜秋葉の山麓部、関ヶ原町野上〜垂井町栗原の山中などに連続的に分布している。

閉塞丘や尾根・谷の屈曲は高月町高野〜浅井町鍛冶屋の山中や伊吹町藤川〜関ヶ原町秋葉の山麓部などに連続的にみられる。ずれの大きさは場所によって若干異なるが、数十m〜百数十m程度である。

これらの断層変位地形はいずれも左横ずれのセンスを示している。

浅井町醍醐〜伊吹町伊吹や伊吹町弥高〜関ヶ原町玉の山脚末端部には三角末端面が連続的に分布している。

これらの変位地形は、宮代地区周辺の低断層崖・撓曲崖がL2面(約1.5万年前)を変位させている以外は、いずれも段丘面を変位させていない。

関ヶ原断層帯を構成する各断層はそれぞれ以下のように判読される。

@ 鍛冶屋断層

鍛冶屋断層は直線状の谷、尾根・谷の屈曲、断層鞍部などの変位地形として地表面に現れている。空中写真判読で確認できる断層の長さは約10kmである。尾根・谷の屈曲は全て50〜100m程度の左横ずれを示すが、垂直方向の変位はほとんどみられない。なお、断層変位との直接的な関係は不明であるが、浅井町鍛冶屋ではL1面上で直線状の谷の延長線上にあたる箇所に直線的な浅い谷が形成されている。

A 醍醐断層

醍醐断層は、伊吹山地西麓の山脚末端部が開析された三角末端面となっていることからその存在が推定される。三角末端面は、浅井町小野寺付近では北−南方向に配列しているが、浅井町今荘付近から徐々に方向をかえ、伊吹町伊吹付近ではほぼ東−西方向となっている。空中写真判読で確認できる断層の長さは約7kmである。山側が相対的に隆起しており、現在の地形のみから判断すると横ずれの変位量は小さい。山麓部には小さな河川によって形成された扇状地がみられるが、これらは隣接する扇状地と互いに重なり合いながら山麓部の広い範囲を埋め立てている。このため、醍醐断層の古い時代の活動の痕跡を地形から求めることは困難であるが、扇状地にも断層変位地形が認められないことから、少なくとも最近数千年間程度は活動していないと考えられる。

B 関ヶ原断層

関ヶ原断層は、尾根・谷の屈曲、断層鞍部、閉塞丘、三角末端面などの断層変位地形によって存在が推定できる。空中写真判読で確認できる断層の長さは約9kmである。断層に沿う尾根・谷の屈曲は全て50〜200m程度の左横ずれを示し、垂直的には北部山地が相対的に隆起しているようである。推定断層線は数ヶ所で沖積面、段丘面を横断すると考えられるが、これらの地形面に断層変位地形は認められない。関ヶ原町笹尾山付近から秋葉付近にかけては閉塞丘が連続し、断層鞍部や尾根・谷の屈曲など断層変位地形が特に明瞭である。

C 宮代断層

宮代断層は、低断層崖・撓曲崖によって存在が推定される。垂井町宮代付近では北西−南東方向に伸びているが、南部では北−南の方向性を持っている。空中写真判読で確認できる断層の長さは約6kmである。宮代付近の撓曲崖では、L2面の上下変位量が4mであるのに対し、L1面の変位量が8mであることから(杉山ほか(1994))、変位の累積性が認められる。L1面とL2面の形成年代は0.5〜1.5万年の時間差があることから、単純に考えると宮代断層の平均変位速度は0.27〜0.8m/1,000年程度であると推定される。

図1−3−2−1−1  断層変位地形分布図(1/2)

図1−3−2−1−2  断層変位地形分布図(2/2)

表1−3−2−2−1  変位地形一覧(1/3)

表1−3−2−2−2  変位地形一覧(2/3)

表1−3−2−2−3  変位地形一覧(3/3)