(1)地形地質,断層分布に関する文献調査結果

関ヶ原断層帯およびその周辺の地形・地質、断層系に関する文献は、表1−3−1−1の13文献を収集した。

@ 関ヶ原断層帯の地質 

本調査地域は、北西端を滋賀県木之本町とし南東端を岐阜県養老町とした東西に伸びる幅約4〜6km、長さ約32kmの狭長な範囲である。

地質に関する文献としては、磯見(1956)、経済企画庁(1968)、杉山ほか(1994)がある。

これらによれば、関ヶ原断層帯に沿った地域の地質は、古い方から地体構造区分で美濃帯に属する中・古生層(ジュラ〜最前期白亜系)、鮮新−更新統(?)東海層群、および第四紀の岩屑流堆積物,段丘堆積物,扇状地性堆積物,沖積層,崖錐堆積物である。

本地域の基盤岩である中・古生層(美濃帯)は山地を形成し、砂岩,泥岩(頁岩),チャート,緑色岩,石灰岩等の多様な岩相からなる。滋賀県−岐阜県境に位置する伊吹山に石灰岩が分布しており、これを対象とした研究が古くからなされており、石灰岩中からフズリナの産出,伊吹山周辺地域からの放散虫産出が報告されている。また、中・古生層(美濃帯)をユニットに区分し、ユニット間のテクトニックが論じられている文献もみられる。

鮮新−更新統の地層は分布が限られ、調査地域東部の南宮山付近に分布が示されているのみである。周辺地域では、鈴鹿山地東縁に広く分布が示されている。層相は、シルト層,礫混じりシルト層,砂礫層であり、固結度が高い。調査内では、これまで研究された事例がない。杉山ほか(1994)では、関ヶ原断層の断層露頭の記載として固結した礫層を報告し東海層群上部層と推定しており、調査地内には、示されている分布以外にも低位段丘の下位に広く分布し、断片的に露出している可能性が高い。

岩屑流堆積物は、伊吹山南西部〜西部にかけて狭小に分布する。伊吹山が崩壊源と考えられているものの、崩壊の発生時期・崩壊原因の報告はなされていない。岩相は、中・古生層(美濃帯)の偽礫や礫岩からなる。

段丘堆積物は、関ヶ原市街地付近を中心に、主要河川沿いに広く分布し低位・中位・高位段丘区分されている。層相は砂礫層(一部粘土層)主体である。本地域に分布する段丘堆積物の年代について研究された事例はない。

周辺地域の段丘の形成年代の研究としては、鈴鹿山地東縁での太田・寒川(1984)がある。これによれば、分析による年代は得られていないものの、段丘の開析度,段丘堆積物の風化度,沖積面との関係を考慮して以下のように推定している。鈴鹿山地東縁から本調査地域まで低位段丘堆積物の連続が示されており、空中写真判読による地形面対比が行えれば、本調査地区でも、太田・寒川(1984)の地形面形成年代に対比できる可能性がある。

表1−3−1−2 地形面の形成年代 太田・寒川(1984)

扇状地性堆積物は、伊吹山の南麓及び七尾山の南麓及び西麓には分布する。また、南宮山東縁に狭小に分布する。層相は砂礫層であり、構成物質は背後の中・古生層(美濃帯)の岩種により異なる。形成年代は、年代値等の報告はなされていないが、低位段丘を覆っていることから完新世と考えられる。

沖積層は、垂井町市や長浜市の氾濫平野堆積物や主要河川や小河川沿いの谷底平野として分布する。主にルーズな泥・砂・礫からなる。

崖錐は、山地と低地の境界付近に普遍的に分布する。主にルーズな泥・砂・礫からなる。

A 岐阜県内の断層系 

岐阜県内の活断層は、活断層研究会(1991)によれば、確実度Tのものだけでも北東−南西方向と北西−南東方向の2方向に走る140条程度が分布しており、そのうち松田(1990)による地震規模の大きい起震断層で比較的連続するものは16断層(帯)(富山・滋賀・三重県に連続するものを含む)である。図1−3−1−1に岐阜県周辺の活断層分布図を示し、表1−3−1−3に岐阜県内の主要起震断層表を示す。

このうち、跡津川断層や阿寺断層・根尾谷断層は、歴史地震の起震断層として知られ、トレンチ調査等が行われている。調査がなされていないA級の可能性のある活断層の内、断層長が長く地震規模が最大のものは関ヶ原断層帯であり、交通の要所となっていることから、調査対象として選んだのは妥当と考えられる。

図1−3−1−1 岐阜県周辺の活断層分布図(活断層研究会(1991)より引用・一部加筆)