4−2−1 深作・膝子地区(大宮地区)について

深作地区の綾瀬川断層は、ほぼ見沼代用水に沿って見られる台地面境界線、また、南の膝子地区については綾瀬川沿いの低地西縁部に想定されていた。

これを挟んだ反射法弾性波探査、ボーリング等の調査結果から、当地区における綾瀬川断層について、次のことが言える。

@反射法弾性波探査の結果、A,B両測線とも浅部は明らかではないが、深度100〜150m以深では上記推定断層位置付近において、反射面の傾斜が変化する部分が、その両側に認められ、わずかではあるが、下方へ累積する傾向にある。

Aまた、A、B両測線を比較すると、TB−7,8を含む火山灰層は標高−19m付近と殆ど差がみられない。B層基底面の礫層下面及びa−2,a−3火山灰層を含むシルト、火山灰層のグループはB測線に比べ、北側に位置するA測線では3〜4m下位に位置するが、下位のa−4,a−5火山灰層を伴うシルト層はA,B測線とも−81〜−82mに連続して検出されており、少なくとも深度100mまでの範囲での南北方向に関しての変位の累積は認められない。

B清水・堀口(1981)は、地形解析・浅層部のローム層・硬砂層の分布等から、深作地区で約6mの段差が認められるとし、綾瀬川断層の根拠の一つとした。一方、堀口・角田(1987)では、標高−18m〜−19mにみられる腐食土混じりシルト層の分布が見沼代用水を挟んで60cmの高度差が見られることを示している。今回の調査でもほぼ同レベルに検出されているが、ここからはTB−7,8の広域テフラを検出している。このTB−7,8テフラを含む層は、東の岩槻台地までよく連続する。

以上のことから大宮地区(深作・膝子)においては、浅部、少なくとも深度100m以浅までは、断層・撓曲等に伴う変位を受けている積極的な証拠は得られない。しかし、深部では反射法弾性波探査の結果が示すように、綾瀬川断層が推定された位置を中心として地層の傾斜が変わる等の変形が認められ、基盤の変位が浅部に及んでいる可能性がある。

次に活動度について検討する。

本調査では、ボーリング調査により地層分布の確認できる深度100m付近では、TB−7,8の分布など、下総層群中部に対応するものと考えられ、30万年前後の年代に相当する可能性が強い。さらに標高−210m付近でB−M境界にあたる約73万年の年代が推定できる。

活動度に関しては、変位の認められる地下深部における地質資料に乏しく、確定的な判断は困難である。また、深度200m付近の年代を、古地磁気測定結果からB−M境界で約70万年と考えた場合、B測線で約30mの変位量が認められる(反射法弾性波探査の結果より)。また、当地域では上総層群基底の標高が約−1000m付近に位置するものと考えられ(図4−2,鈴木(1996)他)、その年代を鮮新世中部の約300万年とみた場合、この300万年間の累積量はB測線で約20mである。A測線では、累積傾向が見られるのは200m以深であり、−200m地点での変位量を"0"と仮定すると、−1000m地点では約50mの変位となる。

仮に、B測線において、過去70万年間における変位量が30m、300万年〜70万年間の累積量が20mであったと仮定すると、その1000年当たりの変位速度Sは、それぞれ、約4.3cm、0.9cmである。

また、A測線で同様に考えた場合、300万年〜70万年間での変位が約50mであると仮定でき、1000年当たりの変位速度Sは、約2.2cmとなる。

新編日本の活断層では、活動度の評価として以下に示す分類がある。

A級 10m > S ≧ 1m

B級 1m > S ≧ 0.1m

C級 0.1m> S ≧ 0.01m

上記の変位速度を「新編日本の活断層」の活動度評価に当てはめた場合、最大見積もってC級の活動度と評価できる。

特に後期更新世の少なくとも20〜30万年以降は、調査対象地内については目立った活動が見られないといえる。