(1)原理

大気の上層で宇宙線の作用によって作られた14Cは、放射性の二酸化炭素14COとなって通常の二酸化炭素に混じり、生物を媒介とする炭素の循環により地球上に一定の濃度で分布するとされている。生物体に固定された14Cは、生物の死後その遺体中の炭素が、空気中の二酸化炭素COや水圏の炭素イオンと交換しない場合、その生物遺骸中の14Cはその半減期によってβ−壊変し次第に減少する。このような生物体内中に含まれる。14Cの減少を利用した年代測定法が14C年代測定法である。

14C年代測定法の前提条件は、

@14Cの初期濃度が正確であること

A測定試料が、外部との炭素の交換が断たれた閉鎖系であったこと

B14Cの半減期を性格に把握している

の3条件である。

@については、大気の二酸化炭素の14C濃度に数%の経年変動や、特殊な生物試料で初期濃度にずれのある可能性が判明している。しかし、現在適用されている14C年代測定法では、14Cの初期濃度は試料の種類によらず経年的に一定であったと仮定され、通常NBS蓚酸標準体の14C濃度の95%の値を14Cの初期濃度として使用している。

なお、この濃度値は1950年の14C濃度である。

また、Bの14Cの半減期については現在、5,730±40年が最も信頼し得る値として考えられているが、14C年代値の産出にあたっては半減期を変更することによる混乱を避けるため、Libbyの半減期5,568±30年を用いている。

14C年代計算の基本式は、14Cの初期濃度をN0、測定試料の14C濃度をN、14Cの壊変定数をλとすると、以下のように表される。

式3−5−2

また、δ14Cは、NBS蓚酸標準体の14C濃度の95%をNS、測定試料の14C濃度をNとすると次のように定義される。

式3−5−3

この式から

式3−5−4

ここで、Libbyの半減期を用いると、λ=1.2449×10−4yr−1となり、この値と(3)を(1)に代入して整理された以下の式で年代値を求める。

式3−5−5

なお、バックグラウンド、標準体および試料の14C濃度の測定に統計的誤差が内在するため、通常標準偏差(1σ)を各測定年代値に付与する。

また、測定誤差とは別に、14C年代測定には様々な原因の誤差が含まれる。その要因としては、14Cの半減期の差、大気中の14C濃度の地域差、大気中の14C濃度の経年変化、陸水・海水の14C濃度の差、生物の同位体分別効果などが考えられる。同位体分別効果による補正は以下の式で行う。

式3−5−6

ここで(13C/12C)sampleと(13C/12C)standardはそれぞれ試料およびPDB−標準体(Belemnite化石、13C/12C=0.0112372)の13C/12C比である。

 NBS蓚酸標準体が導入される以前は、14C年代の標準体として木材が用いられていたことから、同位体効果の補正には平均的木材のδ13PDB値(−25‰)を標準値として用いる。試料のδ13PDB値が−25‰からずれている場合には、同位体効果の補正を行った14C濃度は次式によってΔ14C値で与えられる。

式3−5−7

試料の14C年代値はこのΔ14Cを用いて、

式3−5−8

として計算される。