(3)古植生と古気候の変遷

前述のように、13の局地花粉帯を設定した。

ここでは、現在の資料に基づいて、]V花粉帯からT花粉帯までの大まかな植生の変遷と気候変化について考察する。図3−5−11はb`−1孔〜ba−5孔の花粉帯の対比と各花粉帯の主要花粉を示したものである。

]帯で Cyclobalanopsis,Liquidambar の花粉が産出することから、この帯ではやや冷涼さがゆるんだと考えられる。

\帯になると,Cryptomeria や Pinus などの針葉樹林が広がった。冷涼ではあるが降水量が増加した。

[帯になると、落葉広葉樹林に Cyclobalanopsis などの常緑広葉樹が伴われるようになり、やや温暖化したと考えられる。

Z帯では、再び Fagus,Quercus,Ulmus−Zelkova の落葉広葉樹林となり、下位より冷涼化した。

Y帯では Pinus,Picea,Cryptomeria などの針葉樹林が拡大した。降水量の増加と若干の気候の悪化が考えられる。

X帯になると、Picea,Pinus,Tsuga などの針葉樹林がさらに拡大し、気候もさらに冷涼化した。

W帯になると、Ulmus−Zelkova,Fagus,Quercus などを主とする落葉広葉樹林が拡大し、やや気候のゆるみが認められる。局地的にAlnusの繁茂する湿地が広がった。

V帯になると、Cryptomeria はほとんど消滅し、落葉広葉樹とマツ科の針葉樹に覆われた。

U帯では、再び Cryptomeria が増加するとともに Cyclobalanopsis や Lagerstroemia などを伴う落葉広葉樹林が広がり、降水量の増加と気候の若干の暖化がうかがえる。

T帯になると、Cryptomeria や Pinus,Picea などの針葉樹が優勢となり、落葉広葉樹を伴うようになった。Alnus も局地的に繁茂した。気候は下位より冷涼化した。

]V帯から]T帯にかけて、この地域には Quercus,Ulmus−Zelkova を主とする落葉広葉樹林が広がっていた。Pinus もわずかに混ざっていたであろう。]U帯では Fagus が若干減少し、]T帯では Ulmus−Zelkova が減少したが、大きな変化はなかったものと考えられる。やや冷涼な気候が推定される。

以上のように見てくると、全体としてやや冷涼な気候が支配していた中で、少なくとも]帯,[帯,U帯において若干の気候のゆるみが認められる。

また、[帯では Liquidambar が産出し、地蔵堂に対比される春日部90KKコアの Fagus−Cyclobalanoposis 帯(B1層)や横浜の山王台ローム層層準の Fagus−Cyclobalanoposis 帯に対比される可能性ある。

〈 引用文献 〉

関東平野中央部花粉グループ(1994)関東平野中央部ボーリングコアの花粉層序.地団研専報,No.49,pp.121−150

西村祥子(1980)横浜市における中・上部更新統の花粉群変遷.地質学雑誌,Vol.86,pp.275−291