@化石帯T:Buccella frigidaが優勢で、Ammonia japonica, Elphidium exc−avatum forma excavataなどを伴う、中程度の種多様度の群集からなる。これらの種群は、中間温帯性外洋水の影響の強い、外洋に面した内部浅海域の砂泥底環境を示唆する。
A化石帯U:この化石帯は Murrayinella takayanagii がとくに卓越する群集で、種多様度が著しく低い。Murrayinella takayanagii は非常に小型の有孔虫で、Matoba (1970)によって宮城県松島湾の湾口部(outer bay facies)より報告された。現生種としては、そのほかに福島県松川浦の外洋側でも報告されている(高柳,1955)が、いずれの地域においても、産出頻度は小さい。
この化石帯の群集に随伴する種のうち産出頻度の高いものは、Buliminella e−legantissima, Haynesina spp., Rosalina spp.など、いずれも小型の個体である。また、種多様度が著しく低いことから、波浪や潮流の影響がほとんどない泥底環境が示唆される。一方、わずかながらも浮遊性有孔虫を含むことから、外洋水の影響も無視できない。したがって、湾口部で外洋水の影響を多少受けるものの、流速の弱い堆積場が想定される。なお、後述する春日部のボーリング試料(金子ほか,1994)には、この群集に相当するものは報告されていない。
B化石帯V:この化石帯では Buccella frigida が卓越し、Ammonia japonica,Pseudononion japonicum,Pseudorotalia compressiusculaおよびElphidium ad−vena を伴う群集で中程度の種多様度を有する。このことから堆積環境として、黒潮系暖流水の影響を若干受ける、外洋に面した内部浅海域の砂泥底環境が考えられる。
これと同様の群集が春日部のボーリング試料からも報告されている(金子ほか,同上)。すなわち、そこでは深度600mの孔から12帯の有孔虫化石帯が識別されたが、それらのうち掘削深度73.10−91.21mの「3帯」の群集は Pseudononion jap−onicum,Ammonia japonica を主とし、Nonion manpukuziensis, Pseudorotalia gaimardii(本報告のPseudorotalia compressiuscula)を伴うとされている。
C化石帯W:この群集は Pseudorotalia compressiuscula, Pseudononion ja−ponicum, Ammonia japonica, Nonion manpukuziensisが多産し、Buccella te−nerrima, Elphidium advena, Nonionella stella などを随伴する。また、種多様度は比較的高い。これらのことから、この化石帯は化石帯Vよりもさらに黒潮の影響を受ける内部ないし中部浅海域で堆積したものと推定される。
D春日部のボーリング試料における「4帯」(掘削深度116.85−120.60m)の群集(金子ほか,同上)は Ammonia japonica,Nonionella stella, Pseudorotalia gaimardii を主とし、Nonion manpukuziensis,Ammonia ketienziensis angul−ataを伴うことなどの点で、化石帯Wのものと共通性が高い。
化石帯X:この化石帯の群集が Ammonia beccarii, Haynesina sp.を主とする種多様度の低い群集であることから、やや低塩分な内湾域の堆積環境が示唆される。なお、春日部のボーリングの同様の深度からは、これに相当する群集は報告されていない。
〈 引用文献 〉
秋元和美・長谷川四郎(1989)日本近海における現生底生有孔虫の深度分布−古水深尺度の確立に向けて−.地質学論集,(32), 229−240.
金子 稔・石川博行・山岸良江(1994)関東平野中央部ボーリングコアの底生有孔虫化石群集に基づく古環境復元.地団研專報,(42), 77−90.
米谷盛寿郎・井上洋子(1973)微化石研究のための効果的岩石処理法について.化石,(25−26), 87−96.
Matoba, Y.(1970)Distribution of Recent shallow water foraminifera of Matsushima Bay, Miyagi Prefecture, Northeast Japan. Sci. Rept. Tohoku Univ., 2nd Ser. (Geol.), 42 (1), 1−85.
高柳洋吉(1955)松川浦付近の有孔虫.東北大地質古生物邦報,(45), 18−52.
高柳洋吉(編)(1978)微化石研究マニュアル.朝倉書店,東京,161p.