大気中で宇宙線により形成された14Cは直ちに、14CO2に酸化され、周囲の12CO2や13CO2と混合されて地球表面の炭素循環に従って混合分化されていく。14Cの半減期は5730年と長いため大気中のCO2はよく混合されており、大気CO2の14C濃度(通常、安定炭素12Cの個数に対する14Cの個数の比、14C/12C比で与えられる)は地域差がほとんどない。従って、近代工業の成立による化石燃料(石炭、石油は14Cを含まないdead carbonである)の使用量の増加に伴う14C濃度の希釈や核実験起源の人工14Cの付加による14C濃度の増加がなかった19世紀半ば以前では、大気CO2の14C濃度は地球上のどこでもほぼ一定であったと考えられている。
植物が炭酸同化作用で大気中のCO2を植物体内に固定するとき12C、13Cとともに14Cも同じ比率で取り込まれ、生きている植物体また植物体を食して成長する動物体の14C濃度は大気CO2の14C濃度とほぼ等しい。ところが植物体が死ぬと同化作用が止まり、生物体内の14Cは大気中の14CO2から新たに補充されることなく、14Cの半減期に従って時間の経過とともに一定の割合で減少する。この14C濃度の減少の割合から生物体が形成されたときの年代を推定する方法が14C年代測定法である。
b)試料の採取
14C年代測定のために採取する試料はすべて過去のものであり、現代の炭素物質に比べ14Cの濃度が低い。従って、現代の炭素を含む物質が混入しないように細心の注意を払わなければならない。
微細な炭片などは金属製のピンで採取し、アルミ箔で包み、ポリエチレン袋に入れ封をした。木片などもアルミ箔で包み、ポリエチレン袋に入れ封をした。泥炭層では、金属製のへらやミニスコップで、なるべく薄く(1cm程度の厚みで)採取し、同じくアルミ箔で包み、ポリエチレン袋に入れ封をした。
c)測定方法
測定方法は大きく分けて以下の2つの方法がある。
β線計数法 間接法
加速器質量分析法(AMS) 直接法
β線計数法は放射壊変で放出されるβ線を計測し、14C濃度を分析する方法であり多量の試料を必要とする。
加速器質量分析法(AMS法)は、14Cが壊変する際に放出されるβ線を検出するのではなく、14C原子自身を直接検出する方法である。加速器質量分析法はβ線計数法に比べ、以下のような長所がある。
1、測定に必要な炭素の量が従来のほぼ1/1000(0.2〜2mg)である。
2、測定時間が1試料当たり2〜5時間(試料の年代により異なる)と短い。
3、計測の自然計数(バックグランド)が極めて低いため、測定可能年代の限界が長くなった。従来法の3〜4万年B.P.から約6万〜6万5000年B.P.までのびた。
4、常に標準試料と交互に計測するため、測定誤差が±1%以下になった。
今回はこのAMS法を用いて年代測定を行なった。