No.1 11.9〜12.0m
No.2 24.1〜24.2m
以下に分析法およびその結果について記す。
(1)分析方法
(a)原理
火山から噴出した火山灰は、その時点における地表あるいは水中(湖沼、内湾、海洋)に上空から降り注ぎ堆積する。多少の時間的な差を無視すれば、火山灰が堆積するのは地質学的には同時といってよい。従って離れた地域の地層の中に同一の火山灰が見いだされれば、その火山灰が挟まれる地層の岩相に関わりなく、火山灰の直下の地層面は同時に存在していたことになる。いま離れた地域でお互いに連続して堆積している地層中に同一の火山灰が挟まれているなら、少なくとも火山灰の直下に存在している地層は同時期に堆積していたということができる。このことを利用すれば、調査地点ごとに得られた柱状図中に同一の火山灰を見いだすことにより同時期の地層を識別することができる。
(b)試料の分析方法
1)前処理
まず半湿潤状態の生試料を適宜採取秤量し、50゚Cで15時間乾燥させる。乾燥重量測定後、2リットルビーカー中で数回水替えしながら水洗し、そののち超音波洗浄を行う。この際、中性のへキサメタリン酸ナトリウムの溶液を液濃度1〜2%程度となるよう適宜加え、懸濁がなくなるまで洗浄水の交換を繰返す。乾燥後、篩別時の汚染を防ぐため使い捨てのフルイ用メッシュ・クロスを用い、3段階の篩別(60,120,250mesh)を行い、各段階の秤量をする。こうして得られた120〜250mesh(1/8〜1/16)粒径試料を比重分別処理等を加えることなく、封入剤(Nd=1.54)を用いて岩石用薄片を作成した。
2)全鉱物組成分析
前述の封入薄片を用い、火山ガラス・軽鉱物・重鉱物・岩片・その他の5項目について1薄片中の各粒子を無作為に200個まで計数し含有粒子数の量比百分率を測定した。
3)重鉱物分析
主要重鉱物(カンラン石・斜方輝石・単斜輝石・角閃石・黒雲母・アパタイト・ジルコン・イディングサイト等)を鏡下で識別し、ポイント・カウンターを用いて無作為に200個体を計数してその量比を百分率で示した。なお、試料により重鉱物含有か少ないものは結果的に総数200個に満たないことをお断りしておきたい。この際、一般に重鉱物含有の少ない試料は重液処理による重鉱物の濃集を行うことが多いが、特に火山ガラスに包埋された重鉱物はみかけ比重が減少するため重液処理過程で除外される危険性があり、さらに風化による比重変化や粒径の違いが組成分布に影響を与える懸念があるため、今回の分析では重液処理は行っていない。
4)前処理で作成した検鏡用薄片中に含まれる火山ガラス形態を吉川(1976)*(1)に準拠して識別・分類した。なお含有率を測定するために200個の粒子を測定した。その過程で火山ガラスの有無もチェックした。
5)火山ガラスの屈折率測定
前処理により調製された120〜250mesh(1/8〜1/16mm)粒径試料を対象に、温度変化型屈折率測定装置(RIMS)を用い火山ガラスの屈折率を測定した。測定に際しては、精度を高めるため原則として1試料あたり30個の火山ガラス片を測定するが、火山ガラス含有の低い試料ではそれ以下の個数となる場合もある。
具体的な測定データは表5−1、表5−2、表5−3、表5−4に示す。まず最上位に試料名(SeriesおよびSample Name)が印刷され、ImmersionOilは測定に使用した浸液の種類を示している。火山ガラスの屈折率ndの式は浸液温度から対応する屈折率を換算するもの、ndは屈折率、tは温度を示す。
温度変化型屈折率測定法は火山ガラスと浸液の屈折率が合致した温度を測定することにより、各浸液ごとに決められた浸液温度と屈折率の換算式から火山ガラスの屈折率を計算して求める方法である。(As.+De.)/2は液温制御の際の上昇時(Ascent)と下降時(Descent)の平均値を意味する。繁雑さを避けるためここでは測定温度を表示せず、各火山ガラス片毎の屈折率のみを表示した。
測定された屈折率値は最終的にTotalの項にまとめられる。Count、min、max、range、meam、st.dev、skewnessはそれぞれ屈折率の測定個数、最小値、最大値、範囲、平均値、標準偏差、そして歪度である。屈折率のhistogramの図は縦方向に屈折率を0.001きざみで表示し、横方向にその屈折率をもつ火山ガラスの個数が表現される。*一つが1個の火山ガラス片の測定結果を示す。
6)鉱物の屈折率測定
基本的には火山ガラスの屈折率測定と同様な操作を経て測定作業を行うが、鉱物の屈折率測定は光学的方位をチェックする必要がある点で大きく異なっている。今回の測定は、屈折率の精度を高めるため30結晶を測定した。対象鉱物は斜方輝石で、横山・山下(1986)*(2)に準じ対象鉱物片の屈折率を測定した。
*(1)吉川周作(1976):大阪層群中の火山灰層について.地質学雑誌.82(8),479−515.
*(2)横山卓雄・山下 透(1986):温度変化型屈折率測定装置(RIMS−86)による斜方輝石・角閃石の屈折率測定の試み.京都大学教養部報告(九十九地学)第21号.
(3)分析結果
分析結果を表5−5に示す。
これらの2つの火山灰層は、粘土層より下位に挟在されるという層準および層厚・層相が類似する。また鉱物組成および重鉱物組成、火山ガラスの形状および屈折率が酷似する。従って、これらが対比される事は、ほぼ確実である。また、これらの火山灰層はガラス質火山灰で、吉川(1976)の分類による多孔質型ガラスが主体である。重鉱物は両輝石型、角閃石および黒雲母を全く含まず、不透明鉱物を多く含む、またガラスの屈折率のレンジが比較的高い、など多くの特徴を持つ。これらの特徴をすべて有する火山灰層は、既存のデータでは池田下火山灰(大阪層群最下部団体研究グループ、1992)しか存在しない(図5−7)。この火山灰層は、Ma4層とMa5層の間の砂層中に挟在され、本調査地南部に隣接する松尾丘陵で記載されているため(図5−8)、本調査地域に存在する可能性は高い。