2 調査結果の概要

空中写真判読、地表踏査および大原町西町で実施したトレンチ調査の結果から、大原断層の諸元が概ね明らかになった。

大原断層については、勝田町豊成以西では変位地形は不明瞭となり、本報告書では変位地形が明瞭な範囲である岡山県勝田町豊成付近から兵庫県山崎町青木付近までの長さ約26Kmを大原断層とした。

“新編日本の活断層”活断層研究会(1991)で記載されている土万断層と一部重複するが、変位地形の連続性から大原断層の延長としては妥当と判断した。大原断層は、岡山県内では大原町金谷付近から古町にかけて河谷及び尾根、段丘崖の左横ズレが極めて明瞭であり、30〜350mの屈曲が認められる典型的な左横ズレ断層である。大原断層の東南方延長は兵庫県佐用町上石井、同海内、南光町上三河、山崎町土万、同青木まで連続し、その左横ズレ変位は明瞭である。この左横ズレは、トレンチ調査時に観察された河床堆積物と岩盤の境界面に発達する条痕(擦り跡)が全て水平であることからも裏付けられる。表2−1に推定および確認した大原断層の諸元を示す。 西町における地質層序及び14C年代を表2−2に示す。最新活動を示す地層はG2層及びG3層下部である。G2層の14C年代が1570〜4820y.BP、G3層の14C年代が910〜1260y.BPを得ており、変位を受けているG3層下部層が1260y.BPとすると、最新活動時期はAD700年以降、AD1040年以前となる。この時期の歴史地震についてみると、播磨地震がAD868年に発生しており、西町トレンチに現れた最新の変位は播磨地震に該当する地震によって引き起こされたものと判断される。西町Cトレンチ(断層に沿って水平に掘削)でG2層に挟在する砂層と砂礫層の境界が断層を挟んで1.6m左横ズレていることが判明した。この値は、砂層と砂礫層の境界線を計測したもので、砂層の引きずりや古流向に沿う湾曲を考慮すると約2mが妥当と考えられる。計測したG2層上部の14C年代は1570y.BPを示しており、この変位量を最新活動時の変位量と解釈した。低位段丘形成期(数万年前)以降の変位量を推定するため、@岩盤の変位 A旧河道の変位B近隣に分布する低位段丘面の変位について検討した結果、低位段丘形成期以降の横ずれ変位量は概ね30mが妥当と考えられる。その形成時期を約30,000y.BP(トレンチ内堆積物の14C年代)とすると、平均変位速度SはS≒30m/30,000年≒1m/1,000年なり、大原断層をA〜B級の活断層と推定できる。大原断層の最新活動時期が平安時代中期であることは、トレンチ調査で明らかになり、それはAD868年 播磨地震に相当することがほぼ確実になったが、その一つ前の活動が不明なため、再来間隔については判然としない。しかし、概略の値としては、次の式で出すことが可能と考えられる。

R=YO÷ΣD/D

R ;再来間隔(年)

YO ;低位段丘形成期以降の年代(年)

ΣD;低位段丘形成期以降の変位量(m)

D ;単位変位量(m)

今回の調査で、YO=30,000年、ΣD=30m、D=2mと推定できることから、R=2000 年となり、再来間隔は約2000年と推定される。

大原断層の地震規模を推定する代表的な経験式として、松田(1975)によるマグニチュード(M)と地表地震断層の長さ(L;Km)および変位量(D;m)との関係式がある。

Log L=0.6M1−2.9 ・・・・・・・・・・・ 式1

Log D=0.6M2−4.0 ・・・・・・・・・・・ 式2

断層の長さをL=26Km、変位量をD=2mとすると、上式から

M1=7.19

M2=7.17

となり、断層の長さおよび変位量から推定される地震規模はM≒7.2で、ほぼ一致する結果となった。

また、佐藤他(1989)によるマグニチュード(M)と震源断層の総延長(L:km)及び食い違い量(U:cm)との関係式では、

Log L=0.5M3−1.88 ・・・・・・・・・・・ 式3

Log U=0.5M4−1.40 ・・・・・・・・・・・ 式4

M3=6.59

M4=7.40

となり、松田(1975)で求めた値と比較して長さでは小さめの値に、単位変位量では大きめの値となっている。

なお、地表地震断層は震源断層の一部が地表に現れたものであり、式1と式3では断層の長さが異なる可能性もあるが、今回は、地表地震断層の長さと震源断層の長さがほぼ等しいものと仮定して上記経験式を使用した。

ここで用いた断層の長さ(L)は大原断層のみを対象としたもので、地震規模を推定する際には大原断層を含む山崎断層系全体の活動として捉えるべきであり、その連続性から@大原断層−土万断層 A大原断層−土万断層−安富断層 をそれぞれ一連の断層として取り扱うことも重要であると考えられる。

@大原断層−土万断層では長さ約L=30kmA大原断層−土万断層−安富断層では長さ約L=50kmとなる。L=50kmでは、松田(1975)の式でM=7.66、佐藤他(1989)の式でM=7.15となり、長さの取り方によってはかなり異なった値になる。このため、地震規模については、現在活動様式や起震断層としての長さで解明されていない点が多く、今後更に検討を重ねていく必要がある。兵庫県南部地震(1995,M=7.2)でも、明石海峡付近の地下10数kmから破壊が始まり、野島断層へと伝搬していったが、数秒遅れて、六甲山地南麓の断層が動いたとされている。このような現象は地震規模に大きく関与することになる。長く延びる活断層帯の場合は、一どきに動く断層線の区間、数秒後以降に活動する断層線の区間、破壊の開始点など未解明の重要な事柄が残されている。これらは地表踏査やトレンチ発掘調査だけでは推定困難であり、地下構造探査や地震学的究明など関連分野の結集が必要である。トレンチ調査に先立ち ボーリング調査、物理探査を大原町西町地区及び金谷地区、勝田町豊成地区で実施した。参考までにそれらの概要を以下に述べる。