(2)断層の活動性の変遷

今回の調査で実施したトレンチやボーリング調査では、新しい時代の断層活動が明らかにされ、活動間隔が短いことが示された断層と、新しい時代の地層を変形させていないものがみられた。この点をふまえ、時代の異なる変位基準面を用いて、ある時代以後の断層の上下方向平均変位速度を算出し、それにもとづいて、断層の活動性を検討した。図8−1−3図8−1−4図8−1−5に各断層の時代別の活動性区分を示す。

なお、須久保撓曲のような活構造の存在からみて、トレンチなどで、断層による明瞭な変形が確認できなかった地点にも、トレンチオーダーでは確認できない撓曲が存在する可能性は否定できないが、今回の検討では、この点を留保し、明瞭な変位の有無のみを基準にした。

<地溝北縁断層帯>

野稲岳地域: いずれの断層も、過去42万年間を平均した活動度はB級下限〜C級である。Aso−4火砕流以後にも活動していると推定される断層があるが、その中でも、完新世に複数回活動した断層(水分断層)とAT火山灰以後の断層活動が確認できていない断層(鹿伏・滝上南断層)がある。

崩平山北側斜面−扇山地域: 主な断層では、過去34万年間を平均した活動度はB級である。崩平山付近の断層は、Aso−4火砕流堆積物に覆われるやや古い扇状地面を変位させており、扇状地形成以後の活動があったと推定される。その中でも、完新世に複数回活動した断層(熊の墓断層)とAT火山灰以後の断層活動が確認できていない断層(崩平山2断層)がある。大分県中部地震が発生した扇山付近は、崩平山北側斜面の断層の延長部とみることができるが、この地域の940m峰牧場、扇山の両断層は、基盤の変位量からみた活動度はかなり小さい(基盤の変位基準面としての性格がはっきりしないが、C級?)。また、扇山断層では、AT火山灰以後の断層活動は確認できていない。

町田牧場地域: 過去46万〜62万年間を平均した活動度は、B級下限〜C級である。Kj−P1を変位させている断層が確認されているが、最新活動時期の上限は明確にできていない。Kj−p1層の変位量があまり大きくないことからみて、Kj−P1層以後の断層活動の回数は、ごく少ないと推定される。この推定にもとづけば、この地域の断層は、活動間隔が数万年と評価される。

万年山地域: 過去35万−85万年間を平均した活動度は、主な断層ではB級ないしC級で、平均変位速度は0.5m/千年以下であるが、万年山断層のみ、A級に近いB級と評価できる。平均変位速度は、調査地域内で最も大きい。しかしながら、この地域では、完新世に活動した断層が存在するデータは得られていない。Aso−4火砕流以後の活動についてみても、活動した断層(一手野−万年山断層)と活動していない断層(末野断層、五馬市断層)が混在している。

以上をまとめると、地溝北縁の断層においては、後期更新世以後の活動度は、主な断層ではB級と評価できる。特に西部の万年山地域では、平均変位速度がかなり大きいものがある。しかしながら、新しい時代における断層の活動度はあまり高くない。一方、東部の崩平山−扇山地域、野稲岳地域には、完新世になっても活発に活動している断層が存在し、断層活動が継続している。ただし、AT火山灰以後の断層活動が確認できない断層も存在する。

<地溝南縁断層帯>

崩平山南側斜面−千町無田地域:過去34万年間を平均した活動度はB〜C級である。中でも崩平山6断層の活動度がかなり高いが、この断層では、AT火山灰以後に活動した証拠は得られておらず、新しい時代の活動度はあまり高くないと推定される。一方、千町無田付近には、完新世に活動した断層(筌口U断層)、さらに完新世に複数回活動した断層(須久保撓曲、高柳断層)がみられるが、これらの断層では、過去数十万年間を平均した活動度はC級以下である。過去数十万年間と最近の1万年間を比べると、断層活動が活発に生じている場が変化しているようにみえる。

万年山地域:過去35万−62万年間を平均した活動度はB級〜C級以下である。特に、吉武山断層と亀石山断層の活動度が大きいが、一方で、川底断層のように約30万年間、ほとんど活動していない断層も存在する。新しい時代の断層活動についてみると、吉武山断層ではAso−4火砕流以後、菅原2断層ではAT火山灰以後にも、断層活動が生じたと推定される。ただし、完新世に断層活動が生じた確実な証拠は得られていない。

以上をまとめると、地溝南縁の断層でも、西部の万年山地域では、新しい時代における断層の活動性はあまり高くない。一方、東部の崩平山−千町無田地域では、完新世になっても断層活動が継続している。さらに詳細にみると、崩平山南側斜面―千町無田地域では、より南側の断層の方が、新しい時代の活動性が高いようである。

なお、地蔵原地域は、既に述べたように、断層分布の上で例外的であり、上の2つのグルーピングになじまないため、評価対象としていないが、完新世に複数回活動した断層(涌蓋山北東方)が存在する。