<トレンチ・ボーリング調査結果>
〇地質構成
トレンチ北側の“段丘面”Tの原形は、万年山火砕流堆積物(30万年以上前)とその上位の扇状地堆積物から成り、これらをAso−4火砕流(鳥栖オレンジ火砕流)堆積物、Kj−P1を挟むローム層が覆っている(図7−13−1、図7−13−2)。基盤の火砕流堆積物中には、軽石質火山灰が挟まれており、薄いながらも全てのボーリング孔で確認できる。火砕流の年代から、この面は30万年よりは新しく、10万年よりは前に形成されたと推定される。
トレンチ地点西方には、Tより低い”段丘面”Uがみられる(図7−14)。人力掘進のボーリングにより、被覆層の下位に、”段丘面”Tと同様の火砕流堆積物と扇状地堆積物が確認された。扇状地堆積物は、厚さが20cmであり、”段丘面”Tの構成層と比較して薄い。これは、堆積後の浸食により薄くなったものと考えられる。その上位の被覆層は、下位から順に、旧表土、下部にAT火山灰ガラスを多量に含むローム層、K−Ah火山灰を挟む黒ボク土層から成る。この層序と火山灰からみて、この面は2.6万〜2.9万年より前に形成されたと推定される。
断層崖下の低地で掘削したトレンチでは、扇状地堆積物とそれを不整合で覆う堆積物が確認された(図7−15−1、図7−15−2)。不整合以浅の堆積物は、泥炭を挟む礫、砂、粘土から成る。この中には、Kj−P1とAT火山灰由来の火山ガラスを含み、含まれる炭化木片の年代は18,000〜20,000y.B.P.である。また、トレンチの南部では、この堆積物を泥炭ないし黒ボク土が覆う。この層の下限に含まれる炭化木片の年代は、700y.B.P.である。
〇地質構造
基盤の火砕流堆積物と扇状地堆積物の境界、火砕流堆積物中の軽石層の分布から読み取れる地質構造は、トレンチ部も含め、緩く南へ傾斜する構造であり、南落ちのリニアメントの位置には、断層によるとみられる構造の不連続は認められない。
しかしながら、調査地の南方の山地から供給されたと推定される礫層から成る扇状地堆積物は、想定される流下方向(北向き)と逆に南へ傾斜している(図7−13−1、図7−13−2)。また、リニアメント位置を横断する地形断面では、トレンチ地点北側の”段丘面”Tと西方でそれより低い”段丘面”Uの両面とも南へ撓み下がる形態を示し、かつ、より新しいU面の方が撓みの量が小さい(図7−14)。このような地形・地質分布からみて、この断層では、累積的に南に下がる撓曲的な変形が生じていると考えられる。
〇断層の活動性評価
以上の調査結果をもとに、この断層の評価を試みる。
a.断層の長さ
地形的に追跡できる断層の長さは、1.9kmである。
b.変位量
時代の異なる地形面の変位量が異なることからみて、活動に累積性があるといえる。地形面の変形、地質構造から推定される撓曲の上下方向変位量と平均変位速度は、次のとおりである。
・基盤の溶岩(万年山溶岩;35万年前)
トレンチ地点西方の断層崖の比高から推定した変位量は約70mである(図7−10、表7−2参照)。
これより、上下方向の平均変位速度は、0.20m/千年となる。
・"段丘面"T(10万年以上前 ⇒ 10万年とみなす)
地形断面からの推定変位量は約5m、地質断面の扇状地堆積物の分布からの推定変位量は、
6.5mであり、平均変位速度は、0.05〜0.07m/千年となる。
・"段丘面"U(2.6万〜2.9万年前より前 ⇒ 3万年前とみなす)
地形断面からの推定変位量は約0.3mで、平均変位速度は0.01m/千年となる。
以上の結果より、活動度はC級(以下)と評価される。
c.断層活動イベント
2つの地形面の変位量が、かなり異なることから、”段丘面”TとUの間に断層活動が生じたと推定される。この年代は、3万年〜10万年間である。一方、 “段丘面”Uの変形が生じた年代は、3万年前以降である。
ここで、トレンチの地質分布をみると、旧表土を除き、全体に緩く南へ傾斜しており、扇状地構成層より上位のどの層準までが撓曲によって変形しているかを特定することは難しい。仮に、これらの地層も撓曲変形を受けているとすると、その時代は、18,000〜20,000y.B.P.以後ということになる。
ここで、2つの地形面の変位量の相違がかなり大きいことからみると、2万−10万年間には、複数回の活動が生じた可能性が考えられるが、詳細は不明である。一方、“段丘面”Uおよびトレンチ部の平坦面構成層の変位量が、ごく小さいことからみると、U面以後の活動は、1回だけと推定できる。このように考えると、断層の活動間隔は、2万年以上ということになる。