地形的な断層評価

既往文献データをもとにした、本地域の断層についての地形的な評価を表４−１にまとめた。今回実施した空中写真判読結果を付図２に、国土計画基本図ないし森林基本図（縮尺１／５，０００）から作成した主要部分の地形断面を図４−１、図４−２、図４−３に示す。

〇変位地形

調査地域に分布する火山体は、野稲岳の南方延長部と崩平山である。前述のように、形成年代は、野稲岳が４２万年前、崩平山が３４万年前である。崩平山は、山体の中央部が大きく崩壊しているが、この部分を除くと火山体の形体がよく保存されている。

火山体斜面を基準面とすると、面の傾斜方向と逆向きの断層崖が認定できる。火山の北麓斜面では、南落ちの断層崖が明瞭であり、南麓斜面では、北落ちの断層崖がみられる。これらの断層により、山体中央部が落ち込んだ地溝が形成されている。変位量が大きいため、野稲岳と比較して地溝の形体がかなり明瞭である。本章では、北部の南落ち断層について記述する。

主な断層は、北から順に、野稲岳火山を変形させている、立石池−山下池と寺床断層、崩平山火山を変形させている、熊の墓、崩平山１，２の各断層、これらの断層の東方延長部に位置する山下養魚場−ゴルフ場中央、ゴルフ場南縁−田伏、９４０ｍ峰牧場、扇山の各断層である。今回の空中写真判読では、既往文献に示されている断層以外の新たな断層は、見出せなかった。寺床北西、寺床西の両断層については、変位地形が明確に判読できなかったため、断層とは認定していない。

断層に伴う特徴的な地形としては、断層崖を横断する先行谷が各所にみられる。また、寺床、熊の墓断層では、落ち側に沖積低地が形成されており、立石池−山下池断層でも、落ち側に閉塞された凹地がみられる。火山体の尾根部でも、崩平山２、崩平山３断層では、落ち側に凹地が形成されている。さらに、熊の墓断層では、比較的新しい火山麓扇状地上にも、比高数ｍの低断層崖が認められる。後述のように、今回の調査では、このような低断層崖の位置でトレンチ調査を実施した。

北方断層については、中田・今泉（２００２）では、東方で崩平山１断層に連続するように表現している。今回の地形判読では、むしろ崩平山２断層に連続すると判断し、崩平山２−北方断層という名称で一括して取り扱うこととした。

ゴルフ場南縁−田伏断層の東方延長部は、花合野川両岸の大規模な地すべり地形で不明瞭になっているが、変位地形としては、あまり明瞭ではないものの、さらに東方の直野内山付近まで連続する可能性がある。九州活構造研究会（１９８９）と国土地理院（２０００）でも、東方へ連続すると表現されている。

断層の走向は、崩平山付近ではおおむね東西に近いが、東部では、北西−南東走向である。これらの雁行する断層が、全体として南北幅約３ｋｍ、東西約１１ｋｍの南落ちの断層群を形成している。

〇断層の変位量

各断層崖の比高から、基盤の変位量が推定できる。地形断面から火山体斜面を復元して、同一地形面のずれから各断層の変位量を求める（地形断面図参照）と、表４−２のようになる※。

既往文献に示された基盤の変位量に対して、今回読み取った変位量は、同程度か文献の値より大きい。特に、立石池−山下池、崩平山１、崩平山２の各断層で、火山体斜面を復元して求めた変位量は、文献の値よりかなり大きく、活動度でみると、既往文献の評価ではＢ級下限ないしＣ級であるが、今回の評価ではＢ級の中程度となる。後述する断層評価では、より精度が高いと考えられる、地形断面から読み取った値を基盤の変位量として採用した。以上の地形的な断層評価は、本章末の一覧表（表４−６）にまとめた。

この地域では、平成１４年度には、大分県中部地震の際に構造物の変形が生じた個所で露頭剥ぎ調査を行ない、さらに、扇山集落西方の断層の落ち側に沖積低地が形成されている位置付近でトレンチ調査を実施した。１５年度には、新しい扇状地面を変位させているようにみえる熊の墓、崩平山２−北方断層において、トレンチ調査を実施した。以下、各地点の調査結果をまとめる。

※奥江層については、変位基準面としての安定性が保証されていない。したがって、この層の分布域での変位量計測値は、参考値として扱う。

表４−１　既往文献データにもとづく断層評価一覧表（崩平山北側斜面−扇山地域）

表４−２　断層による基盤の変位量