既往文献データをもとにした本地域の断層についての地形的な評価を表3−1にまとめた。今回実施した空中写真判読結果を付図2に、国土計画基本図ないし森林基本図(縮尺1/5,000)から作成した主要部分の地形断面を図3−1、図3−2に示す。
〇変位地形
調査地域の最北部に位置する野稲岳は、42万年前に形成された、平面的にみると南北にやや伸びた楕円形を示す火山である(火山体の年代については、2−1節参照)。この火山では、元来の火山体の形状を示しているとみなすことができる斜面が比較的よく保存されており、この面を基準面とすると、面の傾斜方向と逆向きの断層崖が認定できる。火山の北麓斜面では、南落ちの断層崖が明瞭であり、南麓斜面では、北落ちの断層崖がみられる。これらの断層により、山体中央部が落ち込んだ地溝が形成されている。
今回の空中写真判読では、既往文献に示されている断層以外の新たな断層は、見出せなかった。本地域の断層は、すべて逆向き断層崖によって認定できる。新たなデータとして、水分断層の西方延長部で、従来指摘されていなかった、新しい地形面(Aso−4火砕流堆積面、低位段丘面)が変形している可能性がある地点を確認した。この点については、別項目で述べる。
断層に伴う特徴的な地形としては、断層崖を横断する先行谷が各所にみられる。水分断層では、落ち側に沖積低地が形成されている。
断層の走向は、野稲岳付近を中心にして、西側で北東−南西、東側で北西−南東走向である。全体として南北幅約2km、東西約5kmの断層群を形成している(鹿伏岳付近を除く)。
〇断層の変位量
各断層崖の比高から、基盤の変位量が推定できる。地形断面から火山体斜面を復元して、同一地形面のずれから各断層の変位量を求める(図3−1、図3−2参照)と、表3−2のようになる。既往文献に示された基盤の変位量は最大でも20mであるが、今回読み取った変位量は20〜60mであり、かなり大きい。基盤の変位量から求めた活動度も、既往文献の評価では、B級下限ないしC級であるが、今回の評価では、B級(下限)となるものが増えた。後述する断層評価では、より精度が高いと考えられる、地形断面から読み取った値を基盤の変位量として採用した。
なお、野稲岳南側斜面の断層の変位累計は、北側斜面の断層の変位累計より、かなり小さい。
以上の地形的な断層評価は、本章末の一覧表(表3−7)にまとめた。以下、代表的な断層の状況について個別に記述する。
表3−1 既往文献データにもとづく断層評価一覧表(野稲岳地域)
表3−2 断層による基盤の変位量