この探査で確認された断層(以下A断層と呼ぶ)は現在は正断層として活動していると推定されるが、断層近傍上盤側の背斜構造あるいは下盤側の北傾斜が急になる現象など、むしろ圧縮応力場で形成されたと考える方が自然な地質構造も数多く認められる。この双方を認める場合、この断層が時代によって正断層であったり逆断層であったりしたと考えざるを得ない。これは反転(inversion)と呼ばれる現象であるが、本調査地は別府地溝と中央構造線に挟まれた複 雑な応力場の地域であり、このような現象が起こる可能性は否定できない。ただしこの問題は周辺の応力場の変遷と密接な関連があり、この探査結果のみでは検討をこれ以上進めることは出来ない。
つぎにA断層は比較的小規模のものであるが、この反射断面における深部の堆積構造が全てA断層のみで形成されたものとは考えることは難しい。すなわち、もう少し大きな周辺の構造運動の影響を受けているように思われる。たとえば、上盤側(北側)の層厚変化はA断層の運動だけでは説明しがたいが、北方に南傾斜のリストリック正断層の存在を仮定するとよく説明できる。この場合測線中央部の背斜構造も、この仮定に加えてA断層を特異な形状の正断層と仮定することで、必ずしも圧縮応力を考えなくても形成を説明できることがディスロケーションモデル(図21)で明らかにされた。ただしこのモデルでは、下盤側の北傾斜構造は説明できない点が問題として残される。
以上、反射断面にみられる深部の地質構造の形成過程について2つの考え方を示したが、このほかにも下盤側浅部の多数の亀裂の成因など、説明を試みることもできない現象も残っている。これらの解明は、周辺地域の地質構造あるいは応力変遷に関わる研究の今後の進展を待たなければならないものと考えられる。