@ 分 布
平成10年度と今年度の調査で、日出生台、飛岳西方の並柳牧場付近、由布院断層近傍(東石松)、唐木山の各地点で、Kj−P1の下位に、同一層準と推定される砂質火山灰を伴う軽石質火山灰層が確認された。以下、本層を不明火山灰と呼称する。
A 層 準
この軽石層※の層準は、確認された範囲では次の通りである。
AT火山灰層下限との関係:2.5〜5.0m下位
Kj−P1層下限との関係:2.8m下位(東石松地点でのみ確認)
B 層 相
今回の調査で確認された層相は次の通りである(図補−1〜補−3(図4−1、図4−2、図4−3)参照)。
東石松地点:橙色の粗粒な軽石質火山灰。軽石は最大径10p程度で扁平化していない。下位に輝石安山岩質の火山礫層を伴う。この礫層の層厚は20p以上で、火砕流最下部の岩片集積層である可能性が考えられる。
秋山北地点:橙色、赤橙色の軽石質火山灰。2層から成り、下位層は層厚40p以上で、最大径数pの軽石を含む。上位層は層厚20pで青灰色の火山砂を伴う。両層の間は褐色の礫混りローム質粘土。両層共かなり締まっている。
並柳地点:飛岳1断層の露頭(平成10年度に報告)では間に褐色のローム質粘土を挟む2層の明橙色〜橙色の軽石質火山灰がみられる。その西方の牧場内の断層露頭では、層厚60pで間に青灰色火山砂を挟み、上部は黄〜橙色でラミナの発達した軽石層、下部は橙色のシルト質〜砂質火山灰である。
C 分析結果
この不明な火山灰層の各地点での試料分析結果をみると、次のような共通した特徴がある(表補−1、補−2(表4−1、表4−2)参照)。
a.斜方輝石と単斜輝石が特徴的に多く含まれる。
b.黄色の風化粒子が多く含まれる。
c.色付の火山ガラスを含む。
d.火山ガラスの形態は、扁平(H)、多孔質(T)ないし中間型(C)が多く、不規則型(It)は多くない。
e.火山ガラスの屈折率の値は、1.496〜1.516の広い範囲に分散している。分布の最頻値は、1.507〜1.514付近にある。
これらの点はいずれもKj−P1と異なっており、特に屈折率の点では、本地域では、K−Ah火山灰を除き、あまり例のない、高い屈折率を示すガラスがかなり多く含まれている。
D 既往文献との対比
この層準に相当する火山灰層の記述を既往文献資料で探すと、次のものがこの火山灰層に相当する可能性が考えられる(図補−4(図4−4)参照)。
小野(1963)で「久住」図幅地域で記載された“P2層”
:白色・粘土化した軽石層。軽石は扁平化。かんらん石・普通輝石・シソ輝石安山岩質。阿蘇起源と推定されている。
小林(1984)で今回の調査範囲内の塚原と十文字原に分布するとされた“塚原降下軽石層(TP)”
:岩質が類似し、層準が近接した3層の降下軽石層。同一火山から短期間に噴出(TP−1〜TP−3)。角閃石を含む普通輝石。シソ輝石安山岩質ないしデイサイト質。TP−1は層厚57p、最下部と最上部は、軽石・結晶・火山ガラスから成り、ラミナが発達し、淘汰が悪い。TP−2は層厚13pの細粒軽石層。TP−3は層厚15pの細粒ガラス質火山灰。
上記の記載と比べると、この火山灰層は、小野(1963)の“P2層”とはやや異なり、小林(1984)ぼ“TP層(TP−1〜TP−3)”と類似しており、対比可能と判断される。
このほか、明確な記載はないが、町田(1980)では久住町や大野町で、Kj−P1層とAso−4との間に複数の火山灰層が出現することが柱状図として示されており、これらの内のどれかに対比できる可能性もある。
E 噴出年代の推定
小林(1984)では、TP層はKj−P1層の下位であり、Aso−4との関係は不明とされている。今回の調査結果でも、Kj−P1層の下位に確認されているが、Aso−4との関係は確認できていない。ただし、秋山北地点は、高熔結部を伴い厚く分布するAso−4の分布域(日出生台集落付近)に近接しているが、秋山北地点のこの火山灰層より上位には、Aso−4の影響は確認されない。町田(1980)の報告も参考にすると、本火山灰層はAso−4より新しいと推定してよいと思われる。
一方、今回報告した東石松地点について、各火山灰層の出現深度と年代から外挿法により、本火山灰層の噴出年代を推定すると、6万年BP前後という値が得られる(図補−5(図4−5)参照)。これは、本火山灰層がAso−4の上位にあるという推定と整合的である。
以上の考察をもとに、今回の報告書における断層の活動性評価においては、Kj−P1層の下位の特徴的な軽石質火山灰層について、6万年BPという年代値を想定して検討した。