(5)ボーリング孔間の地層対比、層相変化の解釈

以上のデータをもとにボーリング孔間の地層対比を行った結果を表3−5−1 にまとめた。

この表に示した4孔では、概ね相互の地層が対比できるが、次の2点に問題がある。

・断層落ち側の孔(bV,bP,bU)で確定した(上部)砂礫層下限のc層準に対応する断層上り側のbS孔層準には、@、Aの2通りが考えられる。このいずれが正しいのかについての確定的なデータは得られていない。

・bS孔では比較的貝化石の産出が多いにもかかわらず、A層準に相当する層準が確定できない。

この2点は、地質構造解釈の上で大きな問題となる(後述)。

一般に日本における沖積層の形成は、海進面の形成→海進期堆積体の形成→高海水準期堆積体の形成という一つのサイクルの堆積シークェンスで捉えられている(増田,など)が、今回得られた種々のデータをもとにすると、調査地における層相変化は次のように説明できる。

・最下部泥炭層

最終氷期の海進期の浸食面(基盤の大分層群・碩南層群の上面)の上に直接のっており、海進が始まる前に海浜の湿地に堆積した地層(低海水準の堆積体)と判断される。

bP孔とbS孔で確認されている。両孔共に泥炭層の間ないし下位にAT火山灰のガラスを多く含む火山灰層を伴っているが、泥炭層の14C年代は、10,300〜12,400年BPと、かなり若い。年代の値がまとまっていることからみて、この火山灰層中のAT火山灰のガラスは再堆積したものと判断される。これらの値は、ほぼ信頼できるものであり、以上よりこの部分の堆積年代は、泥炭層の厚さを考慮すると、10,000〜13,000年BP頃と考えられる。

・下部砂礫層〜下部砂層〜中部泥層下部

最下部泥炭層との境界は浸食面となっており、最終氷期後の海進時に形成された海進面(ラビーンメント面)と判断される。K−Ah火山灰層の層準まで、上方細粒化および貝化石からみると上方深海化の傾向を示している。砂礫層、砂層を明確な基準で区分することは困難である。中部泥層は断層落ち側の孔では、比較的まとまった単位として認定できるが、断層上り側の孔では、全体に砂分が多く含まれる。

上下方向の層相変化は、海進期に形成される堆積体としての特徴を示しており、三角州の頂置相から前置相、底置相、そして内湾底の堆積物へという変化として解釈できる。

この間の堆積速度は(表3−5−1 参照)、15o/年〜0.1o/年以下と、かなり幅があり、bS孔では上方に向かって堆積速度が小さくなる傾向が読みとれる。特に、K−Ah火山灰相準直前の堆積速度は、断層の落ち側、上り側共に極めて小さく、海進期堆積体最上部のコンデンスセクション層と解釈される。

・中部泥層上部〜上部砂層

K−Ah火山灰層準の上位は、上部砂層、上部砂礫層に至るまで、全体に上方へ粗粒化・浅化する傾向を示す。これは全体に沖合に向かって前進する堆積体であり、内湾底の堆積物から三角州の底置相、前置相という層相変化として解釈できる。

堆積速度をみると、K−Ah火山灰層準の直後から上部砂礫層下限まで堆積速度が極めて大きくなっており、断層の落ち側で26〜39o/年、最大値として60o/年程度、断層の上り側で17o/年程度である。

これらの堆積速度の値のうち、断層上り側での値は、増田(2,000)に示された各種の沖積層の堆積システムの堆積速度と比較してほぼ同程度といえるが、断層落ち側での値は、かなり大きい。これは、後述するように、通常の堆積システムに堆積運動が加わったことによる効果と考えられる。

・上部砂礫層〜最上部泥層

上部砂礫層の下限は比較的明瞭な境界(浸食面)となっており、さらに、構成物として、円磨された軽石の細礫を多量に含むことで下位層と明瞭に区分される。また、現世の大分川河口の堆積環境との対応から、三角州の頂置相と判断される。その上位の泥層は、アシの葉を多量に含み、海岸沿いの湿地の堆積物と判断され、砂礫層から泥層を経て離水し、現在に至っているとみることができる。

この三角州頂置相からほぼ離水した湿地の堆積物へ至るサイクルは、断層上り側の孔では1回のみであるが、断層落ち側の孔では少なくとも2回繰り返している。これもまた、何らかの構造運動の存在を示していると思われる(後述)。