(1)第1地点での評価

(1) 断層の位置・形態と変位センス(図3−4−8−3参照)

主 断 層

山麓の扇状地を構成する礫質堆積物(北側)と、山地の基盤の一部を成す、倉木山火山由来とみられる輝石安山岩質の石質火砕流堆積物(南側)が断層で接する。

両層の接する断層面は弧状に湾曲し、凹凸している。走向はN41゚E〜N72゚E、傾斜は78N〜82Sである。同系統の小断層が石質火砕流堆積物中に多数みられる。

断層は、巾10〜20cmの破砕帯を伴う。断層北側の0.4〜1m間では、扇状地堆積物中の礫が断層面に沿って配列している。

副 断 層

主断層の約25m南側で、倉木山火山由来の石質火砕流堆積物と溶岩(いずれも輝石安山岩質)が、断層で接する。断層の上方延長部には、扇状地堆積物が分布し、その下部は、断層による変位を受けている。

断層は、主なものが2条みられる。走向・傾斜は、N72゚W70゚NとN75゚W86゚Nである。

この2条の断層に挟まれた部分は、2mの幅で角礫化している。また、南側の断層は、幅5〜20cmの土砂〜粘土状の破砕帯を伴う。

いずれも、高角北落ちの断層である。

一方、より広範囲に地形をみると、湯布院町西石松付近では、由布院断層の前縁部(主断層位置から数100m北側)に由布院断層本体と逆に南落ちの変位センスの断層が伏在していることを示す扇状地面上の平坦面がみられる。

また、本体断層の数10m程度前縁部にも同様の逆傾斜地形がみられ、この地形に対応する逆(南)傾斜、逆(南落ち)方向の変位を示す断層露頭が確認された(図3−4−8−6参照)。

(2) 断層変位を受けた地層(図3−4−8−1,図3−4−8−2参照)

由布院断層の第1トレンチ地点付近に分布し、断層変位を受けている新しい堆積物は、次のように区分される。

新しい礫層:右岸側で、礫混りローム層と扇状地堆積物@を不整合に覆い、地表直下に分布する。

不整合面の直上の礫層との間には表土が形成されている。また、この不整合面は、現在の断層上がり側の斜面と同程度の傾斜を示しており、礫層の堆積前に断層位置をはさんだ一連の斜面が形成されていたことを示す。

基質は、黒ボク土であり、下限面の形状や層相からみて、断層崖斜面が崩壊した際の堆積物と考えられる。

扇状地堆積物@:扇状地堆積物Aと礫まじりローム層を不整合に覆う。一部では、チャネル状に削りこんでいる。左岸側では、厚さ約60cmの礫混じりの黒ボク土に覆われており、これだけの厚さの黒ボク土の形成には、少なくとも千年オーダーの時間が必要であると判断される。また、黒ボク土下部の14C(AMS)年代値として、上り側で460年BP、下り側で600年BPという値が得られている。以上のデータと、直下のローム層で得られた14C年代からみて、堆積年代は、およそ1,000年BP前後(600年〜2,000年BP)と推定される。堆積面は、あまり開析されておらず、第1地点の左岸側に断層を覆って広く分布する。

この堆積物の基質は、あまり風化を受けていない、紫灰色ないし赤紫色の砂ないし砂質シルトからなり、下位の堆積物Aとは明瞭に識別される。また、堆積物Aに比べて礫径がやや大きく、時に最大直径3mに達する巨礫が含まれることが特徴的である。

礫まじりローム層:扇状地堆積物Aを覆う。層厚は、2m以上とかなり厚い。

時代決定に有効な火山灰は確認されていないが、含まれる炭化した木の実で、1,990年BPという14C年代が得らた。

このような細粒の厚い堆積物の存在から、粗粒な礫を主体とする新旧の扇状地堆積物@、Aの堆積の間に、かなり長い扇状地形成の休止期があったと推定される。このことは、扇状地堆積物Aが堆積物@に比べて、かなり風化が進んでいることからも支持される。

扇状地堆積物A:K−Ah火山灰を挟む堆積物を覆い、ローム層に覆われる。

この堆積物の上面は、第1地点の下流で、細長くのびるマウンド状の地形をつくっている。

堆積物の基質は、かなり風化を受けて褐色に変色した砂質シルトないしシルトからなる。

扇状地堆積物B:最上部にK−Ah火山灰を挟む。堆積物の一部しか確認できていないが、褐色で、やや基質の比率の高い堆積物である。

(3) 断層変位量と活動度

地層分布から推定される上下方向の変位

左岸側では、扇状地堆積物@が断層の両側に分布し、その上面に、比高約3mの断層崖が形成されている(図3−4−8−4参照)。扇状地堆積物Aは、断層の上がり側には分布していないが、下流側の露頭から、扇状地堆積物の厚さを推定すると、@・A共に、7〜8mであり、断層の落ち側で確認される@の層厚が6〜7mであるから、Aの下限の変位量は、10m程度となる(図3−4−8.A参照)。

右岸側では、断層の上がり側には、上記のどの堆積物も確認されていないが、落ち側の各層下限の分布深度から、変位量が次のように推定される(いずれも累積量)(図3−4−8−3参照)。

新しい礫層の下限:1m以上

礫まじりローム層の下限:3.8m以上

扇状地堆積物Aの下限:8m以上(断層に接する位置では、下限は確認されていない)

横ずれ変位の推定

左岸側の断層露頭でみられた条線の傾斜(48°N方向)から、上下方向と同程度の横ずれ変位成分の存在が推定される(図3−4−8−2参照)。

以上の諸点より、6,300年BP以後に約10m、2,000年BP以後に3〜4m程度という上下方向の変位量が推定される。これから平均変位速度をもとめると、1.5〜1.8m/1,000年となる。同程度の横ずれ変位成分があるとすると、総変位量は、この1.4倍になる。従って、断層の活動度はA級と判断される。

(4) 活動イベント

以上の情報から、断層の活動イベント(活動史)が次のように復元される。

K−Ah火山灰降下(6,300年BP)

扇状地堆積物Aの堆積

断層活動V  (上下方向の変位量6m程度:複数回のイベント?)

扇状地形成の休止期 :断層の上り側では、堆積物Aが浸食により消失。

断層落ち側では、堆積物Aが風化。上位に厚いローム層の堆積。

↓            (2,000年BP以前)

扇状地堆積物@の堆積 :チャネル状の浸食面形成 (600年〜2,000年BP)

断層活動U (上下方向の変位量3m程度、これにより右岸部の落ち側にローム層が保存される条件ができたと推定される)

傾斜した不整合面の形成、黒ボク土(旧表土)の形成、新しい礫層の堆積

断層活動T (上下方向の変位量1m程度)

流路の下刻 (深さ5〜6m)

現   在

なお、左岸側の断層崖には、TとUのイベントでの変位が累積していると考えられる。

また、上の推定では、ローム層と堆積物@の変位量がほぼ同じとみて、両層がイベントUで一気に変位したと考えているが、変位量が異なれば、両層の間に活動イベントがあったと考える必要が生じる。しかしながら、現在の変位量の推定精度では、両層の変位量に有意な差は見出せない。

ここで考えたように、2,000年BP以降に、少なくとも2回(TとU)の断層活動があったとすると、活動間隔は、1,000年程度と推定される。扇状地堆積物の@の年代をもっと若く見れば、(現在のデータからみると600年BPまで若くなりうる)活動間隔はさらに短くなる。

一方、イベントUとVの間に生じている地質現象(上り側での堆積物Aの浸食による消失、断層落ち側での堆積物Aの風化、厚さ約3mのローム層の堆積)をみると、UとVの間にはTとUの間より長い時間が経過したと推定される。下限がK−Ah火山灰で限られていること、堆積物@の風化状況や残存程度から推定して、UとVの間には、2,000〜3,000年程度の活動間隔があっても不自然ではないと思われる。