トレンチ調査結果
平成10年度調査で段丘面に変位がみられた白滝川右岸地点の段丘面上の断層崖の西方延長部でトレンチ調査を行った。これらの結果は、スケッチ図、写真、試料分析結果として巻末資料にまとめた。調査結果をもとにした活動性評価を図3−4−4に示す。
@断層の位置
北落ちの段差地形の位置に断層が確認された。この地点では、西方の沢からもたらされた扇状地性の堆積物(K−Ah火山灰を挟む)が北側に、自破砕状の秋山安山岩溶岩が南側に分布する。
A断層の形態・変位センス
断層面は分離しており、面沿いに空洞もみられる。断層面の走向傾斜はN70〜90E70〜85Nである。地層分布に加え、元来水平に堆積したとみられる上記の扇状地堆積物が断層面に向かって南上がりのひきずり変形を受けていることからみて、変位センスは北落ちと判断される。形態としては、高角の正断層である。
B変 位 量
断層の上り側に、落ち側に対応する地層が分布しないため確実ではないが、落ち側の各地層の厚さからみて、K−Ah火山灰層準で、約0.7m程度の変位を受けていると考えられる。
C活動時期
扇状地堆積物の間に、南側の断層崖からもたらされたと考えられる角礫層がクサビ状に挟まっている。これらの層は、断層活動によるイベント堆積物と考えられる。トレンチ内ではこの堆積物が3層準確認できる。
K−Ah火山灰層準の変形とこれらの堆積物から、断層の活動時期を推定すると、最新の活動は、6,300年BP以後、その前の活動は6,300年BPと8,000年BPの間と推定される。
D活動間隔、1回の変位量
上記の活動時期の推定にもとづくと、活動間隔は数千年(4,00年程度)オーダーとなる。また、上下方向の1回の変位量は、イベント堆積物間の地層の層厚からみて、0.7m程度と判断される。
E平均変位速度、活動度評価
地形的な断層崖の比高、トレンチでの地層の変位量からみた上下方向の平均変位速度は、10〜20p/1,000年程度となり、活動度はB級となる。
若杉断層の地形・地質調査結果
※平成10年度報告書より転載
1)断層の概要
九州活構造研究会(1989) 活断層研究会(1991)
確 実 度 T T
長 さ(q) 1.8 1.8
走 向 NW NW
変位の向き S上がり S上がり
変位基準と 若杉岩屑なだれ堆積物(<7.5万年)に 若杉岩屑なだれ堆積物(<7.5万年)に
変 位 量 25mの逆向き断層崖。 25mの逆向き断層崖。
平均変位速度 上下方向 >0.33 上下方向 >0.33
(m/千年) 水平方向 − 水平方向 −
活 動 度 B B
2)その他の既往資料
星住ほか(1988)では、若杉岩屑なだれ堆積物下の伏在断層とされており、東方の飛岳6断層と一連の断層として図示されている。
3)空中写真判読結果
・若杉岩屑なだれ堆積面上にWNW−ESE方向で北落ちの逆向き低断層崖が認められる。変位量は25m程度である。
・白滝川支流が閉塞されている。
・西方延長にあたる白滝川付近では、右岸の段丘面が北落ちの変位を受けている。さらに西方の火山麓扇状地では、変位地形はみられない。東方の飛岳火山斜面では、崩壊・浸食により変位地形は不明瞭。さらに東方の、由布岳の新しい火山麓扇状地上には変位地形はみられない。
・長さは約 1.7q。
4)地表踏査結果
・断層露頭は見出せていない。
・白滝川右岸では、最上位の段丘面(現河床からの比高15m程度)に北落ち4〜5mの変位がみられる。面の構成層は未確認。
・合歓の里東方の林道沿いでリニアメント位置を挟んでオーガーボーリングを行い、断層による地層の変位を検出した。黒ボク土下位の褐色粘土層は約1.2mの北落ち変位を受けている。K−Ah火山灰も0.2m程度の変化を受けている。
5)評 価
・若杉岩屑なだれ堆積物の変位から、平均変位速度を求めると、上下方向で0.28m/千年以上、活動度はB級となる。
・オーガーボーリングの結果、若杉岩屑なだれ堆積物及び河成段丘面上の変位地形の明瞭さからみて、最新活動時期は、K−Ah火山灰以後と考えられる。