トレンチ調査結果
日出生断層では、断層崖付近の地質分布を追跡し、北側の高陣ヶ尾安山岩溶岩(70万〜130万年BP)と南側のAso−4火砕流堆積物(9万年BP)が接する地点に断層が存在すると推定し、トレンチ掘削を行った。これらの結果は、スケッチ図、写真、試料分析結果として巻末資料にまとめた。
トレンチ地点では、Aso−4火砕流堆積物は高陣ヶ尾安山岩溶岩にアバットしており、両者の間に断層はみられない。このため、断層の位置は確認できていない。日出生集落周辺では、地形的な断層推定位置を挟んで、Aso−4火砕流堆積物の高溶結部の分布に高度差がみられないことと、トレンチ調査結果をあわせて考えると、この断層はAso−4火砕流噴出以後活動していない可能性が高いと判断される。
@断層の位置
地表での高陣ヶ尾安山岩溶岩の分布の南限を成す崖の存在のほかは、断層の位置についての情報は得られていない。この崖もかなり開析されており、断層位置の特定は難しい。
A断層の形態・変位センス
トレンチで断層が確認できなかったため、詳細は不明であるが、推定される地質分布からみた変位センスは南落ちである。
B変 位 量
明らかに断層運動に帰因させられる地層の変形・変位は確認されていない。
C活動時期
Aso−4火砕流以後は活動していないと判断される。これは平成10年度調査で見出した深見ダム東方の断層露頭での評価(立石山火山噴出物が変位を受けていない)と矛盾しない。
D活動間隔、1回の変位量
データは得られていない。
E平均変位速度、活動度評価
高陣ヶ尾の古い火山体にみられる南落ちの断層崖の比高から評価すると活動度はC級ないしB級の下限程度となるが、Aso−4火砕流堆積物が変位を受けていないとすると、実質的には活断層として扱う必要はないと判断される。
日出生断層の地形・地質調査結果
※平成10年度報告書より転載
1)断層の概要
九州活構造研究会(1989) 活断層研究会(1991)
確 実 度 T T
長 さ(q) 9.3 9.3
走 向 EW〜WNW EW〜WNW
変位の向き N上がり N上がり
変位基準と 高陣ヶ尾安山岩(130万年)に130m、 高陣ヶ尾安山岩(130万年)に130m、
変 位 量 阿蘇4火砕流堆積面(7.5万年)に5〜 阿蘇4火砕流堆積面(7.5万年)に5〜
20mの断層崖。 20mの断層崖。
平均変位速度 上下方向 0.1、0.06〜0.27 上下方向 0.1、0.06〜0.27
(m/千年) 水平方向 − 水平方向 −
活 動 度 B B
2)その他の既往資料
星住ほか(1988)では、推定断層(別府北断層の一部)として図示されている。
3)空中写真判読結果
・深見ダム付近から車谷にかけて、南落ちの崖が続く。崖の直線性、複数の火山山体(高陣ヶ尾安山岩、人見岳安山岩)を同じセンスで切っていることからみて、断層崖と判断される。
・崖はかなり開析されており、風隙が各所に認められるが、その位置も後退している。断層崖の比高は、高陣ヶ尾安山岩分布域で最大約70m、人見岳安山岩分布域で最大約120m。
・小野原から堤にかけては、Aso−4火砕流堆積面が断層で変位して、北側斜面を段丘化しているようにみえる部分がある。
・この断層崖は、調査範囲を超えてさらに西方へ連続している〔九州活構造研究会(1989)の「黒岳断層」〕。
・東方への連続としては、深見ダム付近からNE−SW方向へ走向を転じ、雛戸山断層へ連続する鞍部の連続からなるリニアメントと、ESE−WNW方向で立石山山頂へ向かって延びる直線状の谷の2つのリニアメントがみられる。このうち、前者は地形からみると変位は南落ちである。一方、後者については地形からみた変位は不明である。
・車谷から寒水開拓にかけての長さは約10.2q。
4)地表踏査結果
・深見ダム東方の県道沿いで上記の地形的なリニアメントの方向に一致するNE−SW走向の複数の断層露頭を見出した。この露頭では断層は立石山安山岩(32万年〜57万年BP)及び立石山火砕流で覆われており、かなり古い時期に活動を停止したとみられる。
・この露頭の北東方のリニアメント、深見ダム東方の自衛隊演習場内へのびるESE−WNW方向のリニアメントはいずれも立石山火山の溶岩と火砕流堆積物の地質境界にほぼ一致している。
5)評 価
・高陣ヶ尾安山岩( 70万年〜130万年BP)の変位量から求めた平均変位速度は、上下方向で0.05〜0.1m/千年となり、活動度はC級ないしB級の下限程度となる。
・深見ダムより東方では、K−Ah火山灰降下前に活動を停止したと判断されるが、ダムより西方の部分のAso−4火砕流以後の活動、最新活動時期等についての情報は、今回の調査では得られておらず、次年度以降日出生台演習場付近の調査で情報を得る必要がある。