3−1−2 北部地域のその他の断層

以上のように北部地域でも特に活動的と判断される唐木山断層も、トレンチ調査結果からみると、新しい時代に起震断層として活動したとはいえない。

地形的にみて、その他の断層は唐木山断層よりも活動的とは考えにくいことからみて(表3−1−1参照)、1地点のトレンチ結果だけで評価を確定することの問題等はあるが※、これらの断層群は、地震防災上重要な断層とは考えなくてよいと思われる。

※平成10年度調査結果でも示されたように、唐木山断層以南の断層(特に鹿鳴越断層)については、唐木山断層より変位量が大きいものがあり、必ずしも唐木山断層より活動性が低いと断定できない面もあるが、トレンチ調査の適地がないという実際的な問題もあるので、ここでは、北部地域の断層群として一括して評価しておく。

また、以上の評価は、数10万年前に形成された火山斜面の変位から推定される唐木山断層の断層活動が、その後も同様のセンスで継続していたという想定にもとづいたものである。しかしながら、後述する地溝南縁の断層群の活動史にみられるようにここ数万年という時間内で別府−万年山断層帯のテクトニクスに変化があった可能性が考えられる。唐木山断層についても、今回のトレンチの北端に出現した小断層は、完新世に至って横ズレ優先の断層活動が生じたことを示唆するものである可能性は否定できない。この点については、現時点で明確に判断を下すには材料が少なすぎるため、ここでは、今後の検討課題としておく。

唐木山断層の地形・地質調査結果

※平成10年度報告書より転載

1)断層の概要

        九州活構造研究会(1989)     活断層研究会(1991)

確 実 度      T                   T

長   さ(q)    6.3                   9

走   向      EW                   EW

変位の向き    N上がり                N上がり

変位基準と   筑紫溶岩(60万年BP)の斜面に  筑紫溶岩(60万年BP)の斜面に

変 位 量    50mの逆向き断層崖。        100mの逆向き断層崖。

          谷の右横ずれ270m。         谷の右横ずれ270m。

平均変位速度   上下方向 0.08            上下方向 0.2

(m/千年)      水平方向 0.5             水平方向 0.5

活 動 度      B                     B

2)その他の既往資料

1/5万 地質図幅「豊岡」では断層として示されている。

3)空中写真判読結果

鳥屋岳・唐木山付近の溶岩の上面に逆向き断層崖と、これに伴う谷の閉塞がみられる。常磐付近では、閉塞された谷の堆積物が断層により北上がりの変位を受け、段丘化しているようにみえる(米軍撮影の空中写真の判読による)。藤原北方では、走向がやや東北東にふれ、扇状地内の谷に右横ずれがみられる。鳥屋岳の火口を堆積している堆積物の上面には変位はみられない。

「別府北断層」系の北側の断層群の中で最も変位地形が明瞭である。

延長は約5qで、東方で相原断層に連続するようにみえる。

溶岩・扇状地面上の上下方向変位は、最大約60m。藤原付近の谷の右横ずれは、250〜300m。赤松峠の東方にも、この断層の延長部に長さ約 1.5qのリニアメントがみられ、古火山麓扇状地面に10m程度の南落ちの変位がみられる。

4)地表踏査結果

・常磐では、リニアメント付近で閉塞された凹地の堆積物の上面に、約 2m北上がりの変位がみられる。この部分を挟んでオーガーボーリングにより表層の堆積物の分布を調べたところ、リニアメント位置付近を挟んで地層の不連続性がみられた。ただし、地元での聞き込みによると、この北上がりの段差の位置は、人工的にかなり北へずらされている模様であり、断層は現在の段差の位置より南側に位置すると考えられる。

・断層落ち側に分布する地層には、K−Ah火山灰とAT火山灰の2種の火山灰に由来する火山ガラスが混在している。この層の上位には水域で形成されたとみられるシルト層が出現している。

・冨永池西方の沢で閉塞された凹地の堆積物中に、K−Ah火山灰を確認した。その上位は、黒ボク土であるが、この火山灰は純層でなく、水成の堆積物であるとみられる。

5)評価

・変位量や活動度の評価は、九州活構造研究会(1989)とほぼ同様。

・断層運動で閉塞された谷の中に変位地形がみられ、かなり新しい時代に断層活動があったと考えられる。断層の落ち側で閉塞され沈水したとみられる部分の地質分布からみて、K−Ah火山灰降下以後にも断層運動が生じた可能性があり、トレンチ調査による確認が必要と考えられる。

・この断層の活動性についての評価を確定できれば地形、地質状況の比較から、周辺の他の断層についても評価できると考えられる。