5−5−2 K−Ah火山灰の噴出時代

今回の一連の調査では、K−Ah火山灰層自体の14C年代値は得られていないが、この火山灰層準の上・下位で、次のような年代値が得られている。

(1)府内城測線でのK−Ah火山灰層を挟む層準での貝化石の14C年代値(AMS法)

得られた海成試料の年代値を(補正年代値−400)で示すと次のようになる<( )内は暦年代値、いずれも、年BP>。

     

孔名   層準   K−Ah火山灰の上位      同 下位

   No.4         6,150(7,045)       8,100(8,960) 

   No.5         6,190(7,140)          −

   No.6         6,280(7,220)       7,860(8,785)

   No.7         6,330(7,255)       7,860(8,785)

                              

ここで、上位層準の年代が概ね一定であることが注目される。別途検討したように、K−Ah火山灰層準以後の沖積層の堆積速度が非常に大きいこと、これらの試料層準のK−Ah火山灰層準からの離れがあまり大きくなく(1.2〜3.6m)、いずれも再堆積した火山ガラスが多量に含まれる層準から採取されていることを考慮すると、これらの年代値は、K−Ah火山灰の噴出年代のかなり近い上限値とみなしてよいと判断される。

一方、下位層準の年代値は、上位層準の値に比べてかなり古い。これは、別途検討したようにK−Ah火山灰層準より下位の沖積層が、コンデンス・セクションとなっていることの反映であろう。

(2)亀川断層トレンチでの黒ボク土の14C年代値(β線計測法)

K−Ah火山灰層の直下の層準(約10cm下)で、補正年代値6,920年BP(暦年代値7,685年BP=5,735年BC)という年代値が得られている(補図−2参照)。他の層準で得られた年代値も含めて、層序関係との矛盾はなく、 同火山灰の下限年代値として有効と判断される。

(1)、(2)より、K−Ah火山灰の噴出・降下層準の年代値として、6,330〜6,920年BP(暦年代値7,255〜7,685年BP、おそらく7,255年BPに近いか?)が得られる…・・A。

一方、別府湾で採取されたコア試料を用いて詳細な火山灰分析を実施した古澤・梅田(2000)は、 K−Ah火山灰の噴出年代として、年縞年代解析による福沢(1995)の暦年代値(5,330BC:1950年を起点として7,280年BP…B)を採用し、コアの深度−年代直線と別途得られた貝化石の14C年代値の相関性が非常に高いこと、この年代から推定した由布岳火山灰(YA1)の年代が、従来の見解と矛盾しないこと(450BC〜270BC)を示している。

上記のA,Bの値は、よく一致しており、お互いに支持し合う結果となっている。したがって、K−Ah火山灰の噴出・降下層準の暦年代値としては、これらの値を採用して問題ないと判断されるが、本報告書では、測定精度等を勘案して、福沢(1995)の値を用いる。