(1)櫛形山地西方断層
地形
・櫛形山地西方断層は,櫛形山脈北西部の北東−南西方向に伸びる緩斜面と丘陵の境界に傾斜変換点,逆向き断層崖等の連続として東北東−西南西〜北東−南西方向のリニアメントが認められる(地形写真:地形2,3).写真3−2、写真3−3
・荒川町上江沢沿いから同町梨木沢川沿いの西に傾斜する地形面には,逆傾斜や撓曲地形等の変位地形が確認され,リニアメントに一致する位置に西側隆起の断層が想定される.
・リニアメントの北東延長及び南西延長に位置する丘陵尾根部には,西側隆起を示す変位地形は認められないことから,変位地形が確認できる区間(荒川町上江沢川北東〜黒川村蔵王東方)の長さ3.0kmが,櫛形山地西方断層の長さと判断される.
・荒川町上江沢川沿いでは,西に傾斜するKu − 3面がリニアメントを横断して分布する.リニアメント付近では傾斜が緩くなり,断層活動によりKu − 3面が変形を受けていることが確認され,地形測量の結果,8.3mの変位が認められる(図3−2−10,地形写真:地形1).写真3−1
地質
・リニアメント付近には,下関層を基盤とし,Ku − 1面堆積物〜Ku − 3面堆積物が分布する.リニアメントの両側では下関層が分布している.地形面を構成する土石流堆積物を切る断層露頭は,確認することができなかった.
(2)花立断層
地形
・荒川町花立南方から黒川村塩沢東方までの北東−南西方向に広がる緩斜面と山地の境界には,傾斜変換点,明瞭〜不明瞭な三角末端面の連続としてリニアメントが認められる(地形写真:地形3,4).写真3−3、写真3−4
・黒川村塩沢東方より南の山地と丘陵の境界付近には,崩壊地が認められ,沢沿いには土石流性の堆積物からなる地形面が分布している.この地形面に変位地形は認められないことから,花立断層は南側に延長されないと判断される.また,荒川町花立南方では,南から連続するリニアメントが東に屈曲し,その延長に位置する尾根部に変位地形は認められない.このことから花立断層の長さは,変位地形が判読・確認される区間の長さである3.2kmと判断される.
地質
・花立断層に一致するリニアメントは,新第三紀の下関層と釜杭層の地層境界にほぼ一致している.また,荒川町梨木沢川上流のリニアメント付近では,下関層と釜杭層を境するN30゚E,75゚Wの断層が確認される(図3−2−11).この断層の上位には,地形面を構成する土石流性の堆積物が分布する.この土石流堆積物を切る断層露頭は確認することができなかった.
(3)加治川断層
地形
・加治川村小国谷から同村船岡山までの3.5kmの区間は,北北東−南南西方向に広がる低地とその西側に位置する丘陵との境界に,低崖,逆向き断層崖等の変位地形が連続して確認される(地形写真:地形15,17).写真3−15、写真3−17
・加治川村小国谷から中条町半山南東までの2.9kmの区間では,丘陵部に判読されたリニアメントに一致する位置に逆向き断層崖,低崖等の変位地形が断続的に確認される.リニアメントの北方延長に分布する地形面及び丘陵尾根部に変位地形は認められない.
・加治川村大桜峠付近,同村下小中山付近,同村貝塚付近では,西に2〜10゚程度傾斜する地形面の東端に低断層崖が確認され(地形写真:地形14,15,16)写真3−14、写真3−15、写真3−16,地形測量の結果,これらの地形面と沖積面との比高が2〜13mであることが明らかになった(図3−2−12).また,リニアメントを横断する沖積面で地形測量を実施した結果,沖積面に変位は認められなかった.
・加治川村貝屋以南を流れる河川は,小松原(1991)に指摘されているように巨視的に見るとリニアメントを境して800m程度の系統だった左横ずれが認められるが,櫛形山脈から流れる河川の西側延長では,丘陵に風隙がみられ,その下流部には土石流性堆積物からなる地形面の分布が確認される.
・加治川村小国谷以北のリニアメントを横断する諸河川に系統的な水平変位は認められない.
地質
・下関層及び内須川層を基盤とし,リニアメント西側の丘陵では,下小中山層,梨木層及び各地形面を構成する土石流性の堆積物が尾根から西側に分布している.内須川層と下小中山層,下小中山層と梨木層の不整合境界は,リニアメント付近でほぼ水平であるのに対し,丘陵西側では約10゚程度西に傾斜する.
・加治川村大桜峠では,渡辺・宇根(1985)によりN45〜55゚E,60゚Nの断層露頭が確認されている.今回の調査では,文献に記載されている断層露頭を確認することはできなかった.同地点では丘陵尾根部に分布する下小中山層が,丘陵東縁の山麓部に分布し(図3−2−13),リニアメント付近に西側隆起の断層が想定される.
・加治川村下小中山では,リニアメント判読位置に基盤岩である内須川層が露出することが確認されている.また,この付近の貝屋温泉で実施された温泉ボーリング結果によれば,地表下約20m付近に中新世の泥岩と更新世の礫層を境する断層が確認されている.これらのことから判断すると,地表付近の断層位置はリニアメント判読位置より東側で,西傾斜の逆断層が想定される.
(4)金山断層
地形
・加治川村貝屋南方から同村西浦までの山地と北北東−南南西方向に広がる低地の境界に,傾斜変換点,三角末端面等の断続としてNNE−SSW方向,長さ3.4kmのリニアメントが認められる.
・加治川村貝屋では,リニアメントを横断するKj − 5面が認められ,本地形面上のリニアメント通過位置に変位地形は認められない.
・加治川村西浦では,Kj − 6面がリニアメントの両側に分布している.これらの地形面に標高差は認められず,変位が及んでいないものと判断される.
地質
・リニアメント東側の山地には,下関層及び釜杭層が,西側には低地を構成する堆積物が分布し,山地と低地に境界に東側隆起の断層が想定される.
・加治川村境では,釜杭層の砂岩と礫岩を切るN55゚E,70゚Sの断層露頭が確認される.釜杭層の上位に不整合関係で重なる堆積物に変位は認められない(図3−2−14).
(5)櫛形山地東方断層群
地形
・胎内川右岸では山地と丘陵の境界に,傾斜変換点の連続〜断続として北東−南西〜北北東−南南西方向のリニアメントが認められる.
・黒川村坪穴では,空中写真判読によりリニアメントの延長上に分布する扇状地面に,低崖が判読された.現地調査を行った結果,低崖は沢の下流側に突出した弧状をなしていること,下流側には同様の弧状の低崖が平行して数列みられること,沢の対岸に見られるやせ尾根に変位が認められないことから,判読された低崖は扇状地の末端であると判断される(地形写真:地形5).写真3−5またこの付近の河川沿いに分布する谷底堆積物に変位地形は認められない.
・胎内川左岸では山地と沖積面及び段丘面の境界に,傾斜変換点の連続として北−南方向のリニアメントが認められる.
・胎内川沿いには,河成段丘が広く分布している.右岸及び左岸のリニアメントに挟まれた区間に分布する段丘面に変位地形は認められない.
地質
・胎内川右岸の黒川村坪穴では,リニアメントの東側に花崗閃緑岩,西側に流紋岩質凝灰角礫岩が分布しており,リニアメントは花崗閃緑岩と流紋岩質凝灰角礫岩の地層境界に一致する.
(6)五十公野丘陵東縁断層
地形
・五十公野丘陵東縁には,低崖,傾斜変換点の連続として,北東−南東方向に伸びるリニアメントが判読される.
・丘陵北方及び南方に分布する沖積面に変位地形は認められない.
地質
・丘陵尾根部には,下小中山層が分布している.既存ボーリング資料によれば丘陵東方では,第四系の基底面が地表下120mに分布することから,東側隆起の断層が想定される