調査地の地質については,新潟県(1989)及び小松原・田中(1994)により調査が実施されている.今回の調査では,これらの文献の層序区分におおむね従い,岩相をもとに区分を行った.さらに,地形面を構成する土石流堆積物,段丘堆積物を,Ku − 1〜Ku − 4(櫛形山地西方断層周辺),Ta − 1〜Ta − 6(胎内川流域)及びKj − 1〜Kj − 7(加治川断層周辺)に区分した.これらの地形面を構成する堆積物の堆積年代を特定するために火山灰分析を実施した.火山灰分析の結果を図3−2−6−1、図3−2−6−2、図3−2−7、図3−2−8−1、図3−2−8−2、図3−2−9及び表3−2−6に示す.
以下各層について記載する.
(1)中・古生代の堆積岩類(Pc)
中・古生代の堆積岩類は,チャート,砂岩・泥岩互層からなり,調査地南端の加治川村箱岩周辺に分布する(地質露頭写真:地質38、).写真1−38
(2)白亜紀の花崗岩類(Gd)
花崗岩類は,櫛形山脈中軸部に広く分布し,角閃石及び黒雲母が目立つ中粒〜粗粒の花崗閃緑岩からなる(地質露頭写真:地質17、).写真1−17
(3)釜杭層(Km)
釜杭層は,荒川町花立東方から加治川村下山田付近に至る調査地域全域に帯状に分布する.本層の上部は細粒の砕屑岩層からなり,下部は花崗閃緑岩の中〜巨礫を主体とする礫岩,上部はアルコース質中粒砂岩からなり,一部に酸性凝灰岩の薄層を挟む.調査地域南部に分布する本層は,深層風化が著しく進行し,マサ状を呈しており,採土場が点在する.下位層に不整合で重なる(地質露頭写真:地質4,11,37、).写真1−4、写真1−11、写真1−37
新潟県(1989)によれば,新潟油田標準層序の津川層に対比される.
(4)下関層(Sm)
下関層は,荒川町花立付近から加治川村金山付近に至る調査地域全体に帯状に分布する.本層は,層理の発達した暗灰色を呈する硬質頁岩からなる(地質露頭写真:地質8,12,14).写真1−8、写真1−12、写真1−14
中条町半山付近及び黒川村下館付近では,酸性凝灰岩を挟む(地質露頭写真:地質13,23).写真1−13、写真1−23−1、写真1−23−2、写真1−23−3
本層と下位の釜杭層との関係は直接確認できていないが,地層の分布状況から,不整合で重なっていると判断される.
新潟県(1989)によれば,新潟油田標準層序の七谷層に対比される.
また,下関層の分布地域には,流紋岩質溶岩及び流紋岩質凝灰角礫岩からなる流紋岩類が分布する.これらの流紋岩類は,荒川町花立付近,中条町鳥坂山周辺,黒川村鼓岡付近に分布する.荒川町花立付近では,流紋岩質溶岩が下関層の分布地域に分布しており,中条町鳥坂山周辺では,下関層の下部に流紋岩質凝灰角礫岩が層状に分布している(地質露頭写真:地質23).写真1−23−1、写真1−23−2、写真1−23−3
流紋岩類の噴出年代は特定されていないが,流紋岩類の分布状況から判断すると,下関層とほぼ同時期に噴出したものと考えられる.
(5)内須川層(Ut)
内須川層は,荒川町梨木付近から加治川村下小中山付近に至る調査地域全体に帯状に分布する.本層は層理の発達した暗灰色の泥岩〜砂質泥岩からなり,風化部では細片状に割れ目が発達する(地質露頭写真:地質28).写真1−28
本層と下位の下関層との関係は直接確認できていないが,下関層と調和的に分布し,整合関係にあると判断される.
新潟県(1989)によれば,新潟油田標準層序の寺泊層に対比される.
(6)鍬江層(Kw)
鍬江層は,荒川町梨木付近から中条町長橋付近に至る地域に帯状に分布するほか,黒川村下坪穴付近から同村夏井付近及び同村熱田坂付近に分布する.本層は,塊状〜層状の暗緑灰色を呈した砂質シルト岩からなる(地質露頭写真:地質7,25).写真1−7、写真1−25
下位の内須川層との関係は直接確認できていないが,不整合関係にあると判断される.
新潟県(1989)によれば,新潟油田標準層序の西山層に対比される.
(7)下小中山層(Sk)
下小中山層は,中条町飯角付近から加治川村西浦付近の丘陵に分布するほか,櫛形山脈南西部の尾根頂部に小規模に分布する.本層は,砂優勢の砂・シルト互層及び礫層からなる.礫層は,下部に多く見られ,花崗閃緑岩,チャート,砂岩等を主体とする淘汰良好な礫層からなり,基質はアルコース質中〜粗粒砂からなる.上部は,アルコース質中粒砂を優勢とする砂・シルト互層からなり,細〜小礫からなる礫層をはさむ(地質露頭写真:地質25,27−(3)).写真1−25、写真1−27−3
下位の鍬江層とは,傾斜不整合の関係で重なる.
新潟県(1989)によれば,第四紀前期更新世の地層とされ,新潟油田標準層序の魚沼層群(塚山層)に対比される.
(8)梨木層(Ns)
梨木層は,荒川町貝附付近から黒川村蔵王付近の山麓部及び中条町飯角付近から加治川村下坂町付近の丘陵に分布する.本層は,砂,シルト,礫の不規則な互層からなる.最下部には,中〜大礫の花崗閃緑岩,チャート等の亜円礫を主体とする淘汰不良な礫層が分布し,下位の下小中山層とは不整合関係で重なる(地質露頭写真:地質6).写真1−6
小松原・田中(1994)によれば,第四紀前〜中期更新世の地層とされ,新潟油田標準層序の魚沼層群(小国層)に対比され,新潟県(1989)の寺尾層に対比される.
(9)段丘堆積物・土石流堆積物
段丘堆積物及び土石流堆積物は,櫛形山脈西縁及び胎内川流域に広く分布する.これらの堆積物は,段丘面等の地形面を構成しており,胎内川を境にその特徴が異なる.櫛形山地西方断層周辺,胎内川流域,加治川断層周辺の3地区に分け,各層について以下に記載する.
A.櫛形山地西方断層周辺
櫛形山地西方断層周辺では,櫛形山脈側から供給される土石流堆積物及び荒川による河成段丘堆積物からなるKu − 1面堆積物〜Ku − 4面堆積物が分布する.
各層の概要を以下に示す.
Ku − 1面堆積物(Ku − 1)
Ku − 1面堆積物は,櫛形山脈側から供給された土石流堆積物からなり,荒川町花立付近から黒川村蔵王付近の尾根頂部及び西に傾斜する山腹斜面に分布する.本層は,風化した花崗閃緑岩礫を主体とする礫層からなり,上部はアルコース質中粒砂及びシルトからなり,褐色を呈する.礫は花崗岩類のほか,チャート,砂岩等の中・古生層起源の礫を含み亜円〜亜角礫からなる.
本層は,小松原(1991)のHT面,小松原・田中(1994)の櫛形層に対比される.
Ku − 2面堆積物(Ku − 2)
Ku − 2面堆積物は,露頭では確認されていないが,櫛形山脈側から供給された花崗閃緑岩礫を主体とする土石流堆積物からなり,荒川町花立付近及び黒川村蔵王東方の山腹斜面に分布する.
本層は,小松原(1991)のHU面,小松原・田中(1994)の大沢層に対比される.
Ku − 3面堆積物(Ku − 3)
Ku − 3面堆積物は,櫛形山脈側から供給された土石流堆積物からなり,荒川町花立付近から黒川村蔵王付近の山腹斜面及び河川沿いに広く分布するほか,黒川村塩沢付近から同村下館付近に分布する.本層は径50〜100cm 程度の花崗閃緑岩の巨礫を主体とする礫層からなり,上部は,褐色を呈する砂,シルトからなる.礫は花崗岩類のほか,チャート,砂岩等の中・古生層起源の礫を含み亜円〜亜角礫からなる(地質露頭写真:地質5).写真1−5
本層の上部に分布する褐色のシルト層について荒川町上江沢川(Loc. Ho − 19),荒川町荒島桑園南部(Loc. U − 05)で連続サンプリングを行い,火山灰分析を実施した.図3−2−6−1、図3−2−6−2に示すように,シルト層に混在する火山灰起源の火山ガラス及び斜方輝石が検出された.検出された火山ガラスと斜方輝石の屈折率測定の結果,シルト層に混在する火山灰起源の鉱物はAs−K(浅間草津テフラ,13,000〜14,000年前)に対比される.検出された火山ガラスは,上位に向かって増加すること,試料の採集深度が地表面下30〜120cmと浅く,表層の生物攪乱や土壌化の影響を受けている可能性があることから,Ku − 3面堆積物の堆積後に堆積したものと判断される.
本層は,小松原(1991)のLT面,小松原・田中(1994)の春木山層に対比される.
Ku − 3' 面堆積物(Ku − 3' )
Ku − 3' 面堆積物は,荒川町花立付近から同町梨木付近の丘陵縁辺に分布する河成段丘面の堆積物である.本層は,礫混じりの砂質シルトからなり,礫は下関層の亜角礫を多く含み,わずかに花崗岩類の亜円礫を含む(地質露頭写真:地質1).写真1−1
本層の上部に分布する褐色のシルト層について荒川町花立(Loc. Ho − 18)で連続サンプリングを行い,火山灰分析を実施した.図3−2−7に示すように,シルト層に混在する火山灰起源の火山ガラス及び斜方輝石が検出された.検出された火山ガラス及び斜方輝石の屈折率測定の結果,シルト層に混在する火山灰起源の鉱物はAs−K(浅間草津テフラ,13,000〜14,000年前)に対比される.火山灰が検出された試料は,採集深度が地表面下50〜80cmと浅く,表層の生物攪乱や土壌化の影響を受けている可能性があることから,Ku − 3面堆積物の堆積後に堆積したものと判断される.
本層は,小松原(1991)のLT面,小松原・田中(1994)の低位段丘堆積物に対比される.
Ku − 4面堆積物(Ku − 4)
Ku − 4面堆積物は,露頭では確認されていないが,丘陵西側の平野部及び諸河川沿いに分布する谷底平野及び扇状地等の堆積物であることから,礫,砂,シルトを主体とする堆積物であると考えられる.
B.胎内川流域
胎内川流域には,河成段丘堆積物が広く分布し,これらの堆積物はTa − 1面堆積物〜Ta − 6面堆積物に細分される.
各層の概要を以下に示す.
Ta − 1面堆積物(Ta − 1)
Ta − 1面堆積物は,胎内川支流沿いに分布する土石流堆積物及び黒川村夏井付近の丘陵頂部に分布する高位段丘堆積物からなる.土石流堆積物は,露頭で確認されていないが,花崗閃緑岩礫を主体とする礫層からなり,上部に砂,シルトを伴うと考えられる.高位段丘堆積物は,露頭で確認されていないが,礫,砂からなり,上部には赤褐色を呈するシルトを伴うと考えられる.
本層は,小松原(1991)のHU面,山中・八木(1987)の胎内平面に対比される.
Ta − 2面堆積物(Ta − 2)
Ta − 2面堆積物は,黒川村夏井付近に分布する中位段丘堆積物である.本層は露頭で確認されていないが,礫,砂を主体とし,上部にシルトを伴う堆積物からなると考えられる.
本層は,小松原(1991)のM面,山中・八木(1987)の夏井面に対比される.
Ta − 3面堆積物(Ta − 3)
Ta − 3面堆積物は,黒川村下館付近及び同村鼓岡付近に広く分布する河成段丘堆積物からなる.本層は,花崗岩類及びチャート,砂岩等の中・古生層起源の堆積岩類の礫を主体とする礫層からなる.
本層は,小松原(1991)のLT面,山中・八木(1987)の黒川T面に対比される.
Ta − 4面堆積物(Ta − 4)
Ta − 4面堆積物は,胎内川流域に広く分布する河成段丘堆積物からなる.本層は,径30〜50cm程度の亜円礫を主体とする礫層からなる.礫は,中・古生層起源の砂岩,頁岩等が多く,わずかに花崗岩類を含む(地質露頭写真:地質18).写真1−18
本層は,小松原(1991)のLU面,山中・八木(1987)の黒川U面に対比される.
Ta − 5面堆積物(Ta − 5)
Ta − 5面堆積物は,胎内川中流域及び上流域に分布する河成段丘堆積物からなる.本層は,花崗岩類及び中・古生層起源のチャート,砂岩等の礫を主体とする礫層からなる.
本層は,小松原(1991)のLV面,山中・八木(1987)の黒川V面に対比される.
Ta − 6面堆積物(Ta − 6)
Ta − 6面堆積物は,胎内川流域に分布する谷底平野,扇状地からなる.本層は,露頭で確認されていないが,河川性の礫,砂,シルト等の堆積物からなると考えられる.
C.加治川断層周辺
加治川断層周辺では,櫛形山脈側から供給された土石流堆積物,段丘堆積物が分布する.これらの堆積物は,Kj − 1面堆積物〜Kj − 7面堆積物に細分される.
各層の概要を以下に示す.
Kj − 1面堆積物(Kj − 1)
Kj − 1面堆積物は,中条町飯角付近から加治川村下坂町付近の丘陵尾根部に分布する土石流堆積物からなる.本層は,花崗閃緑岩,砂岩,泥岩等のクサリ礫を主体とする礫層からなり,上位は赤褐色を呈する砂,シルト層からなる(地質露頭写真:地質27−(2)).写真1−27−2
本層は,小松原(1991)のHT面,小松原・田中(1994)の櫛形層に対比される.
Kj − 2 面堆積物(Kj − 2)
Kj − 2面堆積物は,加治川村下坂町付近及び同村横岡付近に小規模に分布する土石流堆積物からなる.本層は,花崗閃緑岩のクサリ礫を主体とする礫層からなり,上部に赤褐色を呈する砂,シルトを伴う.礫は径10〜30cm(最大100cm)程度の花崗閃緑岩の亜円〜亜角礫を主体とし,砂岩,頁岩等の亜角礫をわずかに含む(地質露頭写真:地質36).写真1−36
本層は,小松原(1991)のHU面,渡辺・宇根(1985)のSU面,小松原・田中(1994)の横岡層,大沢層に対比される.
Kj − 3面堆積物(Kj − 3)
Kj − 3面堆積物は,中条町羽黒付近から加治川村貝塚付近の諸河川沿いに分布する土石流堆積物及び段丘堆積物からなる.土石流堆積物は,花崗閃緑岩の亜角〜亜円礫を主体とする礫層からなり,上部に砂,シルトを伴う.段丘堆積物は,径1〜25cm程度の亜角礫を主体とする礫層及び褐色を呈する砂,シルトからなる.礫は,花崗閃緑岩の亜角〜亜円礫を主体とし,中・古生層起源の砂岩,頁岩等のの亜円〜亜角礫をわずかに含む.
本層の上部に分布する褐色のシルト層について加治川村下坂町(Loc. Ho − 03),加治川村貝塚(Loc. Ho − 06)で連続サンプリングを行い,火山灰分析を実施した.図3−2−8−1、図3−2−8−2に示すように,シルト層に混在する火山灰起源の鉱物としてβ−石英が検出された.β−石英のほかに火山灰を起源とする重鉱物が含まれていないことから,検出されたβ−石英はK−Tz(鬼界葛原テフラ,90,000〜95,000年前)に対比される可能性が高い.また,加治川村下坂町のシルト層の最上部からは,晶癖の扁平な斜方輝石,角閃石が検出された.検出された斜方輝石及び角閃石は,その屈折率と記載的特徴からOn−Kt(御岳潟町テフラ,年代未詳),Aso−4(阿蘇4テフラ,85,000〜90,000年前)にそれぞれ対比される.K−Tz,On−Kt,Aso−4を起源とする鉱物の産出状況から判断すると,本層は85,000〜95,000年前に堆積したものと判断される.
本層は,小松原(1991)のLT面,渡辺・宇根(1985)のSV面に対比される.
Kj − 4面堆積物(Kj − 4)
Kj − 4面堆積物は,中条町羽黒沢川沿いに分布する段丘堆積物からなる.本層は,露頭で確認されていないが,花崗閃緑岩の礫を主体とする礫層からなり,上部に砂,シルトを伴う堆積物であると考えられる.
本層は,小松原(1991)のLU面に対比される.
Kj − 5面堆積物(Kj − 5)
Kj −5面堆積物は,中条町羽黒付近から加治川村金山付近の諸河川沿いに分布する土石流堆積物及び段丘堆積物からなる.土石流堆積物は,花崗閃緑岩の亜角〜亜円礫を主体とする礫層からなり,上部に砂,シルトを伴う.段丘堆積物は,径1〜10cm程度の亜角礫を主体とする礫層及び褐色を呈する砂,シルトからなる.礫は,花崗閃緑岩の亜角〜亜円礫を主体とし,砂岩,頁岩等の中・古生層起源の堆積岩類をわずかに含む.
本層は,小松原(1991)のLV面,渡辺・宇根(1985)のSW面に対比される.
Kj − 6面堆積物(Kj − 6)
Kj − 6面堆積物は,加治川村寺尾以南の丘陵縁辺に分布する段丘堆積物からなる.本層は,露頭で確認されていないが,礫,砂,シルトからなると考えられる.
Kj − 7面堆積物(Kj − 7)
Kj − 7面堆積物は,丘陵西側及び諸河川沿いに広く分布する扇状地,谷底平野等の堆積物からなり.露頭では確認されていないが,礫,砂,シルトからなると考えられる.
(10)扇状地性堆積物(fan)及び崖錐性斜面堆積物(dt)
櫛形山脈縁辺部,丘陵縁辺部及び諸河川沿いには,扇状地性堆積物あるいは崖錐性斜面堆積物が堆積している.これらの堆積物は,シルト,砂,礫からなる.