2−3−2 ボーリング調査結果

月岡断層沿いで実施したボーリング調査結果のうち、年代試料分析データシート、ボリング柱状図およびコア写真を巻末に示すとともに、表2−3−2−1表2−3−2−2表2−3−3に年代試料分析結果をまとめて示す。

以下に、各地区の調査結果について記載する。

(1) 戸板沢地区

戸板沢地区のボーリング位置を図2−3−2に示すとともに、ボーリング実施地点沿いの地質断面図を図2−3−3に示す。

A.調査目的

戸板沢地区は、笹神丘陵と村杉低地の境界に低逆向き断層崖の連続からなるN−S方向のリニアメントが判読される地域で、笹神丘陵側にはリニアメントに直交する沢地形が発達し、村杉低地に連続する沖積層が分布している。

地形地質調査結果によれば、以下のことが明らかになっている。

@リニアメント西側の低逆向き断層崖には、安野川層と笹神層の境界が標高10〜20m付近に認められ、笹神層は水平ないし西に緩く傾斜している。村杉低地を挟んだ東側の松岡駐車場脇の露頭では、西に10°前後傾斜する笹神層が分布しており、リニアメントあるいはその東側に西上がりの断層が推定される。

Aボーリング位置の北側の沢では、面を構成する堆積物を伴わない沖積面より一段高い浸食面と考えられる平坦面が西に6°傾斜するのが確認される。

B対象としたリニアメントと西側のリニアメントとの間の丘陵は、尾根部がかなり平坦で西に傾斜している。

Cリニアメントに直交する沖積面には、変位地形は認められない。

以上のことを総合すると、リニアメントは西上がりの断層運動により形成されたと判断され、沢部の沖積面には変位が及んでいないと判断される。

従って、本地区では、断層位置の特定、最終活動年代の検討を目的としてボーリング調査を実施した。

B.調査結果

a.地層区分

ボーリング結果によれば、本地区の地質は下位層より安野川層(An)、A層、B層、C層、D層、E層、F層、G層に区分される。安野川層は本地区の基盤岩となる新第三紀の地層で、灰色を呈する均質・塊状の砂質泥岩からなり、傾斜40〜70゜前後の割れ目が顕著に見られる。A層は灰色を呈するシルトからなり、一部に成層構造が見られる。B層は径0.5〜5cmのチャート、花崗岩等の亜円礫が多く含まれる礫層からなる。C層は径0.2〜3cmのチャート等の円礫を含むシルト質砂からなる。D層は層厚0.4〜0.8mの基底礫層を伴う礫混じり砂質シルトからなり、主断層の西側では、基盤である安野川層の直上に分布する。E層は腐植物、木片を多く含む腐植質シルトと腐植物混じりシルトの不規則な互層で、葉理構造が顕著に見られる灰白色シルトを境として、E1層、E2層に細分される。E2層は東に向かって層厚を増し、中粒砂層を挟むようになる。F層は五頭山側で発生した土石流堆積物と考えられ、石英粒子が目立つ淘汰良好な中〜細粒砂からなる。G層は耕作土からなる。

C層、D層、E1層を対象に14C年代測定を実施した。C層では33,130±350yBP(戸板−4孔、19.80m)の結果が得られた。D層では7,640±50yBP(戸板−3孔、10.65m)の結果が得られた。E1層では6,090±50yBP(戸板−2、7.65m)、6,420±50yBP(戸板−3孔、8.50m)の結果が得られた。A層からC層が洪積層で、D層からF層が沖積層となる。

B.断層と地層区分

ボーリングはリニアメントを挟む両側で2孔づつ実施した。図2−3−3の地質断面図に示すように、リニアメント東側の戸板−4孔の14.95m付近で断層を確認したほか、リニアメントすぐ西側の戸板−2孔の9.60m付近で副次的な断層を確認した。

戸板−4孔で確認した断層は、安野川層と未固結なC層を境する西上がり、傾斜25゜の逆断層で、幅1cm程度の灰白色シルトを挟んでいる。C層(14C=33,130±350yBP)堆積後に活動したと考えられるが、それ以降の活動は、断層延長部である戸板−4孔より東側の地質状況が不明なため、明らかでない。戸板−2孔で確認された断層は、西上がり、傾斜25゜の逆断層である。これは、安野川層中にD層と判断される幅2cmの礫層を挟み、断層上盤側の安野川層が、葉片状に破砕されていることから断層として認定した。D層(14C=7,640±50yBP)に約1mの変位が認められる。D層よりも上位の地層は、断層を挟んで連続的に分布しており、断層変位があるとしてもわずかであると考えられる。

C.まとめ及び検討課題

本年度の調査では、断層位置を特定できたが、一番東側のボーリングで主断層が確認されたため、最新活動時期の特定に至っていない。本地点は沖積層の変位地形が認められない地点であり、今後追加ボーリングを実施し、最新活動年代の特定、単位変位量等の算出を行う必要がある。

(2) 月岡南地区

月岡南地区のボーリング位置を図2−3−4、地形断面図を図2−3−5に示すとともに、ボーリング実施地点沿いの地質断面図を図2−3−6に示す。

A.調査目的

月岡断層沿いのリニアメント中で最も変位地形が明瞭な地域で、笹神丘陵側から供給された崖錐性扇状地面に明瞭な断層崖が認められる。

地形地質調査結果によれば、以下のことが明らかになっている。

@この地域は、安野川層を基盤とし、村杉低地側には沖積層が、笹神丘陵山麓部には崖錐性扇状地堆積物が分布している。

A丘陵側から供給された崖錐性扇状地面は3面に区分され、一番古い扇状地面を切る1〜3mのNNE−SSW方向に延びる直線的な東傾斜の急崖(断層崖)が認められる。断層崖の南側延長は斜面上に遷緩点として連続し、北側延長は断層崖、遷緩点として連続して追跡することができる。断層崖の延長上の新しい扇状地面には変位地形は認められない。

B上記したリニアメントの東側に約28m離れた地点では、同方向の比高0.5m、東傾斜の低崖が認められ、南北方向に不連続ながら約400m追跡することができる。西側のリニアメントは一番古い扇状地面に変位地形が認められるのに対し、このリニアメントは一番新しい扇状地面に変位地形は認められないが、2番目の扇状地面に変位が認められる。図2−3−5の地形断面図に示すように、リニアメントを境して地形面の傾斜が変化しており、上記の活断層が転移した最近の活動を示す活断層である可能性がある。

以上のことから、この地点を将来のトレンチ調査地点として、断層の位置、センス、最終活動時期の検討を行うため、ボーリング調査を実施した。なお、調査の実施にあたっては、西側のリニアメントを対象とし、東側のリニアメントについては、ボーリングで確認できるほどの変位量が見込めないため、将来、トレンチ調査で検討を行うこととした。

B.調査結果

a.地層区分

ボーリング結果によれば、本地区の地質は下位層より安野川層(An)、A層、B層、C層、D層に区分される。安野川層は本地区の基盤岩となる新第三紀の地層で、灰色で均質・塊状の砂質泥岩からなり、所々淡黄灰色を呈するノジュールを伴う。また、傾斜20〜90゜の割れ目がみられ、これらの一部はノジュールを剪断する面無し断層である。A層は礫〜礫混じり砂を主体とする村杉低地の谷底堆積物で、A1〜A4層に細分される。A1層は粘土〜シルト、A2層は礫層、A3層はシルト、A4層は礫〜礫混じり砂からなる。B層は砂を主体とする村杉低地の谷底堆積物で、B1層、B2層に細分される。B1層はシルト、B2層はシルト、砂、礫混じり砂の不規則な互層からなる。C層は断層の西側に分布する笹神丘陵を源とする扇状地堆積物で、C1層、C2層、C3層に区分される。C1層は、断層の西側に分布する地層で、礫、砂、シルトの不規則な互層からなり、安野川層を直接覆う。C2層は礫を多く含む地層で、礫、礫混じりシルトの互層からなる。C3層は、基底礫層を伴う砂質シルトからなる。D層は、耕作土からなる。

A1層、B2層、C1層、C2層を対象に14C年代測定を実施した。谷底堆積物であるA1層では、>47,470±yBP(月岡−1、34.76m)、B2層では、33,670±370yBP(月岡−1、19.64m)、19,700±80yBP(月岡−2、9.40m)、30,020±250yBP(月岡−2、15.85m)の結果が得られた。扇状地堆積物であるC1層では、7,130±60yBP(月岡−1、2.28m)、C2層では、5,510±50yBP(月岡−2、4.65m)、5,460±50yBP(月岡−2、6.75m)の結果が得られた。A層及びB層の谷底堆積物が洪積世の堆積物で、C層の扇状地堆積物が完新世の堆積物である。

B.断層と地層区分

約1〜3mの断層崖の西側で2孔、東側で1孔のボーリングを実施した。図2−3−6の地質断面図に示すように、月岡−1孔11.50m付近、月岡−3孔13.60m付近の2ヶ所で断層を確認した。確認された断層は、安野川層とB2層以深の谷底堆積物を境する逆断層で、傾斜は25゜である。月岡−1孔で確認された断層は、やや湾曲しており、明瞭な剪断面は認められない。月岡−3孔では、断層に沿って幅5cmの灰白色シルトが認められるが、明瞭な剪断面は認められない。地表では、C1層(14C=7,130±60yBP)が形成する扇状地面を切る約3m程度の断層崖が認められるが、断層東側でC1層が確認されないため、変位量は不明である。

C.まとめ及び検討課題

本年度の調査で、トレンチ調査値として本地点が有効であることを確認した。今後、トレンチ調査や追加ボーリング調査を実施し、断層の最新活動時期、単位変位量、横ずれの有無等を検討する必要がある。

(3) 野中地区

野中地区のボーリング位置を図2−3−7に示すとともに、ボーリング実施地点沿いの地質断面図を図2−3−8に示す。

A.調査目的

野中地区は、リニアメントを挟んで東側には縄文時代(約4,000年前)の土石流堆積物(T5面)が、西側には約24,000〜25,000年前の土石流堆積物(T4面)が分布し、両者は比高約0.5〜1mの崖で接している地点である。

地形地質調査結果によれば、以下のことが明らかになっている。

@リニアメント西側のT4堆積物上部には、本面を人工切り割りした水路沿いで姶良Tnテフラが確認される。東側のT5面上には、縄文時代の遺跡が確認されている。

A安田町教育委員会の遺跡発掘調査結果によれば、約4,000年前の液状化跡、ストーンサークルの変状が確認されている。

BT4面は、リニアメント付近で地形の高まりが認められる。

上記したように、本地区は地形面の年代を特定できた場所であり、最近約20,000年間の断層の平均変位速度を求めることを目的として、ボーリング調査を実施した。

B.調査結果

a.地層区分

ボーリング結果によれば、本地区の地質は下位より山ノ神層(Yk)、旧河床堆積物(Or)、土石流堆積物(D1〜D4層)に区分される。山ノ神層は、本地区の基盤岩をなす新第三紀の地層で、流紋岩質の凝灰角礫岩からなる。旧河床堆積物は、花崗岩、流紋岩等の亜円礫を主体とする礫層で、野中−1孔で確認される。礫は中・古生層起源のチャート等を含みやや丸みを帯びている。基質の砂粒子も円磨されていることから河川堆積物と判断した。土石流堆積物は、数回の堆積サイクルが認められ、下位よりD1〜D4層に区分される。更に各層は、下位の礫質な部分と上位の細粒な部分に細分される。各サイクルの下部は、花崗岩、流紋岩の亜角礫を主体とする礫層からなり、上部は中〜細粒砂と腐植質シルトの不規則な互層からなる。

D1〜D3層の腐植土を対象に14C年代測定を実施した。D1−2層では、>48,060±yBP(野中−1、5.95m)、>46,660±yBP(野中−2、7.95m)、44,250±1,300yBP(野中−4、13.98m)の年代が、D2−2層では35,610±510yBP(野中−3、10.13m)、28,590±200yBP(野中−4、8.93m)の年代が、D3−2層では25,140±160yBP(野中−4、3.87m)の年代が得られた。D3−2層に相当する地形・地質調査によるT4面上部から、地表踏査においてAT(姶良Tnテフラ、24,000〜25,000年前)が確認されており、14C年代測定結果と火山灰分析結果がよく対応している。また、D4層について、今回年代測定を実施していないが、調査地のすぐ東側の本面上からは縄文遺跡(野中遺跡)が見つかっている。また、遺跡には約4,000年前の液状化跡、ストーンサークルの変状が報告されている(安田町教育委員会)。

B.断層と地層分布

ボーリングは、断層を挟む両側で2孔づつ実施した。図2−3−8の地質断面図に示すように、断層西側ではD1層、D3層の土石流堆積物が、断層東側ではD1〜D4層の土石流堆積物が分布する。D2層およびD4層は、断層崖により西側まで土石流が及んでいないため、断層西側には、これらの地層が分布しないものと考えられる。

C.平均変位速度

本地区では、断層の両側に堆積年代をほぼ特定できたD3層(約24,000〜25,000年前)が分布している。D3層上面を利用して、上下成分の変位量及び平均変位速度を算出した。

D3層は、断層東側では西に傾斜しているが、断層西側では東に傾斜している。土石流堆積物は、五頭山側から供給されたもので、本来は西に傾斜している。断層西側は、断層運動により変形したため東に傾斜していると判断される。断層の変位量を算出するにあたって、断層西側では、断層運動による変形が及んでいない下流側の地形面の標高及び勾配を用い、断層東側ではボーリング結果を用いて算出した。その結果、D3層上面の上下成分の変位量は、約11m、平均変位速度は、0.44〜0.46mm/yとなる。

D.まとめ及び検討課題

本年度の調査で、最近約25,000年間の断層の上下成分の平均変位速度を求めることができた。しかしながら、断層西側で実施したボーリング地点は、断層運動により地層が変形した部分であり、地形面とボーリング結果を組み合わせて平均変位速度を算出した。今後、断層運動による地層の変形が認められない地点で追加ボーリングを実施し、更に精度よく平均変位量を求めることが望ましい。

(4) 中川地区

中川地区のボーリング位置を図2−3−9、地形断面図を図2−3−10に示すとともに、ボーリング実施地点沿いの地質断面図を図2−3−11に示す。

A.調査目的

中川地区は、月岡断層と村松断層の中間に位置し、低崖からなる西上がりのリニアメントがNNE−SSW〜N−S方向に約1.5km認められる地区である。

地形地質調査結果によれば、以下のことが明らかになっている。

@本地区は、鈴木(1974)、柳田(1981)等により変位地形が報告されている地点であるが、活断層研究会(1991)では、リニアメントは示されていない。

A柳田(1981)によれば、本地形面は阿賀野川により運搬された沼沢軽石を含む約5,000年前の地形面で、約1.2mの変位が認められ、平均変位速度は0.2mm/yとされている。

B今回の測量結果によれば、柳田(1981)と同様に、リニアメントを挟んで約0.7〜1.2mの比高が認められる。

C既存ボーリング結果によれば、本堆積面の下位に分布する礫層上面で約3.5mの西上がりの変位が想定される。

本地区は、月岡断層と村松断層の関連性を検討する上で重要な地区であり、判読したリニアメントが断層変位によるものかを確認するとともに、最近10,000年以降の断層変位について検討するため、ボーリング調査を実施した。

B.調査結果

a.地層区分

ボーリング結果によれば、本地区の地質は、下位よりA層、B層、C層、D層に区分される。A層は、本地区の最下位を占める地層で、径0.5〜6cmのチャート、花崗岩等の亜円礫を多く含む礫層からなる。B層はM4面を構成する地層で、B1〜B3層に細分される。B1層はシルト〜腐植質シルトを主体とする地層で、一部に砂層を挟んでいる。B2層は白色の軽石を含む中〜細粒砂からなり、全体にルーズである。B3層はシルト〜腐植質シルトと細粒砂の不規則な互層からなる。B1層、B3層を対象に14C年代測定を、B2層の軽石を対象に火山灰測定を実施した。B1層(中川−4孔、9.30m)の14C年代は5,990±60yBP,B3層(中川−4孔、1.65m)の14C年代は4,080±50yBPとなった。B2層中の軽石(中川−4孔、4.25m)の火山灰測定結果によれば、軽石は沼沢起源の軽石であることを確認した。B層はM4面を構成する堆積物で、約4,000〜6,000年前に堆積したものと判断される。

C層はB層堆積後の小河川堆積物と考えられ、B層を削り込んで堆積しており、礫〜礫混じり砂からなる。D層は、耕作土からなる。

B.リニアメントと地層分布

ボーリングは、リニアメントを挟んで両側で2孔づつ実施した。図2−3−11の地質断面図に示すように、A層とB層との地層境界は、リニアメント付近で若干変位している可能性があるが、B1層とB2層との地層境界はリニアメントを挟んで連続的に分布しており、地表の地形で判読した0.7〜1.2mの変位は確認されない。

今回のボーリング範囲では、断層は確認されなかったが、@ボーリング地点の南側の既存ボーリングで約3.5mの変位が想定されること、Aリニアメントは中川公民館の東側でNNE−SSW方向からN−S方向に変化している。南側のNNE−SSW方向のリニアメントの北方延長は、月岡断層の南端方向に延長されるが、北側のN−S方向のリニアメントの北方延長は、笹神丘陵の西側に延長され、ボーリング地点付近は人工崖の可能性があること、等から判断すると、断層は、ボーリング地点より東側に位置し、南側のNNE−SSW方向のリニアメントの延長上に延びる可能性がある。

C.まとめ及び検討課題

今回の調査では断層は確認することができなかった。本地点は、月岡断層と村松断層の連続性を検討する上で重要な位置にあり、今後、更に調査を進め、断層の有無について検討する必要がある。