地表でバイブレータ型振源等によって発生させた地震波は四方八方に伝播していくが、図2−2−2のようにその両側で音響インピ−ダンス(密度×弾性波速度)が異なる境界面(土質、地質の境界面のことが多い)で屈折、透過あるいは反射して再び地上に戻ってくる。これらのうちの反射波に着目して地下構造を調査する方法が反射法地震探査である。
山に登り、近くの山に向かってさけんでから山びこが戻って来るまでの時間をはかり、その1/2の時間に音波の空中での伝播速度(約340m/s)を乗ずることによって、その山までの距離を知ることができる。
反射法地震探査の原理もこれと全く同じであり、図2−2−3のように地表近くで発生させた地震波が地下の境界面から反射して地上に戻ってくるまでの時間を測定し、その1/2の時間になんらかの方法(速度検層、屈折法弾性波探査等)で求めた地震波の地中伝播速度を乗ずることによって、その地点における地下境界面までの深度を知ることができる。さらに受振器を地上に設定した測線上に多数配置して同じような測定を繰り返すことによって、地下境界面を連続的に把握することができる。
このように反射法地震探査の原理は非常に簡単であるが、地下から戻ってくる反射波はかなり微弱であることに加えて、図2−2−2に示したように他の種々の波の後に到着するので、これらの波がノイズとなり、そのなかに埋もれてしまうことも多い。そこで反射波を抽出するために探鉱器、現場での測定方法およびデ−タ処理の段階で、S/N比の向上を目的とした様々の工夫がなされている。
マルチチャンネル方式の測定およびCDP重合処理はその代表的なものである。
(2) マルチチャンネル方式の測定及びCDP重合
マルチチャンネル方式では図2−2−4のように震源と受震器群の測定系を順次ずらしながら測定していく。
図2−2−5(a)のように,反射面上のCDP(Common Depth Point=共通反射点の略で、発振点と受振点の中点をいう)から反射してきた地震波だけをとりだせば、伝搬経路の異なる波動が12通りあることがわかる。CDP重合とはこれらの反射波を重ねてひとつにまとめ、反射波を強調する処理であるが、その準備としてこの12通りの反射波を全てオフセット0mすなわち、発振点と受振点が同一でCDPの真上にある時の反射波に補正しておく必要がある。
同図2−2−5(b)においてオフセットXでの反射波の往復時間TXは、次式で表される双曲線になり、Xが大きくなるほどTXも大きくなる。
TX2=T02+(X/V)2
ここに,T0:オフセット0mにおける反射波の往復時間
V:反射面までの平均速度
そこで、この反射波の並びに適合するような双曲線の式を求めることが、すなわちT0とVを求めることになる。このデ−タ処理を速度解析という。このときの速度は重合速度と呼ばれ、これが精度よく求まればこれから反射面間の区間速度を算出することができる。
同図2−2−5(b)において各トレ−スから時間補正量△TX=TX−T0を差し引けば,右下がりの反射波列は全て時間T0まで持ち上がり、同図2−2−5(c)のように横一線に並ぶ.この処理を動補正(NMO補正)という。
この後、時間のそろった反射波を加え合わせることによって反射波を強調して表現することができる(同図2−2−5(d))。この処理をCDP重合あるいは水平重合という。この処理は表面波や重複反射等のノイズを低減する効果もあり、S/N比の向上に果たす役割は大きい.
(3) 作業概要
本探査は図2−2−6に示すような作業の流れで実施した。図2−2−7にこれらの作業の概念図を示し、各々の現地作業について記述する。
@現地踏査・道路申請等
現地踏査は道路状況、交通量、受震器設置可否状況、障害物(構造物)等、探査に際して問題になる点に着目して行った。
本探査を実施したのは笹神村上坂町〜出湯間の道路(県道水原・出湯線)上であったため道路一時使用のための許可申請が必要であった。申請先は、新発田土木事務所、水原警察署であった。その他、笹神村役場、関係する地区住民の区長、出湯温泉の代表者の方々への事前説明を役場を通じて行った。そのため、住民の方々からの苦情は無かった。
A測量作業(測線設定)
本調査における反射法地震探査の測線を設定するために、トランシットを使用した基線測量を実施した。具体的には水平距離5m間隔に受震点設置のための点および発震点を設定し、目印(道路上にマーカーで位置と距離を入れたもの、ビニールテープ)を付けた。その後、水準測量を実施し、後のデータ処理における地形補正で必要となるデータを得た。なお、水準測量の水準点は国土地理院四等水準点(W出湯、H=33.970)を使用した。
Bパラメータ・テスト
垂直重合数(スイープ回数)、スイープ時間、最小オフセット距離(発震点−受震器最小距離)、受震器設置の方法(グルーピング、バンチング)の有無についてテストした。
その結果、探査仕様に記述したパラメータに決定した。
C測定(探査)作業
測量作業によって設置した目印をもとに受震器(f0=40Hz、上下動、6個グループ、個々の受振器間隔は1mになる)を5m間隔で展開し、1回の発震で同時に90〜120チャンネルの受振を行った。受震器は通行の妨げにならないように道路端に設置した。その際、設置場所が地山で受震器のスパイクが挿入できる場合は直接設置したが、道路上でアスファルト・コンクリートの場合は受震器スタンド(アルミ製三脚)を介して設置した。受振器で感知された反射波などの波動データは、電圧信号に変換され、ケーブルを介して観測車(探鉱器)に転送されるが、その後、増幅、フィルター、デジタイズし、探鉱器システムの磁気テープに収録した。
震源には、火薬、加速型重錘落下、バイブレータ等々があるが、本探査では、測線の条件、探査能力(探査深度、分解能等)から勘案してバイブレータ震源(ミニバイブレータ)を使用した。震源の模式図を図2−2−8に示す。
測定パラメータについては探査仕様に記述した。これら1回(第1発震地点)の測定が終了した後、発震点及び1〜90〜120チャンネルの受震器を進行方向に5m移動し、2回目(第2発震地点)、3回目(第3発震地点)と順次移動しながら観測した。(実際の観測作業では120〜200チャンネル程度予め展開(受震器設置)をしておき、観測車側の切り替えスイッチにより90〜120チャンネル分だけ順次選択して測定される)なお、探査測線は県道であり主要道路であるため山砂等を運搬するトラックが頻繁に走行しており、そのノイズが高い状態であったが、トラック走行時は測定を中止し、データ品質を低下させないような配慮を行い作業を進めた。
Dバイブレータ震源について
バイブレータ震源は一般にスイープ波形を発生する震動装置を備えた震源のことをいう。スイープ波形とは時間軸上で発振周波数を連続的に変化させた波形のことで、周波数の変化率が一定で直線的なものをリニアスイープ、非線型なものをノン・リニアスイープという。
本探査では、リニアスイープで実施した。
図2−2−9(a)に示すようにパルスは全ての周波数の波が時間t=0のところで同位相の状態で重ね合わさったものであると考えられることからから、逆にあらゆる周波数の正弦波を何らかの方法で発震させることができればパルスを作り出すことが可能である。しかし、現実には機械的或いは電気的な限界があり、図2−2−9(b)のように限られた区間の周波数しか取り扱えないことから、それらを重ね合わせた波形は図のように完全なパルスではなく、両側に少し震動(サイドローブ)した波形になる。
バイブレータ震源は、この原理を応用してスイープによって広範囲にわたる周波数の波を発生させることで、よりパルス的な波を取り出すことができる震源である。バイブレータから地中に送り込まれたスイープ波形(図2−2−10(a))は地下のある反射点(図2−2−10(b))で反射して測定器に入力する。この時の記録波形(図2−2−10(c))と基準信号とを相互相関処理することによって図2−2−10(a)に示されるような反射波形が得られる。
本探査で使用したバイブレータ震源は商品名「ミニバイブ」と呼ばれるアメリカ・オクラホマ州タルサ市にあるIVI(Industrial Vehicles International Inc.)社で製造したもので、日本国内では今回使用したものを含め4台稼働している。
本システムは大きく震動部、制御部、動力部に分かれる。本探査で使用したものは3.5t積4輪駆動トラックシャーシに搭載されており、従来の震源と比べると機動性に富んでいる。
以下に本システムの仕様を示す。
発震周波数 :10〜550Hz
スイープ時間 :最大99秒
垂直重合回数 :最大99回
最大起震力 :6000lbsf(約2700kgf)
ホールドダウン・ウエイト:約3500kg
リファレンス波形 :3種類
(4) 使用機器
探査に使用した主要な測定機器を表2−2−2に示す。