(4)リニアメントと地形・地質

2.1.2 章で記述したとおり、笹神丘陵と村杉低地の境界付近には、活断層研究会(1991)の月岡断層とほぼ同じ位置にリニアメントが判読され、リニアメント付近に断層が推定あるいは確認される。リニアメント全体および地区毎のリニアメントと地形・地質の関係をまとめると以下のようになる。

(1) リニアメント全域

地 形

・リニアメントは活断層研究会(1991)の月岡断層とほぼ同じ位置である笹神丘陵と村杉低地の境界付近にNNE−SSW方向、長さ20kmで判読され、月岡温泉以北では3条のリニアメントからなる。リニアメントは大きくは直線的であるが、現河川を境してそれぞれが扇状を呈し、逆断層的である。また、リニアメントは長さ4〜7kmで雁行配列している。

・笹神丘陵は、村杉低地側(丘陵の東側)に標高100〜110mの定高性のある尾根がNNE−SSW方向に延び、西側に緩く傾斜し、東側が急傾斜するケスタ(傾動地塊)状の地形を有し、大きくは丘陵と村杉低地の境界付近に逆むき断層崖としてリニアメントが判読される。

・リニアメントを横断する河川は、活断層研究会(1991)で指摘されているように巨視的にみるとリニアメントを境して500〜900m程度の系統だった左横ずれが認められるが、五頭山地から流れる河川あるいは沢の延長上のリニアメント西側である笹神丘陵には、旧流路跡である風隙がみられる場合が多く、風隙を伴う沢沿いには五頭山側から供給された土石流堆積物が認められる。

・リニアメント西側の笹神丘陵東側斜面には、地滑りあるいは崩壊地形が多くの地点で認められる。

地 質

・リニアメントは上述したとおり、長さ4〜7km程度の雁行するリニアメントの集合からなるが、笹神層、土石流堆積物の分布から判断すると、リニアメントとほぼ一致して雁行する断層が推定される。

・安野川層およびそれ以前の地層は、概ねNNE−SSW走向で西に傾斜している。リニアメントを挟んで東側では、おおむね20°前後西に傾斜している。これに対し、西側では、30〜50°前後西に傾斜し、やや急傾斜となる。また、リニアメント西側(笹神丘陵)では、平野側からリニアメントに向かってほぼ一定の傾斜を有しているが、リニアメント付近で急傾斜する傾向が丘陵を横断する各河川沿いで認められる。

・リニアメント西側の笹神丘陵に分布する山寺層および笹神層は、一部でリニアメント沿いで急傾斜する部分が認められるが、おおむね10〜15°前後西に傾斜している。

・月岡温泉北側の3条のリニアメントのうち、西側のリニアメントは安野川層と笹神層を境する西上がりの断層であることが確認される。これ以外のリニアメント沿いでは、地層分布あるいは地形的特徴から断層が推定されるが、断層運動によるものと考えられる重力性の断層(小断層)は認められるが、断層本体は確認することができなかった。

・リニアメント沿いには、笹神丘陵の尾根部付近から西側に分布する山寺層および笹神層が、丘陵東側斜面に分布するのが、幾つかの地点で確認される。月岡温泉より北側では、断層運動により笹神層が東側斜面に分布しているが、月岡温泉より南側では、安野川層あるいはそれ以前の地層に囲まれるように分布し、いずれも連続性に乏しい。断層運動等により滑動した地滑りブロックと考えられる。

(2) 月岡温泉以北

地 形

・月岡温泉以北の3条のリニアメントは、西側のリニアメントが急斜面と緩斜面の境界に遷緩点の連続として認められ、東側のリニアメントが丘陵と低地の境界に崖線の連続として認められ、中央のリニアメントが東側の小規模な高まりから西に傾斜する斜面の傾斜変換点として認められる。中央のリニアメントと西側のリニアメントとの間は凹地を形成している。いずれのリニアメントも沖積面に変位地形は認められない。

・豊浦町戸板沢付近では、リニアメントを横断して笹神丘陵からいく筋もの尾根が張り出し、尾根と尾根の間には谷地形が認められる。これらの谷、尾根には横ずれを示すような系統だった変形はみられない。

・豊浦町戸板沢付近の沢部では、東側リニアメントの西側に沖積面より1m程度高い平坦面が認められる。平坦面は西に6°程度傾斜しているのが確認される。

・東側リニアメントの北方延長部である豊浦町横掘付近では、沖積段丘中にリニアメント方向に延びる凹地地形が認められる。凹地を挟んだ両側の標高はほぼ同じであり、浸食地形と考えられるが、断層はこの凹地を通って北側に延びる可能性もある。

地 質

・笹神丘陵側の安野川層と笹神層の境界は、豊浦町戸板沢付近では標高100m付近に位置するが、3条のリニアメントのうち、西側のリニアメントを境して標高10〜20m付近となる。西側リニアメント沿いでは、図2−1−11図2−1−12に示すようにリニアメントと平行な安野川層と笹神層を境する傾斜50〜78Eの正断層が確認される。従って、西側リニアメントは安野川層と笹神層を境する西上がりの正断層を示していると判断される。なお、この断層は笹神団体研究グループ(1980)の戸板沢断層に一致する。

この断層は、地質平面図に示すように戸板沢付近で落差が最大で、北側および南側に向かって変位量が徐々に小さくなっている。南側の月岡温泉付近では、以前動物園があった小丘に笹神層が分布しており、断層は小丘の西側に連続するあるいは東側リニアメント沿いに想定される断層と会合すると考えられるが、月岡温泉南側の笹神丘陵では、尾根部付近まで安野川層が分布しており、南側の丘陵までは連続しないものと考えられる。北側については、沖積平野となり、連続性については不明であるが、上述したように北側に向かって変位量が小さくなっており、長くは連続しないものと考えられる。

・西側のリニアメントと東側のリニアメントに挟まれた区間には、重力性と考えられる小断層(正断層)が多くみられる。

・東側のリニアメント付近では、上述したように標高10〜20m付近に安野川層と笹神層の境界が確認される。東側リニアメント東方の村杉低地東側の松岡駐車場脇の露頭では、標高20m付近に笹神層が西に10°傾斜して分布している。従って、東側リニアメントあるいはその東側に西上がりの断層が推定される。

(3) 月岡温泉〜女堂

地 形

・この区間は、地形的に明瞭に断層変位地形が確認される区間である。

・丘陵と低地の境界に低崖あるいは丘陵東側斜面の山麓部に地形変換点(遷緩点)の連続としてリニアメントが認められる。

・新発田市上中山西方の笹神丘陵東側山麓部には、丘陵から供給された小扇状地が認められ、新期の扇状地面には変位地形は認められないが、旧扇状地面には高さ3m程度のNNE−SSW方向に延びる明瞭な断層崖が数カ所で認められる。扇状地と扇状地の間でも遷緩点として連続的に追跡することができる。

・月岡温泉南側500m付近では、リニアメント西側で沖積段丘が西に緩く傾斜するのが確認される。笹神村女堂北側でも、標高30m付近に西側にわずかに傾斜する平坦面が分布する。平坦面は笹神層からなる。いずれも地滑り地の可能性があり、断層変位によるものか、地滑りによるものかははっきりしない。

・笹神村折居西方では、リニアメントを横断して笹神丘陵から流れる小沢が認められる。谷底堆積面には変位地形は認められない。また、この小沢はリニアメント付近で右に屈曲している。付近は地滑り地形からなり、断層運動によるものか、地滑りによるものか不明である。

地 質

・月岡温泉の東側および女堂の南側では、上述したように独立した小丘が認められる。この小丘には安野川層および笹神層が分布しており、笹神丘陵の地層分布から判断すると、小丘の東側および西側に断層が想定される。東側の断層は北側延長が沖積面上となり連続性は判断できないが、西側の断層は、南側延長では安野川層が連続的に分布しており、断層は南方に連続しないものと考えられる。従って、リニアメント沿いに想定される断層は、地表付近では雁行状配列をしているものと判断される。

・丘陵東側斜面の中腹〜山麓部にかけて、所々に緩斜面あるいは平坦面が分布する。これらの面には段丘堆積物等は分布せず、笹神層が分布している。笹神層は下位の地層に取り囲まれるように分布し、側方に連続しない。一部区間では平坦面あるいは緩斜面を取り囲むように地滑りによる崖地形が認められる。従って、これらの地形は地滑りの活動により形成されたものと判断される。

(4) 女堂〜羽黒

地 形

・丘陵と低地の境界部付近に低崖の連続としてリニアメントが認められる。

・丘陵東側斜面には崩壊地形が目立ち、山麓部には崖錐性斜面堆積物が堆積している。崖錐性斜面堆積物には変位地形は認められない。

地 質

・真光寺ニュータウンおよびその南東側の低地部では、温泉ボーリングが実施され、平野側では石油ボーリングが実施されている。ボーリング柱状図および地表地質踏査結果をもとにこの付近の地質断面図を作成すると、図2−1−13となる。真光寺ニュータウンのボーリングでは凝灰岩類が繰返し出現し、基盤岩である五頭花崗岩類は五頭山麓から西に20°前後傾斜している。従って、リニアメント付近に西傾斜の逆断層が想定される。

・真光寺ニュータウンでは、尾根部付近に安野川層を不整合に覆って笹神層が分布する。付近の両層の境界に比べて50m前後低い。ニュータウンの西側にはNNE−SSWに延びる沢地形がみられ、沢沿いに不明瞭なリニアメントが判読されるが、笹神層が安野川層に囲まれるように分布すること、ニュータウンの尾根は北側で一旦低くなり、その両側に沢地形がみられることから判断すると、ニュータウン全体が古い地滑りブロックからなると判断される。

(5) 羽黒〜ツベタ

地 形

・丘陵と低地の境界部付近に低崖、遷緩点の連続としてリニアメントが認められる。

・水原町大日ケ原から安田町ツベタにかけては雁行状の2条のリニアメントからなり、西側のリニアメントは丘陵地と低地の境界をなし、東側リニアメントは小丘の東側斜面と低地の境界をなしている。北側から延びる西側リニアメントはツベタ配水場で変位地形は認められなくなり、東側リニアメントは水原町大日ケ原から南の安田町草水にかけて連続する。

・安田町ツベタ付近では雁行する2条のリニアメントを境して、T2面、T3面が西側にステップ状に高くなっており、明瞭な断層変位地形として認められる。

地 質

・山寺層および笹神層は丘陵の尾根部付近から西側に広く分布するが、笹神村大日西方では、丘陵東側斜面の山麓付近まで分布する。地層の傾斜は、尾根部付近からリニアメント付近に向かって30°Wから70°Wに急傾斜している。地層の傾斜の状況から判断すると、リニアメント付近に西上がりの逆断層が想定される。

・五頭山側の笹神村今板の標高約80m付近、水原町大日ケ原の標高約65m付近にはT1堆積物が確認され、地形面は西に6°程度傾斜している。リニアメント西側の笹神丘陵尾根部付近の標高約90m以上にはT1堆積物が堆積している。地形面の傾斜を考慮すると、120m程度の西上がりの変位が想定される。

(6) ツベタ〜草水

地 形

・丘陵と低地の境界部に崖線としてリニアメントが認められ、安田町草水付近では崖線は断続的となる。

・安田町野中では、谷地形を完全に埋めるT4面が、比高0.5〜1mの崖を形成して、T5面と接している。付近のT5面上で遺跡発掘調査が実施され、約4,000年前の液状化跡、ストーンサークルの変形が確認されている(安田町教育委員会)。

・阿賀野川右岸部のリニアメント西側では、T2面を構成する段丘面が西に5〜6%程度傾斜し、変形しているのが確認される。

地 質

・安田町丸山南方から安田町草水にかけては、山寺層が丘陵東側斜面の中腹〜山麓にかけて緩斜面あるいは平坦面を形成して分布している。この付近の山寺層は丘陵尾根部付近に本来分布しており、他地区と同様に地滑りにより、斜面状に分布していると判断される。

・安田町草水付近では、リニアメント西側の安野川層中あるいはT2堆積物中に東傾斜の正断層が認められ、国道脇のT2堆積物中には落差5mの正断層が認められる。

・阿賀野川右岸部のT2堆積物は標高50m付近を頂点に西に傾斜して分布するが、リニアメントのすぐ西側では標高28m付近にT2堆積物が確認される。この付近に約20m程度の東落ちの断層が想定される。国道脇の断層露頭を考えあわせると、東傾斜のステップ状正断層と考えられる。リニアメントの性状からは正断層は考えにくく、断層運動に伴う2次的な断層と考えられる。