(2)地質各論

調査地の地質平面図および地質断面図を図2−1−6及び図2−1−7−1図2−1−7−2に示すとともに、調査地の地質層序表を表2−1−6に示す。

調査地の地質については、笹神団体研究グループ(1980,1982)により詳細に調査が実施されている。今回の層序区分はおおむね笹神団体研究グループ(1980,1982)に従ったほか、地形面を構成する土石流堆積物、段丘堆積物等はT1〜T5堆積物に区分した。土石流堆積物、段丘堆積物については、露頭柱状図を作成するとともに、代表地点で14C年代測定、火山灰分析を行った。分析結果を表2−1−7表2−1−8に示すとともに、露頭柱状図を巻末に示す。

以下、各地層について記載する。

(1) 五頭花崗岩類(Gr)

五頭花崗岩類は、村杉低地東側の五頭山地に広く分布し、石英・カリ長石・斜長石および黒雲母が目立つ中粒〜粗粒な花崗岩類からなる。Sasada(1975)によれば、中・古生界を貫く浅所型の不調和性深成岩体で、アダメロ岩および斑状アダメロ岩を主体としているとされている。本岩類は深層風化が著しく、いわゆるマサ化しており、いたる所でマサの採砂場が分布する。

(2) 荒川層(Ar)

荒川層は、一部に熔結構造がみられる石英安山岩質な凝灰岩類からなり、新発田市荒川西方に小規模に分布する。

笹神団体研究グループ(1980)によれば、新潟油田層序の三川層に対比される。

(3) 山ノ神層(Yk)

山ノ神層は、調査地北東方の新発田市見城周辺、五頭山地西側山麓部である笹神村今板〜安田町草水にかけて分布する。本層は礫岩を主体とし、砂岩、酸性の凝灰岩類を挟在している。礫岩は花崗岩、チャート、ホルンフェルス等の礫からなり、基質はアルコース質な砂岩からなる。凝灰岩類は、見城付近では薄層がみられる程度であるが、今板〜草水にかけては互層状を呈する。

また、本層中には、新発田市荒川周辺、笹神村勝屋、安田町丸山南方等で安山岩(Ad),流紋岩(Ry)の溶岩、貫入岩を伴っている。

本層と下位の荒川層との関係は直接確認できないが、本層は西側に緩く傾斜しており、地層の分布状況から判断すると、不整合関係で接していると判断される。

笹神団体研究グループ(1980)によれば、本層は新潟油田層序の津川層に対比される。

(4) 魚岩層(Ui)

魚岩層は、新発田市松岡〜田家周辺に広く分布するほか、折居川以南の笹神丘陵東縁に沿って帯状に細長く分布する。本層は薄層理の発達した暗灰色を呈する硬質頁岩からなり、風化部では特徴的に細片状となる。酸性凝灰岩の薄層を挟在する。

本層は下位の山ノ神層と調和的に西側に緩く傾斜しており、下位層とは整合関係にあると判断される。

笹神団体研究グループ(1980)によれば、本層は新潟油田層序の七谷層に対比される。

(5) 羽黒層(Hk)

羽黒層は、笹神村真光寺周辺及び阿賀野川右岸に小規模に分布する。黒色の珪藻質塊状泥岩からなる。本層は下位の魚岩層とは調和的に分布し、整合関係にあると判断される。

笹神団体研究グループ(1980)によれば、本層は新潟油田層序の寺泊層に対比される。

(6) 安野川層(An)

安野川層は、笹神丘陵東部に帯状に連続して分布する。本層は主に砂質シルト岩からなり、一部砂岩を挟在する。また、基底部には、淘汰の悪い花崗岩を主体とする礫岩(基底礫岩)を伴い、下位の地層とは不整合関係で接している。

本層は、笹神団体研究グループ(1980)による大日層に相当し、安井・小林(1983)によれば、本層は新潟油田層序の西山層に対比される。

(7) 山寺層(Yd)

山寺層は、笹神丘陵に分布するほか、笹神村大日、安田町城山周辺の五頭山地山麓部に小規模に分布する。本層は、砂優勢な砂・シルト互層、礫からなる。砂層は淘汰良好な中〜細粒砂からなり、シルトは上半部にやや目立つ。礫層は下半部に多くみられ、中〜小礫径の円礫からなり、淘汰良好である。また、本層の基底部には下位の安野川層の巨礫を含む基底礫が認められ、下位の地層とは不整合関係にある。

本層は、笹神団体研究グループ(1982)によれば、第四紀更新世前期の地層とされている。

(8) 笹神層(Sg)

笹神層は、主に笹神丘陵の丘陵頂部から西側にかけて広く分布するほか、月岡温泉以北の笹神丘陵西側斜面等に分布する。本層は砂、礫、シルトの不規則な互層からなり、一部に亜炭層を挟在する。下位の山寺層に比べて固結度が低く、礫は全体にクサレ礫化している。また、基底部付近には淘汰不良な基底礫層が分布し、下位の山寺層とは不整合関係にある。

本層は、笹神団体研究グループ(1982)によれば、第四紀更新世前期〜中期の地層とされている。

(9) T1堆積物(T1)

T1堆積物は五頭山側から供給された土石流堆積物で、五頭山側では、地形面の開析が著しく進み、尾根筋に面の骨格をわずかに留めている程度で、笹神村大日や同村今板付近に、笹神丘陵では、地形面の開析が進み、丘陵の尾根部付近に地形面を断片的に留め、ほぼ全域に分布している。

本層は、風化花崗岩礫を主体とする礫層で、上部には3〜4mのシルトが認められる。表層部は赤色化が進んでおり、その色調は2.5YR5/8程度である。礫は、花崗岩類のほかチャート等の中・古生層起源の礫を含み、ほとんどが亜角礫からなる。概して花崗岩類の礫は大きく、径2m程度のものもみられる。

本層の上部に分布するシルト層(赤色土壌)について豊浦町興野(Loc.TU−98)で連続サンプルを行い、火山灰分析を実施した。図2−1−8に示すように、表層部ではAT(姶良テフラ、24,000〜25,000年前)、As−YP(浅間板鼻黄色テフラ、13,000〜14,000年前)、As−BP(浅間板鼻褐色群テフラ、17,000〜21,000年前)と判断される混在した火山灰を検出したが、土壌下部からは火山灰は検出されなかった。

本層は笹神団体研究グループ(1982)の五頭礫層、渡辺・宇根(1985)のST面、小松原(1991)のHT面に対比される。小松原(1991)によれば、本層は約20〜35万年前の堆積物とされている。

(10)T2堆積物(T2)

T2堆積物は五頭山側から供給された土石流堆積物、阿賀野川沿いの段丘堆積物からなる。土石流堆積物は、五頭山側では、地形面の開析が進み、なだらかな小尾根状を呈して安田町ツベタ付近に小規模に分布する。笹神丘陵では、安田町ツベタ、笹神村小栗山、豊浦町岡屋敷付近に分布する。地形面の開析が進んでいるものの、T1面に比べ保存が良い。本層は丘陵を横断するように分布し、本層が分布する谷頭はしばしば風隙状の地形を呈している。段丘堆積物は、阿賀野川右岸部に分布している。

土石流堆積物は、風化花崗岩や中・古生層起源のチャート等の亜角礫を主体とする礫層(土石流堆積物)からなり、堆積物の上部には赤色(5YR5/8程度)の砂層やシルト層を伴っている。段丘堆積物は、中・古生層起源のチャート等を主体とする亜円礫を主体とする成層構造がみられる礫層からなる。

本層は笹神団体研究グループ(1982)の中山礫層・阿賀野川層、渡辺・宇根(1985)のSU面、小松原(1991)のHU面におおむね対比される。小松原(1991)によれば、本層は約15〜20万年前の堆積物とされている。

(11)T3堆積物(T3)

T3堆積物は五頭山側から供給された土石流堆積物、阿賀野川沿いの段丘堆積物からなる。土石流堆積物は、五頭山側では、地形面の保存はよく、水原町大日の自衛隊演習場付近にまとまって分布する。笹神丘陵では、地形面の保存はよく、主に丘陵を横断して西流する諸河川沿いに分布する。段丘堆積物は、安田町庵地付近等の笹神丘陵西側に分布している。

土石流堆積物は、花崗岩類の礫を多く含む礫層で、堆積物の上部には褐色(5YR5/8〜7.5YR5/8)のシルト層が分布している。礫は花崗岩主体で、風化花崗岩礫のほかに未風化の硬質な礫も多い。段丘堆積物は、中・古生層起源のチャート等を主体とする亜円礫を主体とする成層構造がみられる礫層からなり、堆積物の上部には土石流堆積物と同様に褐色のシルト層を伴っている。

本層の上部に分布するシルト層(褐色土壌)について笹神村安野川左岸のロシア村管理地(Loc.TU−49)、安田町庵地(Loc.TU−16)、水原町大日ケ原、自衛隊演習場(Loc.TU−143)で連続サンプリングを行い、火山灰分析を行った。その結果、3地点の表層部からはAT(姶良テフラ、24,000〜25,000年前)、As−YP(浅間板鼻黄色テフラ、13,000〜14,000年前)、As−Sr(浅間白糸テフラ、15,000〜20,000年前)と判断される混在した火山灰を検出され、さらに、Loc.TU−16、Loc.TU−143地点の下部からはSK(三瓶木次テフラ、80,000〜100,000年前)、On−Pm1(御岳第1テフラ、80,000〜95,000年前)、K−Tz(鬼界葛原テフラ、75,000〜95,000年前)と判断される混在した火山灰を検出した(図2−1−9−1図2−1−9−2図2−1−9−3)。シルト層(褐色土壌)の下部から約75,000〜100,000年前の火山灰が認められることから、本層は最終間氷期(80,000〜130,000年前)に堆積したものと判断される。

本層は笹神団体研究グループ(1982)の大日礫層・庵地層、渡辺・宇根(1985)のSV面、小松原(1991)のM面におおむね対比される。笹神団体研究グループ(1982)、小松原(1991)は、本層は最終間氷期の堆積物としており、今回の火山灰分析結果を支持している。

(12)T4堆積物(T4)

T4堆積物は五頭山側から供給された土石流堆積物および段丘堆積物からなる。土石流堆積物は、五頭山側では、地形面の保存はよく、笹神村畑江、同村今板、水原町大日ケ原、安田町丸山等に分布する。笹神丘陵側では、地形面の保存はよく、丘陵を横断する諸河川沿いに分布する。段丘堆積物は安田町二本松等の笹神丘陵西麓部に土石流堆積物と漸移して分布する。

土石流堆積物は、花崗岩類の礫を多く含む礫層で、堆積物の上部には褐色(5YR5/8〜7.5YR5/8)のシルト層が分布している。礫は花崗岩主体で、笹神丘陵西側では大きな礫は少なくなり、細礫あるいは砂が主体となり、段丘堆積物に漸移する。

本層中には、笹神村十二神(Loc.TU−52)、安田町野中(Loc.AH102503)で、本層中最上部のシルト質砂層中にAT(姶良テフラ、24,000〜25,000年前)が数cmの厚さで挟まれているのを確認した(図2−1−10)。従って、本層は24,000〜25,000年前の堆積物と判断される。

本層は笹神団体研究グループ(1982)の今板礫層・二本松層、渡辺・宇根(1985)のSW面、小松原(1991)のL1〜L2面におおむね対比される。笹神団体研究グループ(1982)は、本層とその上位の土石流堆積物に挟まれる埋没谷堆積物中の木片の14C年代測定を実施し、30,900±9,250、18,300±165yr.B.P.の年代を得ている。今回の結果と矛盾しない。

(13)T5堆積物(T5)

T5堆積物はいわゆる沖積層と最も新しい土石流堆積物からなる。五頭山麓から村杉低地にかけてと笹神丘陵を横断する河川沿いや丘陵の西側の平野部に分布する。

土石流堆積物は、五頭山麓から村杉低地に分布し、花崗岩類の未風化礫を主体とする礫層からなる。礫は角礫〜亜角礫からなり、径1mを越える礫も少なくない。基質の砂は供給源の花崗岩類の色調を反映して灰白色、黄褐色、褐色と様々な色調を呈している。沖積層は場所によって異なるが、一般的には軟質な腐植物を含む粘性土、砂、礫等からなる。また、丘陵の裾野には、沖積面から1m程度高い沖積段丘が所々に認められる。笹神村女堂北側では、径10cm以下の円礫を主体とする礫層からなっている。

沖積層については、笹神村大日西方(Loc.AH102301a)の腐植土を対象に、沖積段丘については、笹神村女堂北側(Loc.AH101902a)の礫層中にみられる植物片、豊浦町大伝南東(Loc.AH05a,Loc.AH05b)の沖積段丘を覆う縄文土器片を含む崖錐性堆積物中の腐植土を対象に14C年代測定を実施した。笹神村大日西方の腐植土(旧表土)の14C年代は250±60BP年*1である。本地点は表土、花崗岩類の鉱物片を主体とする砂層、腐植土からなる。砂層は、おおむね昭和42年の土石流災害の堆積物であることが明らかになった。沖積段丘の礫層を対象に実施した笹神村女堂北側の14C年代は380±80年BPと最近の年代が得られた。これは礫層中に侵入した植物の根を測定したためと判断される。豊浦町大伝南東の沖積段丘直上の崖錐性堆積物の14C年代は、3,090±190、3,080±60年BPの値が得られた。沖積段丘はこれよりやや古い年代に堆積したものと判断される。

(14)崖錐性斜面堆積物

笹神丘陵東側斜面や五頭山地側の河川沿いには崖錐性斜面堆積物が堆積している。シルト、礫、砂からなる。新発田市中居西方(Loc.AH101901a)の笹神丘陵東側斜面に分布する本層中の腐植土を対象に14C年代測定を実施した。1,960±60年BPの値が得られた。

*1・・・14C年代は、本文では補正14C年代を用いる。14C年代及び暦年代は表および巻末資料に示す。