3−1−2 天白河口断層の活動性

断層が過去にどのような間隔で活動していたか、また最後の活動はいつ頃であったかを知ることは、今後の断層の活動予測を行う上で重要である。間接的な証拠から、存在が予想されていた天白河口断層は、本調査において行われた音波探査や浅層反射法探査により、東海層群中における明瞭な反射面が階段状に変位している様子が確認され、東海層群中の断層の存在は確実になった。次に、天白河口断層の活動性について検討を行う。

本調査においては、断層位置と地質構造の把握を主な目的として、音波探査を海上で一測線、浅層反射法探査を潮見町と新宝町でそれぞれ一測線行っている。その結果を踏まえて、基盤到達深度が比較的浅い新宝町で70mのボーリングを3孔行い、実際の地質試料を得た。U章2−1でも述べたが、各ボーリングの間に認められる地層は高低差を持つが、ボーリング結果のみから判断する限りこの程度の高低差が断層変位により生じたと断定することは出来ない。3孔のボーリング結果を、新宝町の浅部反射断面と合わせたものが図3−1−10である。この図では、東海層群から延びてくる天白河口断層の延長の現れとしての反射面のズレは、海部・弥富層付近まで辛うじて追跡することが出来る。しかし、反射面の水平方向への連続が不鮮明で水平方向の分布を追跡しにくいため、この反射面のズレが断層による変位かどうか判断することは困難である。

図3−1−11は、稲崎(1998)による高分解能S波探査の位置と本調査の調査位置との関係を示す図である。図3−1−12は、稲崎(1998)による高分解能S波探査の探査結果である。稲崎(1998)により行われた高分解能S波探査の結果は、浅層部数十mの範囲で非常によい解像度を持っており(分解能は最小25cm)、各断面には連続の良い反射面が明瞭に現れている。このうちD測線は図3−1−10に示すように、新宝町で行った浅層反射法の測線240〜440m付近でS波探査が行われている。この結果について、本調査の浅層反射法探査結果およびボーリング結果と縮尺比率を合わせ合成したのが図3−1−13である。D測線の深度30m(標高−25m)付近には、ほぼ水平に近いが北に向かって緩やかに傾斜する非常に連続のよい反射面が認められる。この反射面は、本調査のボーリングB−2およびB−3で確認された地層と対比すると、第二礫層(約16万〜17万年前)から熱田層(約4〜16万年前)、あるいは第一礫層(約2〜4万年前)まで含む反射面であることが判る。B−2とB−3の間には、東海層群中に確認された天白河口断層F4のが延びるはずであるが、反射面は明瞭に連続しており、変位は認められない。これは、熱田層形成開始以降、断層による変位を被っていないことを示す結果と言える。

図3−1−14は、潮見町で行った浅層反射法探査の浅部断面である。測線825m付近に認められる反射面の不連続は、海部・弥富層付近まで追跡できるが、第一礫層は連続よく分布している。当該箇所の熱田層は削剥されており変位の有無を判断できない。

図3−1−15は平成8年度に行った音波探査の結果(S測線)である。測線距離1000〜1300m付近の海部・弥富層には反射面の不連続が認められるが、熱田層は断層近辺では第一礫層による削剥によりほとんど失われており変位の有無を判断しがたい。第一礫層は連続よく分布している。既存ボーリング88の第一礫層の下部には熱田層が認められ、断層を挟んで連続している。また、東海層群中に認められる反射面の落差には累積変位が認められており、第三紀のある時期からある間隔をもって熱田層形成前まで断層活動を繰り返していた可能性がある。

以上を考慮すると、海部・弥富層と第二礫層は断層による変位を受けている可能性を否定できない。また、熱田層、第一礫層が断層変位を受けている証拠は存在しない。よって天白河口断層は、海部・弥富層および第二礫層の形成時期に活動した可能性を残すが、少なくとも熱田層形成開始以降は活動していない。従って、最終活動時期は熱田層形成開始以前であり、活動が停止してから約15〜16万年以上が経過していることになる。この結果は、天白河口断層の存在を指摘した上で、第四紀後期の活動については否定的であった既存の研究(桑原,1976;西堀・野澤,1988等)と一致する。

活断層研究会(1991,「新編:日本の活断層」)は、「第四紀に活動した断層」を活断層であるとしている。一方、地質調査所(1983)、衣笠・垣見(1984)、衣笠(1987)は、第四紀に活動したすべての断層を活断層とするのは妥当でないとし、活断層を「第四紀後期に繰り返し活動した内因性の断層」としている。また、国土地理院作成の「都市圏活断層図」においては、「最近数十万年間に、概ね千年から数万年の周期で繰り返し活動してきた断層」としている。

近年、各地で活断層調査が行われてきた。これらの結果から、活動間隔が数万年を越える活断層は存在しないことが明らかになってきた。

以上の概念(第四紀後期あるいは最近数十万年間に繰り返し活動した)と、活断層の活動間隔に関する最近の知見から、天白河口断層は活断層ではないと言える。

図3−1−10 新宝町測線の浅部解釈断面図

図3−1−11 稲崎(1998)による高分解能S波探査の測線(A測線〜D測線)と、本調査および天白河口断層の位置関係図

図3−1−12 稲崎(1998)による高分解能S波探査の結果

図3−1−13 新宝町測線沿いの総合解釈断面図

図3−1−14 浅層反射法探査浅部解釈断面図(潮見町)

図3−1−15 海上音波探査による浅部解釈断面図