(4)テフラ分析

1)テフラ分析の概要

地層中に挟在するテフラ(噴火の際に火口から放出され、空中を飛行して地表に堆積した火山砕屑物の総称)の特徴は、放出された場所と年代によって異なる。特に、過去に起きた大規模な噴火によるテフラは日本各地に広く堆積し、諸分析により年代が特定されている。テフラ分析は、含まれる鉱物の種類・性状から、既知のテフラと同定することにより、堆積した年代を得るものである。本調査においては、含まれる重鉱物と、火山ガラス・角閃石の屈折率により、テフラを同定した。

(2)分析実施機関

株式会社 京都フィッション・トラック(Kyoto Fission−Track Co.,Ltd)

(3)分析期間

分析開始:平成10年10月15日

分析終了:平成10年11月20日

(4)試料採取

TB−1ボーリング(名古屋港西地区ボーリングコア分析調査報告(1986)において報告されている名古屋港西部のボーリング調査結果)においては沖積層中にアカホヤ火山灰(二次堆積)、熱田層中に御岳の軽石層などが確認されてるが、肉眼観察においてこれらに該当すると思われる火山灰は見いだされていない。明瞭な火山灰については、東海層群中より以下の3試料を採取した。

@ B−2:深度59.38〜59.43m(標高−54.90〜−54.95、優白色ガラス質細粒)

A B−3:深度65.95〜65.98m(標高−61.54〜−61.57、優白色ガラス質中粒)

B B−3:深度66.00〜66.05m(標高−61.59〜−61.64、優白色ガラス質細粒)

(5)分析方法

@前処理

まず、半湿潤状態の生試料を適宜採取秤量し、50℃で15時間乾燥させる。乾燥重量測定後、2lビーカー中で数回水替えしながら水洗いし、そののち超音波洗浄を行う。この際、中性のヘキサメタリン酸ナトリウムの溶液を液濃度1〜2%程度となるよう適宜加え、懸濁がなくなるまで洗浄水の交換を繰り返す。乾燥後、篩別時の汚染を防ぐため、使い捨てのフルイ用メッシュ・クロスを用い、3段階の篩別(60,120,250mesh)を行い、各段階の秤量をする。こうして得られた120〜250mesh(1/8〜1/16o)粒径試料を比重分別処理等を加えることなく、封入剤(Nd=1.54)を用いて岩片用薄片を作成した。

A全鉱物組成分析

前述の封入薄片を用い、火山ガラス・軽鉱物・重鉱物・岩片・その他の5項目について1薄片中の各粒子を無作為に200個まで計数し、含有粒子数の量比百分率を測定した。

B重鉱物分析

主要重鉱物(カンラン石・斜方輝石・単斜輝石・角閃石・黒雲母・アパタイト・ジルコン・イディングサイト等)を鏡下で識別し、ポイント・カウンターを用いて無作為に200個体を計数して、その量比を百分率で示した。なお、試料により重鉱物含有が少ないものは、結果的に総数200個に満たない。この際、一般に重鉱物含有の少ない試料は、重液処理による重鉱物の濃集を行うことが多いが、特に火山ガラスに包埋された重鉱物は、みかけ比重が減少するため、重液処理過程で除外される危険性があり、さらに風化による比重変化や粒径の違いが組成分布に影響を与える懸念があるため、今回の分析では重液処理は行っていない。

C火山ガラス形態分類

前処理で作成した検鏡用薄片中に含まれる火山ガラス形態を、吉川(1976)に準拠して識別・分類した。なお、含有率を測定するため、200個の粒子を測定した。その過程で、火山ガラスの有無もチェックした。

D火山ガラスの屈折率測定

前処理により調製された120〜250mesh(1/8〜1/16o)粒径試料を対象に、温度変化型屈折率測定装置(RIMS)を用い火山ガラスの屈折率を測定した。測定に際しては、精度を高めるため、原則として1試料あたり30個の火山ガラス片を測定するが、火山ガラス含有の低い試料では、それ以下の個数となる場合もある。

具体的な測定データは、巻末試料3のうち「@火山ガラス屈折率データシート」としてまとめられ、以下に述べるように表示されている。まず最上部に試料名(SeriesおよびSample Name)が印刷され、Immersion Oilは測定に使用した浸液の種類を示す。火山ガラスの屈折率ndの式は浸液温度から対応する屈折率を換算するもの、ndは屈折率、tは温度を示す。

温度変化型屈折率測定法は火山ガラスと浸液の屈折率が合致した温度を測定することにより、各浸液ごとに決められた浸液温度と屈折率の換算式から火山ガラスの屈折率を計算して求める方法である。(As.+De.)/2は液温制御の際の上昇時(Ascent)と下降時(Descent)の平均値を意味する。繁雑さを避けるためここでは測定温度を表示せず、各火山ガラス片毎の屈折率のみを表示した。

測定された屈折率値は最終的にTotalの項にまとめられる。count,min,max,range,mean,st.dev,skewness はそれぞれ屈折率の測定個数、最小値、最大値、範囲、平均値、標準偏差、そして歪度である。屈折率のhistogramの図は縦方向に屈折率を0.001きざみで表示し、横方向にその屈折率をもつ火山ガラスの個数が表現される。*一つが1個の火山ガラス片の測定結果を示す

(6)分析結果

AとBの試料は65.38〜66.16mに認められる比較的厚みを持った一つの火山灰層から採取された物であるが、構成粒子が異なり見かけ上区分されるため2試料分析した。

分析結果を表2−1−10(表2−1−10−1表2−1−10−2表2−1−10−3表2−1−10−4)に示す。分析を担当した葛椏sフィッション・トラックのコメントは以下の通りである。

(1)@は主に火山ガラスの屈折率と形態から、天神池火山灰に対比される。重鉱物データは決め手にならないものの矛盾はない。この火山灰対比は、中山・古澤(1989)のカタログ中に対比テフラが存在すると仮定した場合で、@のテフラが従来知られていないものであったとすると、対比されない。

(2)AおよびBは主に火山ガラスの屈折率と形態から、佐布里火山灰に対比される。重鉱物データは決め手にならないものの矛盾はない。中山・古澤(1989)に示された佐布里火山灰は、屈折率が高いものと低いもの二つのパターンを持つが、そのうち屈折率の低い方がAに対比され、屈折率の高い方がBに対比されると解釈すれば矛盾がない。

上記のコメントから、B−2の火山灰は天神池火山灰としての要素を持つが、未知の火山灰である可能性を残していることが判る。B−3の火山灰は佐布里火山灰としての要素を持ち、さらに二つの屈折率のピークを持つという他にない特徴が一致するため、佐布里火山灰である可能性が非常に高いことが判る。また、少なくともB−1,B−3は同じ火山灰であるとのコメントも得ている。

*天神池火山灰層は、B−1ボーリングで確認された佐布里火山灰よりも上位に位置する火山灰層で、知多半島北部において佐布里火山灰のおおよそ55m上位に観察されている(牧野内ほか、1992)。

テフラ分析結果

表2−1−10−1 全鉱物組成分析結果一覧表

表2−1−10−2 重鉱物組成

表2−1−10−3 火山ガラス形態分類一覧表

表2−1−10−4 火山ガラス屈折率測定結果一覧表