(2)イオウ分析結果

1)イオウ分析の概要

本手法は、堆積物試料中のFeS2(黄鉄鉱,pyrite)のイオウ成分の含有量を測定することにより、過去の堆積物環境を復元しようとするものである。FeS2含有量は水塊中の塩分に大きく規定され、とくに、海成堆積物と淡水成の陸成堆積物とではFeS2含有量が著しく異なる。沖積層のボーリングコア試料のFeS2含有量を分析することにより、海成層の上限と下限の認定が試みられている(白神,1985,1987)。

(2)分析実施機関

株式会社 地球科学研究所

(3)分析期間

平成10年10月 1日

平成10年10月15日

(3)試料採取

本調査における試料採取は、対象を熱田層とした。

試料は、出来るだけ粘土質の層を、 B−2で6試料、B−3で10試料採取した。長さ10cmの試料採取用コアから均等に採取した。採取した試料は、ただちにビニール製の袋に入れ、分析を行った。

(5)分析方法

分析方法については、特殊な分析機器を要さず分析操作が容易である以下の手法によった(第四紀試料分析法,日本第四紀学会,1993)。

@試料を乾燥させたのち、乳鉢でよく粉砕し、235メッシュのふるいを用いて、細粒成分のみを5〜10g取り出す。

A試料からFeS2以外のイオウ化合物を除去するため、試料を希塩酸中に加えたのち、水で洗浄・ろ過し、約100℃で乾燥させる。

B試料をよく粉砕し、秤量したのち、小型の三角フラスコに入れ、硝酸15ml、塩酸5ml、臭素水1ml、水20mlの混合溶液を加え、ウォーターバス内において80℃で30分間加熱する。この操作は、試料中のFeS2を酸化させSO42−に変形させるためのものである。

C三角フラスコの内容物をろ過・洗浄し、ろ過・洗液約500mlをビーカーに移し、沸騰しない程度に緩やかに加熱する。

Dビーカー内のろ液・洗液をゆっくり攪拌しながら、5%の塩化バリウム水溶液5mlをピペットを用いてこれに加える。この操作によってビーカー内にBaSO4の白濁が生じた場合には、Eの操作を行う。逆に白濁が生じなかった場合には、Fの操作を行う。

E緩やかに加熱を続けながら、白濁が完全に沈殿するまで静置したのち、Dの操作を再び行う。塩化バリウム水溶液を加えても白濁が生じなくなるまでD,Eの操作を繰り返す。

F加熱をやめ、時計皿等で蓋をして一夜静置する。

Gビーカー内の上澄液を捨て、BaSO4沈殿をよく洗浄したうえ、ろ紙No.5Cを用いてろ過し、沈殿を熱湯でさらに数回洗浄する。

H沈殿をろ紙の中に包んで、あらかじめ秤量してある磁製ルツボに入れ、電気炉またはガスバーナーを用いて、ろ紙を炭化・灰化させたのち800〜900℃で強熱する。

Iルツボをデシケーター内で放冷したのち、秤量し、BaSO4沈殿の重量を得る。

J沈殿の重量およびBで得られた試料重量から、試料中のイオウ(FeS2−S)含有量を百分率で算定する。

以上の分析法は、できるだけ簡便な操作によりイオウ含有量の定量を行うことを目的としたものであり、イオウ含有量に著しい差異がみられる海成堆積物と陸成堆積物の境界を認定しようとする場合には有効である。

(6)分析結果

本調査におけるイオウ分析結果を表2−1−6および表2−1−7に示す。

堆積物中のFeS2は一般に海成の堆積物ほど多く含む傾向がある。市原(1984)は大阪層群の堆積物中に含まれるイオウの量について述べており、海成粘土に0.38〜1.72%のイオウが含まれ、淡水成の粘土には0.09%程度しか含まれていない事を報告している。今回の分析値で、最上部がやや低く下部は皆1.0%前後の値を示しており、海成であると考えられる。B−3についてはコア観察の当初、37m付近まで熱田層である可能性を考え、分析試料を27mから37mまで抽出したが、分析結果を見ると34.20〜34.30mの試料より下はいずれも0.1%を下回っており淡水成を示している。この結果からは、34.20〜34.30m以下は熱田層とは考えにくい。従って、この淡水成を示す部分を第二礫層および海部・弥富層に区分した。

表2−1−6 B−2イオウ分析結果

表2−1−7 B−3イオウ分析結果