浅層反射法探査の結果は、総じて平成8年度に港区潮見町で実施した浅層反射法探査結果に調和的である。深度1000mまでの深部解釈断面図に示すように、東海層群(P1〜P4)の明瞭な反射面が認められ、測線南側(追加距離600〜1190m)の反射面はほぼ水平に分布して乱れがなく、断層は存在しないことが確認できた。測線中央からやや北寄り(追加距離350〜600m)に、F1・F4の2条の断層が認められ、断層帯の幅約250mで、第三紀中新世の中新統(M)〜鮮新世の東海層群を切っている。断層の傾斜はほぼ70〜80度で、その形態は階段状北落ちの正断層と考えられる。
東海層群や海部・弥富累層の変位量及び上部層も含めた地質分布等については、調査ボーリングB−1、反射面および既存ボーリング資料による推定であり、正確な情報は今後の調査ボーリングで明らかにする必要がある。
(2)浅層反射法探査結果における反射面の累積性に関する考察
平成8年度に探査を実施した名古屋市港区潮見町(9号地)における深部断面の地質構造解釈では、「東海層群の変位量に累積性はほとんどない」としていた。
しかし、平成8年度及び9年度の浅層反射法探査 深部 深度断面図について、図3−1−1に矢印で示す明瞭な反射面(主要反射面)の変位量(垂直変位)を詳細に計測した結果、有意と思われる変位量の差を見出した。その結果を表3−1−1に示す。
表3−1−1 東海層群主要反射面の変位量計測結果(垂直変位量)
図3−1−1 変位量を計測した東海層群主要反射面
表3−1−1は、断層による地層の変位量を示し、主要反射面としては、9号地でA1からD1までの4反射面、新宝町でA2からD2までの4反射面を、それぞれの深部深度断面図より選定したものである。A1〜D1・A2〜D2は、いずれもP4層からP1層を代表する反射面であるが、A1とA2、B1とB2、C1とC2、D1とD2がそれぞれ同一層準の反射面と断定できる調査結果は得られていない。
表3−1−1に示す計測結果をもとに、断層の変位量(活動性)を検討すると、下記のようになる。
@ 東海層群の中・下部に挟まれるB1,B2、C1,C2、D1,D2反射面の変位量については、9号地および新宝町ともに、累積性を示唆する有意の差は認められず、反射法探査の誤差範囲(解析精度限界)内にあると考えられる。
B1,B2、C1,C2、D1,D2それぞれ3つの反射面の平均変位量は、9号地で152m、新宝町で110mである。
A 東海層群上部の挟まれる反射面A1,A2の変位量は、上記B1,B2、C1,C2、D1,D2それぞれ3つの反射面の平均変位量と比較して有意の差があり、9号地で約35m(152m−116m)、新宝町で約25m(110m−84m)である。
B 上記の@・Aから、東海層群全体にわたって、9号地の変位量が新宝町の変位量より大きい傾向が認められる。このことは、「新編:日本の活断層(1991)」で、天白河口断層の変位量(南側隆起)は東部で落差0,西部で大きくなり最大300mに達する、としていることに矛盾しない。
C B1,B2、C1,C2、D1,D2それぞれ3つの反射面の変位量に累積性がなく(@)、一方、B1,B2、C1,C2、D1,D2反射面とA1,A2反射面の変位量に有意の差があるとすると(A)、B1,B2反射面の形成以降A1,A2反射面の形成前に数回、A1,A2反射面の形成後に数回の断層活動が考えられる。A1,A2反射面形成前の数回の累積変位量は新宝町で約25m(110m−84m)に達する活動であったと推定される。
また、新宝町のA2反射面とB2反射面間の層厚はF1の南側(不動側)が約150m、F4の北側が約170mであり、この断層活動による落ち込み側の層厚が大きい傾向も読み取れる。
D 新宝町のB−1ボーリング(深度37.56〜37.72m)で確認された佐布里火山灰層(約350万年前)と、常滑累層の堆積速度約1.5m/1万年(吉田史郎ほか,1997)をもとにして、A2反射面の形成年代を推定すると約490万年前となる〔350万年+(250m−40m)/1.5m/1万年〕。この約490万年前以降から約350万年前までの間について、深部 深度断面図からは、断層変位の有無を読み取ることはできない。また、本調査地での東海層群の最上部層(P4)は、大きく削剥されており、佐布里火山灰堆積以降の地層の大部分が欠落しているため、この間の断層活動履歴は不明である。