地層中に挟在するテフラ(噴火の際に火口から放出され、空中を飛行して地表に堆積した火山砕屑物の総称)の特徴は、放出された場所と年代によって異なる。特に、過去に起きた大規模な噴火によるテフラは日本各地に広く堆積し、諸分析により年代が特定されている。テフラ分析は、含まれる鉱物の種類・性状から、既知のテフラと同定することにより、堆積した年代を得るものである。本調査においては、含まれる重鉱物と、火山ガラス・角閃石の屈折率により、テフラを同定した。
(2)分析実施機関
株式会社 京都フィッション・トラック(Kyoto Fission−Track Co.,Ltd)
(3)分析期間
分析開始:平成10年1月27日
分析終了:平成10年2月13日
(4)試料採取
名古屋港西地区ボーリングコア分析調査報告(1996)におけるTB−1ボーリングのテフラ分析による主な成果は次のようである(TB−1の位置は、図2−2−3を参照)。
@深度17.00〜17.50m(沖積層:シルト)=アカホヤ火山灰二次堆積
A深度26.00〜26.50m(熱田層上部) =御岳辰野軽石層(PmV)
B深度26.90〜29.50m(熱田層上部) =御岳辰野軽石層(PmV)
C深度31.50〜32.00m(熱田層上部) =御岳薮原軽石層(PmU)
D深度32.00〜32.50m(熱田層上部) =御岳第一軽石層(PmT)
E深度95.95〜96.00m(海部・弥富累層)=シルト中にガラス密集部あるも対比不明
本調査においても、上記@〜Eのいずれかがボーリングコアより得られるものと予想された。しかし、沖積層については深度10m以深のコアを約50cm間隔で水洗・肉眼観察したが、明瞭なテフラ層は認められなかった。熱田層、海部・弥富累層および東海層群については、東海層群中に肉眼観察によってテフラ層が1層認められ、試料を採取した。
見つかったテフラ層は、東海層群中の深度37.56〜37.72mに存在し、37.72mを基底面とする堆積構造を示す。
(5)分析方法
@前処理
まず、半湿潤状態の生試料を適宜採取秤量し、50℃で15時間乾燥させる。乾燥重量測定後、2lビーカー中で数回水替えしながら水洗いし、そののち超音波洗浄を行う。この際、中性のヘキサメタリン酸ナトリウムの溶液を液濃度1〜2%程度となるよう適宜加え、懸濁がなくなるまで洗浄水の交換を繰り返す。乾燥後、篩別時の汚染を防ぐため、使い捨てのフルイ用メッシュ・クロスを用い、3段階の篩別(60,120,250mesh)を行い、各段階の秤量をする。こうして得られた120〜250mesh(1/8〜1/16o)粒径試料を比重分別処理等を加えることなく、封入剤(Nd=1.54)を用いて岩片用薄片を作成した。
A全鉱物組成分析
前述の封入薄片を用い、火山ガラス・軽鉱物・重鉱物・岩片・その他の5項目について1薄片中の各粒子を無作為に200個まで計数し、含有粒子数の量比百分率を測定した。
B重鉱物分析
主要重鉱物(カンラン石・斜方輝石・単斜輝石・角閃石・黒雲母・アパタイト・ジルコン・イディングサイト等)を鏡下で識別し、ポイント・カウンターを用いて無作為に200個体を計数して、その量比を百分率で示した。なお、試料により重鉱物含有が少ないものは、結果的に総数200個に満たない。この際、一般に重鉱物含有の少ない試料は、重液処理による重鉱物の濃集を行うことが多いが、特に火山ガラスに包埋された重鉱物は、みかけ比重が減少するため、重液処理過程で除外される危険性があり、さらに風化による比重変化や粒径の違いが組成分布に影響を与える懸念があるため、今回の分析では重液処理は行っていない。
C火山ガラス形態分類
前処理で作成した検鏡用薄片中に含まれる火山ガラス形態を、吉川(1976)に準拠して識別・分類した。なお、含有率を測定するため、200個の粒子を測定した。その過程で、火山ガラスの有無もチェックした。
D火山ガラスの屈折率測定
前処理により調製された120〜250mesh(1/8〜1/16o)粒径試料を対象に、温度変化型屈折率測定装置(RIMS)を用い火山ガラスの屈折率を測定した。測定に際しては、精度を高めるため、原則として1試料あたり30個の火山ガラス片を測定するが、火山ガラス含有の低い試料では、それ以下の個数となる場合もある。
具体的な測定データは、巻末試料3のうち「@火山ガラス屈折率データシート」としてまとめられ、以下に述べるように表示されている。まず最上部に試料名(SeriesおよびSample Name)が印刷され、Immersion Oilは測定に使用した浸液の種類を示す。火山ガラスの屈折率ndの式は浸液温度から対応する屈折率を換算するもの、ndは屈折率、tは温度を示す。
温度変化型屈折率測定法は火山ガラスと浸液の屈折率が合致した温度を測定することにより、各浸液ごとに決められた浸液温度と屈折率の換算式から火山ガラスの屈折率を計算して求める方法である。(As.+De.)/2は液温制御の際の上昇時(Ascent)と下降時(Descent)の平均値を意味する。繁雑さを避けるためここでは測定温度を表示せず、各火山ガラス片毎の屈折率のみを表示した。
測定された屈折率値は最終的にTotalの項にまとめられる。count,min,max,range,mean,st.dev,skewness はそれぞれ屈折率の測定個数、最小値、最大値、範囲、平均値、標準偏差、そして歪度である。屈折率のhistogramの図は縦方向に屈折率を0.001きざみで表示し、横方向にその屈折率をもつ火山ガラスの個数が表現される。*一つが1個の火山ガラス片の測定結果を示す
E鉱物の屈折率測定
基本的には火山ガラスの屈折率測定と同様な操作を経て測定作業を行うが、鉱物の屈折率測定は光学的方位をチェックする必要がある点で大きく異なっている。測定に際しては、屈折率値の精度を高める原則として1試料あたり30結晶を測定するが、含有の少ない場合はそれ以下になる場合もある。対象鉱物は緑色普通角閃石で横山・山下(1986)に準じ対象鉱物片の屈折率を測定した。
具体的な測定データは、巻末試料3のうち「A普通角閃石(Hb)の屈折率データシート」としてまとめられ、以下に述べるように表示されている。まず最上部に試料名(SeriesおよびSample Name)が印刷され、Immersion Oilは測定に使用した浸液の種類を示す。試料の屈折率ndの式は浸液温度から対応する屈折率を換算するもの、ndは屈折率、tは温度を示す。
温度変化型屈折率測定法は試料と浸液の屈折率が合致した温度を測定することにより各浸液ごとに決められた浸液温度と屈折率の換算式から試料の屈折率を計算して求める方法である。(As+De.)/2は液温制御の際の上昇時(Ascent)と下降時(Descent)の平均値を意味する。繁雑さを避けるためここでは測定温度を表示せず、試料片毎の屈折率のみを表示した。測定された屈折率値は最終的にTotalの項にまとめられる。count,min,max,range,mean,st.dev,skewnessはそれぞれ屈折率の測定個数、最小値、最大値、範囲、平均値、標準偏差そして歪度である。屈折率のhistogramの図は縦方向に屈折率を0.001きざみで表示し、横方向にその屈折率をもつ試料個数が表現される。*一つが1個の鉱物片の測定結果を示す。
6)分析結果
分析結果を表2−2−9に示す。巻末資料5−@に火山ガラス屈折率、5−Aに普通角閃石屈折率のデータを添付する。
表2−2−9 テフラ分析結果表
(7)考察
今回分析を行った結果をもとに、以下にテフラの対比を試みた。テフラ試料は挟在する層相から常滑層群中のテフラと判断されることから、以下には常滑層群中のテフラを系統的に分析・記載した公表論文(中山・古澤,1989)をもとに、近似性の高い分析値をもつものを検討した。具体的には、中山・古澤(1989)の常滑層群中のテフラ層の岩石学的特性の一覧表(表2−2−10)と今回の分析結果とを比較した。
検討の結果、中山・古澤(1989)に記載された20枚のテフラ層の中で、火山ガラス形態・火山ガラスの屈折率・重鉱物組成の3つの要素が対比して矛盾のないものは、東谷火山灰層(Higashidani)および佐布里火山灰層(Souri)の2枚のみであることが判明した。さらに露頭での観察記載を検討すると、佐布里火山灰層(糸魚川,1971)がより近似すると判断される。ただし今回の分析試料中には火山ガラス中には火山ガラス中にβ−石英(高温型仮晶形を呈する石英)を包埋するものを含むという特徴があるが、中山・古澤(1989)には軽鉱物に関する記載がまったくなく、比較が困難である。より正確な対比を目指すならば、β−石英の有無や今回得られた角閃石の屈折率値などの要素からも、検討が必要となろう。
佐布里火山灰層の年代は未測定であるが、およそ350万年前と考えられる。
その根拠は、佐布里火山灰層の直下に挟まれる東谷火山灰層が、360万年前[3.6±0.2(Ma);吉田史郎ほか,1997]とフィッショントラック年代が出ているからである(牧野内による)。
図2−2−6に、知多半島における東海層群とフィッショントラック法年代測定による年代(吉田史郎ほか,1997)を示す。
図2−2−6 知多半島東海層群とフィッショントラック年代(吉田史郎ほか,1997)
表2−2−10 常滑層群中のテフラ層の岩石学的特性(中山・古澤,1989)