港区潮見町(9号地)で実施した浅層反射法探査測線の位置を図2−3−8(前述の音波探査の章)に示す。また、ショット記録を図2−4−3−1、図2−4−3−2に示す。
図2−4−3−1は追加距離250,1250,1750mで取得されたショット記録である。オリジナルのショットレコードにAGC(400msec)をかけたものである。図2−4−3−2は重合直前の記録で、Refraction Statics,Residual Statics,Spiking Deconvolution及びAGCの処理をしている。
全測線にわたって、初動はFar Offsetまで認められ、表面波は弱く、遅い。全データに測線南方からと思われるリニアノイズがあり、北側で著しい。南側ではオリジナルのショットレコードでも明瞭な反射波が認められ、北側では不明瞭である。
一方、重合直前の記録では、南側の反射波はより明瞭となり、北側でも連続性に欠けるが、反射波が400〜700msecに認められる。
(2)深部断面の解析結果
深度1000mまでの深部断面の解析結果として、図2−4−4〜図2−4−9の図面を作成した。
図2−4−4の時間断面図(マイグレーション前)では、700〜800msecまで水平に連続した反射面が認められる。特に、追加距離0〜600mと1300〜2000mは明瞭である。
図2−4−5の時間断面図(マイグレーション後)は、図2−4−4をマイグレーション処理したもので、傾斜した構造は正しい位置に修正されると共に、回折波がなくなり、記録が整理されているのがわかる。
時間断面図の上部に示す速度は、反射法の処理の仮定で得られた速度で、この重合速度(INTV)を測線方向に平滑化してカラー表示したものが図2−4−6である。速度はほとんど水平に分布し、深部になるにつれ速度が早くなっている。表層から深度150mまでは1300〜1500m/sec、深度300mまでは2000m/sec以下、それ以深は約3000m/secである。
図2−4−7,図2−4−8の深度断面図は、図2−4−4,図2−4−5の時間断面図を図2−4−6の速度構造に基づき深度に変換したものである。図2−4−9はマイグレーション後の深度断面図をカラー表示したものである。
(3)深部断面の考察(地質構造解釈)
図2−4−10の地質構造解釈図は、図2−4−8深度断面図(マイグレーション後)に地質資料による地層境界等の解釈を加えて作成した。最新名古屋地盤図(1988)の地質層序を参考に、表2−4−2に示す区分とした。
名古屋港周辺における温泉井戸の資料によれば、600〜700mで美濃帯中古生層や変麻岩・花崗岩などの基盤に達するものと、1000〜1200mを越えても第三紀層(東海層群)中のものがある。また、古本ほか(1987)の資料では、港区潮見町(9号地)周辺の中新統−鮮新統の境界深度はおよそ900mとされている。
牧野内・中山(1990,アーバンクボタNo.29)によれば、東海層群に対比される知多半島の常滑層群は下記のように区分されている。
牧野内・中山(1990)の層序区分 :本探査の記号
布土累層上部(最大層厚約300m): P4
布土累層下部(最大層厚約200m): P3
河和累層(最大層厚約180m) : P2
豊丘累層(最大層厚約 85m) : P1
図2−4−10の地質構造解釈図に示すように、東海層群は全体層厚が700〜800mであり、反射面の特徴から、比較的明瞭に4層に区分でき、かつ、それぞれの層厚もほぼ認定できる。したがって、東海層群の解釈は、本探査結果とよく整合する牧野内・中山(1990)の層序区分を引用することとし、下位からそれぞれP1〜P4とした。
図2−4−10の地質構造解釈図では、測線北側(追加距離0〜600m)の深度800mまでと測線南側(追加距離1300〜2000m)の深度700mまでは、ほとんど水平に連続した反射面が認められる。反射面のパターンから、東海層群に対比される常滑層群(P1〜P4)に相当する。測線北側の深度900mと測線南側の深度700〜750m以深には、中新統(M)が分布するものと推定される。
深度100m以浅の地層は、後述の浅部断面で述べるが、海部・弥富累層(Dm)や熱田層(D3)、沖積層(A)に対比される。
第三紀中新世(M)〜鮮新世(P1〜P4)の地層を切る断層が、測線中央(追加距離840〜1250m)に認められた。その形態は階段状北落ち(傾斜角70〜80度)の正断層で、水平距離約400mの間に4条(F1〜F4)の断層からなるものと考えられる。南側のF1は反射面のずれが最大で、約70〜80mである。F2〜F4は、それぞれ約20〜30m程度のずれである。各断層ごとのP1からP3間での変位量に累積性はなく、4条の断層の両側での総変位量もP1からP3で約120〜150mと累積性はほとんどない。最上位のP4上面は、測線北側(追加距離0〜800m)で深度約100m、南側(追加距離1300〜2000m)で深度約40mであり、その比高差は約60mであるが、Dmにより削剥されているため変位量は不明である。東海層群の変位量に累積性がほとんどないことから、東海層群の最上部層(P4)堆積の後期以降、約100万年前頃から断層運動が開始されたものと推定される。
F1は、P4層上面まで反射面をずらしている。F2,F3は、深度300m以浅のP4層中では反射面が不明瞭になるため、上部を推定断層とした。F4は、深度100m以浅の海部・弥富累層(Dm)に対比される地層の反射面も不連続にずらしている可能性が高い(後述)。
なお、潮見町(9号地)の測線北側(追加距離0〜800m)と南側(追加距離1300〜2000m)では、断層は存在しないことが確認できた。
以上のとおり、深部断面から下記の事項が把握された。
@東海層群(P1〜P4)の明瞭な反射面が認められ、測線北側(追加距離0〜800m)と南側(追加距離1300〜2000m)は、反射面がほぼ水平に分布して乱れがなく、断層は存在しない。
A測線中央(追加距離840〜1250m)に、F1〜F4の4条の断層が認められ、第三紀中新世の中新統(M)〜鮮新世の東海層群を切っている。
B断層の傾斜はほぼ70〜80度で、その形態は階段状北落ちの正断層と考えられる。
C東海層群の変位量に累積性はほとんどなく、東海層群の最上部層(P4)堆積の後期以降、断層運動が開始されたものと推定される。
(4)浅部断面の解析結果
深度150mまでの浅部断面の解析結果として、図2−4−11〜図2−4−14の図面を作成した。
図2−4−11の時間断面図(マイグレーション前)は、重合前後で低周波除去の帯域通過フィルターをかけるなどの再処理を行ったものである。全体に高周波となったが、繰り返しイベントが多くなり、反射面の連続性はあまり良くない。浅部で不明瞭であるにもかかわらず、深部ではかなり明瞭に反射面が認められることから、震源の起震力が不十分であったとはいえず、もともと浅部での高周波の反射記録に乏しかったためと考えられる。
反射法の処理の仮定で得られた重合速度(INTV)を測線方向に平滑化してカラー表示したものが図2−4−12である。速度は測線北側から中央付近まではほぼ水平に分布し、南側で浅くなる。北側の深度80m〜南側の深度60mまでは1300〜1500m/sec、それ以深は1500〜1700m/secである。
図2−4−13の深度断面図は、図2−4−12の速度構造に基づき深度に変換したものである。図2−4−14はマイグレーション後の深度断面図をカラー表示したものである。
(5)浅部断面の考察(地質構造解釈)
地質資料は資料調査で収集した既存ボーリング資料であり、層相区分・N値と柱状図の記事から地層を詳細に検討し、図2−4−15の地質断面図G(横:1/10,000、縦:1/1,000)を作成した。ボーリングNo.98,99,141は最新名古屋地盤図(1988)によるものであり、それ以外のボーリングは柱状図(記事を含む)として入手したものである。
図2−4−16の地質構造解釈図は、図2−4−13深度断面図(マイグレーション後)に地質資料による地層境界等の解釈を加えて作成した。
盛土(B)は、柱状図から判定できるだけで、反射記録からは不明である。
沖積層(A)は、N値0〜3程度のシルト・粘土層で、測線北側(追加距離0〜400m)の深度10〜12m、中央から南側(追加距離500〜2000m)の深度32〜35mまで分布する。反射面の連続性は良くない。
熱田層(D3)は、砂・シルト・粘性土で、既存ボーリング(No.100)の深度22.5〜24m付近に軽石が分布し、Pm−T(御岳火山第一浮石層)と考えられる。測線北側(追加距離0〜450m)の深度35mまで分布する。
海部・弥富累層(Dm)は、N値8〜15程度のシルト・粘土層、N値50以上の礫層と砂・シルト層からなり、測線北側(追加距離0〜800m)は深度100mまで分布する。一方、測線南側(追加距離1300〜2000m)は深度37〜38mと浅く分布する。測線中央(追加距離800〜1300m)は、既存ボーリングがないが、反射パターンから深度40〜73mまで分布するものと推定した。この箇所は、東海層群の可能性も残る。
東海層群(P4:常滑層群布土累層上部に相当)の上面は、測線南側(追加距離1300〜2000m)は深度37〜38mと浅く分布する。一方、測線北側の既存ボーリング(No.100)の深度91.6m以深は東海層群との記載があるが、継続調査の既存ボーリング(No.101)では同じ層準まで海部・弥富累層としている。したがって、測線南側(追加距離0〜800m)のP4の上面は、深部断面の解析結果も含めて、深度100mまたはそれ以上深いものと推定される。
深部断面で認められた東海層群(P4)を切る断層は、浅部断面では反射面の連続性が良くないため不明瞭であるが、F1はP4層上面まで反射面をずらしている。F2,F3の推定断層は、その上位の海部・弥富累層(Dm)と推定した反射面もやや不連続であり、変位させているようにも見えるがよくわからない。
北側のF4は、東海層群(P4)を切り、上位の海部・弥富累層(Dm)に対比される地層の反射面も不連続でずれているものと推定される。階段状の断層落ち込みによりP4上面は削剥される条件下であるが、P4上面はF4の北側で深度94m、南側で深度73mであり、その比高差は約20mである。Dm中の礫層(第三礫層に相当)は、F4の北側では深度55〜60mに分布するのに対し、F4の南側では深度35〜40mの礫層につながるものと考えれば、最大20mの落差が推定される。
北側のF4は、熱田層下部(D3L)までを変位させている可能性もあるが、ボーリング資料が不足するため良くわからない。その上位の熱田層上部(D3U)や沖積層(A)などの新しい地層については、反射記録及び地質分布から判断して、変位しているかどうかは不明である。
以上のとおり、浅部断面の反射面の連続性はあまり良くなく不明瞭であり、かつ、既存ボーリング資料による地層の対比であることから、確実性に欠けるが、下記の事項が把握された。
@深部断面で把握されたF1〜F4断層のうち、F1〜F3は東海層群を切っているが、上位の地層の変位は不明である。
A北側のF4は、海部・弥富累層に対比される地層の反射面も不連続にずらしている可能性が高い。
Bその上位の更新世中期〜後期の熱田層や完新世の沖積層などの新しい地層の変位については不明である。
C東海層群や海部・弥富累層の変位量及び上位層も含めた地質分布等については、反射面と既存ボーリング資料による推定であり、正確な情報は今後の確認調査で明らかにする必要がある。