F−6およびF−7断層において、年代測定結果、帯磁率や粒度分析等のピークの対比、並びに火山灰分析結果から、明確な対比が可能な火山灰層は、1層準のみである[TAT04−03 (755−760)、TAT04−05(975−980)、TAT04−07(1095−1100)、TAT04−14(920−925)] 。
この火山灰は、火山ガラスの屈折率から鬼界アカホヤ火山灰に対比される。TAT04−03コア(F−6断層相対的隆起側)において、この火山灰に最も近い層準の放射性炭素年代測定結果から内挿して求めた年代(暦年補正値)はおよそ7,350−7,400yBPである。
鬼界アカホヤ火山灰の年代に間しては、町田・新井(2003)は、およそ7.3ka(ka:1,000年前を示す単位)に近いとしている。この年代値は、本調査における分析結果から得られた年代値とも調和的である。
(b)対比基準面の認定
断層を挟んだコアの試料分析結果により、火山灰層、および堆積物の粒径や帯磁率などの層位変化の特徴、さらに音波探査記録から得られた情報を総合的に判断して、断層を挟んだコア試料間での対比基準面の認定を行った。
この結果、F−6断層では9層準、F−7断層では10層準の対比基準面が認められた。対比基準面の一覧表を表5−7に示す。また、図5−11−1、図5−11−2に、コアの試料分析結果図に対比基準面及びイベント層準を加筆して示す。図5−11−1、図5−11−2では以下に述べる対比精度[高]および[中]の対比基準面は実線で、対比精度[低]および[低−]の対比基準面は点線で示した。
表5−7に示した対比面の認定についての明瞭度、確実度、対比精度の判断基準は以下の通りである。
@明瞭度:各要素のバックグラウンドと比較した層位変化の特徴から、相対的に対比面の明瞭度の強弱を判定した。ただし、火山灰層が対比された場合は他要素によらず明瞭度強とした。
A確実度:各要素の層位変化のピークが対比可能であっても、火山灰層がないか、存在しても分析結果から不一致の可能性があると判定された場合は、不確実とした。また、堆積物に乱れ等が観察される場合も不確実と判定した。
B対比精度:対比面が明瞭度強と判定された場合は、対比精度が高いと判断した。対比面の明瞭度が弱の場合は、対比精度が低いと判断した。対比面の明瞭度が中程度の場合は対比精度も中程度と判断したした。対比面の明瞭度が強で、かつ確実度が不確実の場合は、対比精度を中程度とした。対比面が明瞭度中〜弱で、確実度が不確実の場合は対比精度を低−(マイナス)とした。
累積変位量については、本来は海底面を変位0として累積変位量を算出すべきであるが、表5−7に示した値は、最上位の対比基準面を基準層準(変位量0)として計算した値である。これは、ピストンコアによる試料採取における作業上の制約から、海底表層の未固結軟弱層が流出する可能性が高く、採取したコアの最上部が必ずしも海底面を示しているとは限らないことによる。したがって、最上位の対比面より上位の正確な層厚が得られないため、最上部の対比面を変位量0と仮定し、それ以下について累積変位量を算出した。
各対比基準面の年代値(暦年)は、相対的隆起側のコアにおいて、基準面を挟む隣接する2層準の放射性炭素年代測定値から、堆積速度が一定であると仮定して、内挿した。対比基準面の上位もしくは下位にしか年代測定値がない場合は、直近の2層準の年代値から外挿して求めた。なお、放射性年代測定値に幅があることから、 内外挿年代は年代測定値の若い値同志及びと古い値同志についてをそれぞれ計算した。また、暦年補正に複数の年代区間がある場合には、最も若い年代と古い年代値からそれぞれ算出した。
(c)イベント層準の検討
断層の相対的隆起側・沈降側のコアにおいて、対比される地層間で著しく層厚が変化する変位量急変層を各断層のイベント層準と認定した。
イベント層準認定の基準は以下の通りである。
@対比精度[低]以上の基準面を使用し,[低−]については参考値とした。
Aピストンコアリングではその採取装置の構造上、コアの最上部が採取時に欠落する可能性があることが一般に知られており、最表層部を正確な対比面としては利用できない。ゆえに、断層を挟むピストンコアにおいて、対比可能な最上位の対比基準面を変位0と仮定し、これに基づいて変位量の見積もりを行った。ただしコアトップと最上位の対比基準面の間の変位差が顕著な場合、別途検討を行った。
B粒度分析、含水比分析等の試料分析の試料間隔が5cmであることから、対比基準面の深度に同程度の誤差が見積られるため、エラーバーとして±5cmを図示し、誤差範囲(±5cm)以上の変位が認められる区画を抽出し、これらの区間の上位・下位に変位0とみなせる区間が存在している(埋め戻しの完了が確認できる)場合、イベントであると認定した(例:イベントF3−2)。
ただし、誤差以内の変位だが,誤差以上の変位がみられる区間と連続しており、かつ急変[0.07cm/年以上(例:イベントF4−2)]する区間、もしくは、誤差以上の変位がみられる区間と連続しており、「誤差以上の変位がみられる区間」よりも急変を示す区間(例:イベントF1−1)についてはイベント層準に含めた。
C上位・下位の変位差0とみなせる区間の存在が明確でない場合、上限・下限の対比基準面がいずれも対比精度[低]の場合,変位差が30cm以下の場合は[イベントの可能性が高い]とした。
D誤差範囲(±5cm)以上の変位が認められる場合であっても、上位・下位の変位差0とみなせる区間の存在が明確でなく、更に変位の逆方向への推移が著しい場合は、イベントとは認定しない。
以上の検討結果を、イベント層準の検討結果について、平成14、15年度の結果も含めて表5−9に示す。また、各断層を挟むコア間における相対的変位量を図5−13に示す。