(2)橘湾西部

橘湾では、平成14年度の金浜沖、平成15年度の有喜沖と橘湾西部、平成16年度の橘湾西部で、音波探査を実施した。これらと松岡・岡村(2000)をはじめとする既往調査結果から、橘湾における断層は、いずれも東西走向の正断層が卓越する傾向が認められる。

橘湾における音波探査結果では、橘湾のほぼ全域で、沖積層のほぼ中程に明瞭な反射面が追跡できる。ピストンコアリングの試料分析結果から、この反射面は、暦年で7,300年前に降下した鬼界アカホヤ火山灰相当層であることが確認されている。各断層における鬼界アカホヤ火山灰層の変位量を、音波探査記録から計測した結果を図5−10に示す。なお、平成14〜16年度の長崎県による調査範囲外については、松岡・岡村(2000及び未公表資料)の調査結果を参考とした。

図5−10に示した変位量の階級区分は、陸域断層の活動度の区分に準じたが、音波探査記録からの読み取り精度の限界から、変位量5−10m(平均変位速度0.7〜1.4m/千年≒A級)、3−5m(同0.4〜0.7m/千年≒B+級)、0.8−3m(同0.1〜0.4m/千年≒B−級)、及び0.8m以下(同0.1m/千年以下≒C級)及び変位量不明とした。

海域断層の変位量は、橘湾南東部の金浜沖付近にA級及びB+級の活動度を示す断層があるが、全体的にはB〜C級を示す。

橘湾における断層群は、分布の連続性、変位のセンス、活動度から、湾北部、湾中〜南部、湾西部に区分可能である。それぞれの境界は、湾北部と湾中〜南部の断層群の境界はおよそ北緯32度35分付近、湾中〜南部の断層と湾西部の断層群の境界は、概ね断層No.187−No.200と断層No.199−NO.206−No.5の間付近と考えられる。

湾北部の断層群は、橘湾北岸に沿って陸域の千々石・小倉断層と並行ないし西方延長位置に分布する。断層の変位方向は、南落ちを示す陸域断層とは逆の北落ちであるものが多いが、南落ち断層も認められる。活動度はB−級からC級である。

湾中〜南部の断層群は、金浜断層の西方延長位置にあたる小浜・金浜沖から、湾北西の牧島沖にかけて、西北西にほぼ連続的にするものと、諏訪池断層の西方延長位置である田ノ平から、橘湾中央部まで東西にほぼ連続的に分布するものがある。両断層群とも、北落ちの断層が主体であるが、一部に北側の南落ち断層と南側の北落ちの断層が並行する狭い地溝を形成する部分がある。地溝を形成する並行する断層の変位量は、図5−9の変位量区分では同じランクに属するが、一般的に地溝南側の北落ちの断層が変位量が大きい。したがって、湾中〜南部の断層群は大局的には北落ちが主体をなすと断層群と考えられる。両断層群の活動度は良く似た傾向を示し、島原半島沖でA級からB+級と最も大きく、断層群の主部ではB−級、西端付近でC級となる。

湾西部の断層群は、橘湾中央部から長崎半島の大崎にかけて、東西方向へほぼ連続的に分布する、南落ちを主体とする断層群である。また、これらとの連続性については不明瞭ではあるが、大崎沖から南方およそ10kmにわたり、長崎半島沖に南落ちを示す断層が点在する。湾西部の断層群の活動度は、主部ではB−級であるが、東端と西端(長崎半島の海岸付近)でC級となっている。

以上に示した考察は、音波探査結果に基づくものである。橘湾の中央部の海底には音響散乱層が分布しており、音波探査では海底堆積物の構造が把握できない海域もあるため、未知の断層が存在する可能性もある。しかしながら、平成14〜16年度において実施した、音響散乱層分布域を含む音波探査記録を検討した結果では、音波散乱層分布域には鬼界アカホヤ火山灰層が1m以上変位しているような断層(活動度B級以上)は存在する可能性は低いと推定される。