(1)島原沖

島原沖の海岸から約3km程度までは、1792年の眉山崩壊堆積物やそれ以前の崩壊堆積物等で海底が覆われており、音波探査からは断層の有無を判断できない。それより沖合いでは、成層構造が認められる完新統と推定される海底堆積物が存在し、音波探査により断層の存在が確認できた。しかし、橘湾で認められるような鬼界アカホヤ火山灰相当層と推定される明瞭な反射面は認められないため、音波探査結果からは平均変位速度を推定することができなかった。

島原沖の断層は連続性が悪く、松岡・岡村(2000)でも1測線のみでしか確認できないため、断層の走向に関しては不明であった。今回の調査では、松岡・岡村(2000)の測線(経度で約30秒[約0.75km]間隔)の間を補完する形で測線を配置した。その結果、測線間隔が蜜になったことから、複数の測線に連続する断層を確認した。これらの走向が確認できた断層はほぼ東西走向を示す。

島原沖の海底断層は、東西方向に東経130度25分から130度30分の間、南北方向に北緯32度45分から32度50分の間の範囲で確認できた(図5−9)。

このうち、北部の北緯32度50分〜47分の間では、南落ちの断層が分布しており、その南側の北緯32度48分〜45分の間では、北落ちの断層が分布する。そして、両者の分布範囲が重なる北緯32度49分〜46分の間では南落ち、北落ちの双方の断層が混在する。

一方、北緯32度45 分より南側(探査範囲の南端32度44分までの間)では、海底堆積物に成層構造が認められるものの、断層は確認されないことから、少なくとも完新統に変位を与える断層は存在しないと考えられる。

以上のような南落ち、北落ちの断層群の分布から、島原沖では、大局的には、北緯32度48分〜49分付近を軸とする地溝状構造を形成していると考えられる。この地溝構造は、音波探査測線57で比較的明瞭に認められる(図5−2)。

 また、分布範囲南端の北緯32度46分付近には北落ちの断層が多く分布することから、半地溝状構造の可能性もあるが、明瞭ではない。

 島原沖における音波探査の結果からは、時代を特定できるような連続性の良い音響反射面が認められないことから、変位量の比較や平均変位速度の推定を行うことはできない。

島原半島に近い海岸付近では、眉山の崩壊堆積物に覆われ、断層の存在に関して検討ができないため、島原沖の断層群と、陸域の断層群の連続性については明確ではない。

しかしながら、陸域の調査で明らかになった、島原市内に伏在する雲仙地溝の北縁断層の東側延長位置の海域には、北落ちの断層が分布している。また、上述した島原沖の地溝状構造の北端は、雲仙地溝北縁断層の位置から、北へ約6kmずれている。

これらの事実から、島原沖の断層群は、雲仙地溝北縁断層帯の延長とは考えられず、「雲仙活断層群」とは異なる断層群である可能性が高いと考えられる。