このことは、雲仙活断層群の活動と密接に関連していると考えられる雲仙火山の噴出物の分布の西端も、同じく諫早市唐比付近が分布の西端であることと良い一致を示す。中位扇状地T面を構成する古期雲仙火山後期の噴出物は唐比付近で更新世の有喜安山岩類にアバットしている(図4−4)。
唐比の西方には、更新世の有喜火山岩類が丘陵を形成している。平成15年度調査において、唐比低地西方の諫早市井牟田付近に分布する有喜火山岩類中に、東西走向の横ずれ成分を持つ逆断層の露頭が確認された(図4−5、図4−6)。これらの断層は、走向がほぼ東西であり、千々石断層の西方延長に位置することから、雲仙活断層群との関連する可能性が考えられるものの、活動のセンスが雲仙活断層群とは異なっていることから、雲仙活断層群とは別の応力場に支配される断層群と考えられる。
有喜火山岩類の分布域では、地形的には谷の方向が北西−南東であり、諫早市に分布する第三紀始新世の諫早層群には北西−南東の断層が発達する(図4−2)。さらに、多良岳の火山体を変位させる北西−南東走向の北落ちの活断層(逆断層)も知られている。これらは諫早北西断層群(小川断層、広瀬断層、菅牟田断層)、大仁田断層、松尾断層、向木場断層と呼ばれており、いずれも確実度U(新日本の活断層、1991)の活断層とされる(図4−3)。
これらの地質構造及び活断層の分布から、諫早から大村付近は雲仙地溝の南北に開く応力場とは異なった応力場に支配されていると考えられる。
一方、有喜火山岩類が分布する地域の橘湾沿岸部は、東西方向の直線的な崖地形となっており、有喜港の東方の海岸部には、海岸と平行な断層露頭も確認された(図4−4の地点F、図4−8)。この沖合いの橘湾北部には、雲仙活断層群の北縁をなすと考えられる東西走向の断層群の分布が知られている。
したがって、井牟田の南における東西方向の逆断層は、断層の走向は雲仙と同じ東西方向を示し、断層活動は諫早−大村の圧縮場の逆断層という、両応力場の影響を受けている可能性がある。
したがって、有喜火山岩類分布域における地質構造を詳細に検討することによって、本地域と雲仙地溝との関係を検討する目的で、平成15年度に地表踏査(概査)を実施した。
踏査の結果、いくつかの断層露頭を確認したが、断層の変位の方向が確認できたのは、上述した井牟田南方の露頭@、A(図4−4、図4−5、図4−6)及び、海岸部の露頭F(図4−4、図4−8)のみであった。