5−3−5 橘湾海域の断層の活動性評価

平成14年度および平成15年度調査において、海上試料採取によるコアの地層対比に基づく変位量の調査を実施したF−1〜F−5断層について、K−Ah層準以降の累積変位量から導き出された平均変位速度はF−2断層を除いて大部分が0.3m/ky以下のB級を示す。F−2断層ではK−Ah層準以降の平均変位速度は0.73m/kyと他の断層より大きな値を示す(表5−3−2)。

音波探査結果からは、K−Ah火山灰降下(7.3ka)以前の活動の存在が示されている場合があるが、現在のピストンコアリングによる試料採取では深部の試料が採取できない。また、K−Ah層準以前は最終氷期の海水準低下期に当っており、堆積環境が不安定であったことが今回の調査でも示されており、高精度の対比による変位量の認定は困難である。したがって本調査ではK−Ah層準以前についてはイベントの評価は行っていない。

平成14年度及び平成15年度調査において調査した5断層のうち、複数回の明確なイベントが認定されたのはF−3(金浜沖)、F−4(有喜沖)、F−5(橘湾中央)の3断層である。イベントが想定される時期に幅があるため、断層の活動間隔を正確に見積もるのは困難である。

各イベント時期に幅があるため正確な議論は出来ないが、F−3断層のイベント2、F−5断層とF−4断層のイベントUはイベント期間が概ね重なっており、ほぼ同時期に活動した可能性もある。これらのイベントが想定される時期は各コアで認められた軽石を含む火山灰層準付近に当たっており、約5,000年前の雲仙火山の噴火活動と関連して活動した可能性も考えられる。

F−3断層のイベント1とF−5断層のイベントTについても、イベント期間が重なっており両断層が約2,000年前頃に同時に活動した可能性がある。

一方、F−4断層のイベントTは変位量が15cmと小さいため断層運動の存在自体が不確実であるが、F−3、F−4断層の活動時期とは重ならず、単独の活動であると考えられる。

金浜沖のF−1、F−2断層ではK−Ah火山灰層準から軽石層準の間にイベントが想定されているものの、対比基準面が少ないためイベント時期の特定が困難である。これらの断層ではより新しいイベントが存在する可能性があるものの明確ではない。

以上のように解析精度上の問題があるものの、橘湾の断層にはK−Ah層準以降の活動パターンとして、2ないし3つのタイプの活動様式が存在している可能性が考えられる。

地理的分布や活動パターンからは、橘湾中央のF−5断層は金浜沖の断層群と同じグループ(橘湾中部断層群)である可能性が高い。

一方、F−4断層で代表される橘湾北部断層群はこれとは異なったパターンで活動している可能性が高い。

表5−3−1 橘湾南東部における対比基準面一覧表(平成14年度調査)

表5−3−2 海域断層の評価結果総括表