5−2−4 イベント層準の検討

以上に述べた分析結果に基づき断層の活動した時期(イベント層準)の検討を行った。イベントの認定においては、断層を挟んだ両側のコアにおける層厚変化を求め、層厚の変位量が急変する層準を断層のイベント層準と認定した。イベントの判断基準となる累積変位量の変遷を図5−2−8に示す。

なお、今回の調査では、試料採取の間隔が5cmであることから対比基準面の層準には同程度の誤差があることを考慮し、図5−2−8には±5cmのエラーバーとして示す。この誤差範囲内の変位についてはイベント認定から除外して考察する。

なお、変位量の算定における基準面としては、断層を挟んだ両側のコアの最上位の対比基準面を変位量0として算定している。

これはピストンコアリングの性質上、海底表層部の未固結堆積物はコアリング時やその後の運搬時に乱される可能性が高く、採取したコアの最上部が海底面を示しているとは限らないことによる。このことは表5−2−6において、断層を挟んだ両側の最上位の対比基準面のコア最上部からの深度が異なっていることにも示されている。すなわち、最上位の対比基準面の深度はF−4断層では断層を挟んで5cm、F−5断層では断層を挟んで15cmの差がある。

一方、音波探査結果からは断層位置の海底面に段差は認められず、表層付近に断層運動を示すような反射面の変位は認められないことから、最上位の対比線は本来は海底面と平行(水平)であったと推定される。

したがって、イベント認定における変位量の算定には、最上位の対比基準面を基準とし、この対比基準面からの層厚変化を用いた。

ただし、雲仙地域では歴史地震記録や陸域の断層露頭調査結果から最近数百年間に地震活動があった可能性も示されている。

海域コアの最上位対比基準面の年代は、F−4断層では328−139ybp、F−5断層では783−643ybpであり、最上位の対比基準面の堆積以後に断層が活動した可能性も否定できない。しかし、現時点ではイベントの評価の基準となる対比基準面がコアの表層部で認定できないため、本報告書ではイベントの評価が可能な情報が得られた最上位の対比基準面の層準以前について考察する。

累積変位量の変化によるイベント層準の認定結果について以下に断層毎に述べる。

@ F−4(有喜沖断層)【TAT03−04(相対的隆起側)、TAT03−01(相対的沈降側)】

断層の相対的隆起側・沈降側で層厚変化が認められる層準は、以下の3つである。

イベントI

TAT03−04における −80cm〜−145cm

TAT03−01における −85cm〜−180cmまでの層準

イベントII

TAT03−04における −220cm〜−320cm

TAT03−01における −240cm〜−390cmまでの層準

イベントIII

TAT03−04における −490cm〜−580cm

TAT03−01における −560cm〜−680cmまでの層準

イベントIII層準より下位は明確な層厚の変化が認められず、断層活動の存在した可能性は低いと考えられる。

またイベントI層準より上位は堆積間隙、もしくは手法上の問題により、最表層部が欠落している可能性があることから、イベント時期の特定は困難である。

A F−5(湾中央断層)【TAT03−13(相対的隆起側)、TAT03−11(相対的沈降側)】

現状で推定されるイベント層準は、

イベントI

TAT03−13における −160cm〜−425cm

TAT03−11における −175cm 〜−480cmまでの層準

イベントII

TAT03−13における −480cm〜−625cm

TAT03−11における −530cm〜−740cmまでの層準

の計2回である。

F−5断層においては、TAT03−11、13コアの K−Ah層準より下位(およそ10m以深)で構成粒子が粗粒となり帯磁率測定や粒度分析結果のピークが重複して複雑に推移することから、対比基準面が認定できなかった。したがって、この層準におけるイベントの有無に関しては不明である。