4−6−3 深江断層トレンチ

深江断層は布津断層とともに雲仙地溝の東部南縁を成す断層である。地形的には主部では比高100m以上の断層崖を形成している。平成14年度および平成15年度調査によって深江断層リニアメント位置の2箇所で断層露頭が確認されており、断層の存在は確実であるものの、断層の活動性に関する情報は得られていない。

東に向かって低くなっている深江断層の断層崖においてトレンチ調査を実施した(図4−6−2−1図4−6−2−2:トレンチ@)。トレンチ地点付近の地形を図4−6−9に、地形状況の写真を図4−6−10に示す。

深江断層上がり側の低位扇状地T’面は海岸付近で数列の丘陵に分岐しており、深江断層が分岐している可能性も考えられる(図4−6−1)。しかし、後述するように、沖合の音波探査結果から推定される海底の深江断層延長部は、深江断層主部のリニアメントからトレンチ地点を通るリニアメントの延長上に存在する(図4−6−24)。したがって、図4−6−9に示した急崖が深江断層の位置であると判断し、トレンチ調査を選定した。

トレンチ掘削に先立ち、断層が実際に存在するかどうかの確認及び活動性評価のための基準となる被覆層(ローム層等)の分布を確認するため、トレンチ調査地点でハンドオーガーボーリングを実施した。

トレンチ地点の地形断面図及びハンドオーガーボーリングの結果を図4−6−11に示す。ハンドオーガーの結果から、トレンチ計画位置の両端で確認されたローム層が中央部で欠如していることから、空中写真判読によるリニアメント位置の急崖は畑等の人口改変の可能性も考えられた。一方、斜面の下端付近の地形変換点の北側では地下水面が高く、何らかの地質境界が推定された。

ハンドオーガーの結果を踏まえ、最初、斜面下端部の地形変換点位置で掘削した

トレンチの法面スケッチを図4−6−12に、法面写真を図4−6−13に示す。なお、火山灰分析および14C年代試料の採取位置および分析結果をスケッチ(図4−6−12)にあわせて示す。

トレンチでは地形変換点の北側には土石流堆積物と指交するシルト/粘土層が分布する。この付近からは地下水の湧出が見られた。一方、地形変換点の南側では最下部に風化した火砕流堆積物が分布する。地形変換点を境に地質が変化していることから断層である可能性がある。しかし、掘削した範囲では両者の直接の関係は確認できなかった。一方、シルト/粘土層と指交する土石流堆積物と火砕流堆積物を覆って未固結の砂礫層が地形変換点の両側に分布するが、この砂礫層には断層を示唆する変状は認められなかった。

この地点では地下水の湧出による掘削法面の崩壊の危険があるためこれ以上の掘削を断念した。

空中写真判読結果によるリニアメント位置の地下状況を確認するため、南側の深江断層断層崖の上部までトレンチを掘削した。

地形変換点の南側では、火砕流堆積物及びその上位の未固結砂礫層を、一部に風化や酸化変色を伴うブロック化した崖錐堆積物が覆っている。

崖錐堆積物のブロック間には礫混じりロームが挟在される。このローム層の14C年代測定結果は7.26〜7.02ka、6.01〜5.91ka、及び7.80〜5.80kaを示し、ローム層中にK−Ah火山灰ガラスの混入が確認されたことと矛盾しない。したがって、この崖錐堆積物がブロック化して、深江断層の断層崖に堆積したのは7000年〜6000年前と推定される。

トレンチの西面の地表部は、トレンチ掘削前に実施したオーガーボーリング結果から予想された通り、表土を欠き耕作土が堆積しており、リニアメント位置の急崖が、自然地形に加えて、人工的に改変されたものである可能性を示している。

トレンチ調査結果からは、確実な断層の証拠は得られなかったが、トレンチ地点の北端付近の地形変換点に地層境界(断層?)が伏在する可能性が考えられる。

また、断層崖斜面に堆積した崖錐堆積物が、7000〜6000年前にブロック化したことが明らかになったが、このブロック化の原因は不明である。この時期に深江断層が活動した可能性もあるが、確認されていない。