図4−5−1に示した低位扇状地Ua面上のA地点では、古江火砕流堆積物を直接覆う黒ボク層にK−Ah火山灰(7.3ka:暦年:町田・新井、2003)が挟在されるが、AT火山灰(26−29ka:暦年:町田・新井、2003)は確認されない。一方、低位扇状地Ub面と低位扇状地V面の境界付近のB地点では、古江火砕流堆積物を約12,900年前(暦年)の古土壌を介して、低位扇状地V面の土石流堆積物が覆っている(図4−5−6)。
このことから古江火砕流堆積物の年代はAT火山灰(26−29ka)より新しく、13kaよりも古いと考えられ、このことは島雄他(1999)が報告した古江火砕流の熱ルミネッセンス年代23kaと矛盾しない。
牡丹山の北側斜面は赤松谷に沿って、比高約60mの東西方向の直線崖となっている。この崖地形が断層崖か侵食崖かは、現在平成噴火の火砕流堆積物や土石流堆積物に埋められているため、踏査結果からは断層の存在を肯定も否定も出来ない。
後述するように、下流部では低位扇状地V面形成後の約8000年間に深さ約20mの侵食谷が形成されている。赤松谷上流部の地形状況からは、古江火砕流堆積後の約2万年間で数10mの浸食崖を形成するような大規模な岩屑なだれや土石流の発生は考えにくく、また水無川下流にもそうした大規模な岩屑なだれや土石流堆積物は認められない。こうした地形状況からは、牡丹山の直線的な崖は断層活動による可能性を否定できない。
しかしながら、牡丹山の直線的な崖が断層活動によって形成されたとすると、古江火砕流の年代(約23ka)からこの断層の平均変位速度は2.6m/ky(=60m/23ky)と非常に大きな値を示す。さらに、後述するように水無川を挟んだ両岸に分布する低位扇状地V面には断層活動を示すような大きな変位が認められないことからすると、牡丹山の崖を形成した断層は23kaから8kaの僅か15000年間にのみ活動したことになる。(15000年間の平均変位速度は60m/15ky=4m/ky)。