(1)地形に基づく変位量

雲仙地域の地形は、主として約50万年前から活動を続けてきた雲仙火山の噴出物による溶岩円頂丘、溶岩からなる山地地形、火砕流堆積物や山体崩壊に伴う岩屑なだれ堆積物の堆積面、火砕流や岩屑なだれ及びそれらの二次堆積物である土石流堆積物から構成される火山麓扇状地面等が分布している。これらの地形・地形面は雲仙活断層群の各断層の活動によって変位し、断層崖が形成されている。段丘面の発達は悪く、沖積面も分布が海岸部の狭い範囲に限られる。

雲仙活断層群の各断層の活動性を検討する際に、その変位量を算定するための基準面は、主として上記溶岩地形、火砕流堆積物、岩屑なだれ堆積物や土石流堆積物の堆積面、及び火山麓扇状地面である。段丘面や沖積面には、空中写真判読や地表踏査からは変位地形は認められない。

これらの基準面の変位量から断層の変位量を算定するが、雲仙活断層群の多くの断層では、断層を挟んだ両側に同一の基準面が分布しない場合が多い。

例えば、地形的に最も明瞭な断層崖の一つである千々石断層の西部では、古期雲仙後期の火山麓扇状地面(中位扇状地T面)が、高さ数十mの直線的な崖で橘湾に面しているが、断層落ち側は海域となっており、扇状地面は分布しない。また、雲仙地溝東南では低位扇状地T’面(70ka)が深江断層によって切られ、高さ100m以上の断層崖を形成しているが、断層落ち側にはより時代の新しい低位扇状地Uc面(古江火砕流堆積物:23ka)やその二次堆積物の土石流堆積物の扇状地面が分布し、低位扇状地T’面そのものの変位量は算定できない。こうした状況は他の断層においても同様であり、各断層の正確な変位量を算定するのは困難である。

地形から断層の変位量を求める際には、断層の上がり側の基準面が断層落ち側にない場合は、断層落ち側が、埋没している可能性と、浸食で失われた可能性が考えられる。本報告では断層落ち側が地下に埋没していると仮定し、断層上がり側の最高点と断層落ち側の最低点との標高差を計測した値を、変位量の最小値と仮定した。

断層上がり側の地形面が扇状地面の場合は、傾斜した扇状地面の延長と断層落ち側の最低点との垂直差を計測した。

一方、断層の両側に同一の溶岩円頂丘や溶岩面が残っていると推定される場合は、断層上がり側、落ち側双方の溶岩による山体の最高点の標高差を断層変位量とした。

断層が山体斜面や扇状地面を変位させ、断層両側に地形面が存在する場合は、地形断面上における地形面の延長線間の垂直落差を断層変位量とした。

地形による断層変位量の測定は、基本的に25,000分の1地形図により地形断面図を作成し、地形断面図上で、上述した基準によって断層の変位量を算定した。

変位量を算定した地形断面図と変位量算定に用いた変位基準及びその時代を図4−12−2−1図4−12−2−2図4−12−2−3図4−12−2−4図4−12−2−5図4−12−2−6図4−12−2−7図4−12−2−8図4−12−2−9図4−12−2−10図4−12−2−11図4−12−2−12図4−12−2−13図4−12−2−14図4−12−2−15図4−12−2−16図4−12−2−17図4−12−2−18図4−12−2−19図4−12−2−20に、またこれらの地形断面の位置図を図4−12−3−1図4−12−3−2図4−12−3−3図4−12−3−4図4−12−3−5図4−12−3−6図4−12−3−7に示す。