4−1−1 千々石断層西方延長部の調査の目的

雲仙活断層群の北縁をなす千々石断層の西端は森山町唐比付近が西端と考えられる。千々石断層西端の詳細については4.2節で検討するが、森山町唐比より西方には活断層リニアメントは判読されない。雲仙活断層群の範囲については橘湾北部に分布する東西方向の海域の断層群も含めて検討する必要があるが、陸域に限れば森山町唐比付近が雲仙活断層群の西端と考えられる。

雲仙活断層群の活動は雲仙火山の活動と密接な関係があると推定されるが、雲仙火山の噴出物の分布の西端も、同じく森山町唐比付近まで達している。雲仙火山北西部に広く発達する中位扇状地T面を構成する古期雲仙火山後期の噴出物(K−Ar法年代測定で220kaが得られている)は、森山町唐比付近で更新世の有喜安山岩類にアバットしている。

4.2節で詳述するが、千々石断層西端部の唐比低地においては、縄文海進時(約6000〜7000年前)の汀線付近の地層が現在標高−11m付近へ沈降していることが確認され(平成14年度調査)、千々石断層の運動と関係している可能性も指摘されている(松岡他、1990)が、この沈降の原因については結論に至っていない。

また、唐比低地中央部では、基盤の有喜安山岩類上の標高−25m〜−35m付近に最終間氷期の海成層が確認されているが、唐比低地東部では基盤が−11m〜−15mと浅くなっており、最終間氷期の海成層の分布は唐比低地西部で孤立している。

一方、唐比低地の西方には有喜火山岩類からなる丘陵に囲まれた標高70m前後の山間低地(井牟田低地)があり、この低地の南縁をなす東西に伸びる尾根の南北両側で、西北西−東南東の走向で横ずれ成分を持つ逆断層露頭が確認された。これらの断層の活動時期に関する情報は得られていないが、その走向及び活動センスから、井牟田低地南縁の尾根の形成と関連する可能性がある。

この井牟田低地の南縁をなす尾根の東部は唐比低地を海から隔てる尾根に連続する。この尾根が横ずれ成分を持つ逆断層の活動で形成された可能性があることから、唐比低地の地形形成においても重要な意味を持つと考えられる。

雲仙活断層群の北縁をなす千々石断層は、地形・地質調査の結果から南落ちの正断層であり、空中写真判読や断層露頭における条線方向から横ずれ成分は確認されていない。

他方、井牟田低地南縁で確認された断層は、横ずれ成分を持つ逆断層で、千々石断層とは明らかにセンスが異なることから、雲仙活断層群とは別の応力場に関連した断層であると考えられる。

唐比の西方では地形的には谷の方向が北西−南東であり、諫早市に分布する第三紀始新世の諫早層群には北西−南東の地質断層が発達する(図4−1−1)。さらに、多良岳の火山体を変位させる北西−南東走向の北落ちの活断層(逆断層)も知られている。これらは諫早北西断層群(小川断層、広瀬断層、菅牟田断層)、大仁田断層、松尾断層、向木場断層と呼ばれており、いずれも確実度U(新編日本の活断層、1991)の活断層とされる(図4−1−2)。

これらの地質構造及び活断層の分布から、諫早から大村付近は雲仙地溝の南北に開く応力場とは異なった応力場に支配されていると考えられる。

井牟田付近はこの2つの応力場の接点に位置している。したがって、井牟田の南における東西方向の逆断層は、断層の走向は雲仙と同じ東西方向を示し、断層活動は諫早−大村の圧縮場の逆断層という、両応力場の影響を受けている可能性がある。

唐比西方の井牟田付近の地質構造及び断層活動に関する情報は、雲仙活断層群の応力場の影響範囲、すなわち雲仙活断層群の北縁をなす千々石断層の西端の位置を確定する上で重要であり、雲仙活断層群の起震断層としての評価における北縁断層の長さの評価に関する重要な情報である。

本地域は既往文献では活断層の分布は報告されておらず、本調査の調査対象とされていなかったが、上述した理由から地質構造に関する検討を行う必要が出てきた。本地域に関する地質の詳細や地質構造に関する情報がほとんどないため、平成15年度調査では第1段階として唐比西方地域の地表踏査(概査)を行った。