(イ)F−3断層
最も明瞭にイベント層準を特定できたのはF−3断層である。上記対比面の分析結果から17枚の対比面が得られている。
これらの対比面のうち、アカホヤ層準付近(6100yBP、11.45m付近)より下位の対比面の変位量は、表層部のそれより小さくなっている箇所がみられる。断層が同一のセンスで繰り返し活動してきたものであれば、地層の変位は下位の層準ほど累積されて大きなものになるはずであるが、ここではその累積性と矛盾する。一方、音波探査記録では断層の両側で対応する各反射面の変位は、下位層準ほど大きくなっており、明瞭な累積性が認められ、この断層は一貫して北落ちの活動をしてきたと考えられる。
一般にコアの試料分析における対比面(帯磁率や粒度のピーク層準)は、音波探査記録の反射面の間隔や強度のパターンと良い一致を示す。しかし、F−3断層のアカホヤ層準よりも下位の対比面に関しては、帯磁率や粒度のピーク層準と音波探査記録の反射面パターンが一致しない。この結果、音波探査記録の反射パターンで見られる断層活動の累積性が、コアの対比面の変位量では累積性と見かけ上矛盾するような結果となっている。
この原因としては、F−3断層付近のアカホヤ層準より下位の層準は堆積物の変化が激しく、隆起側・沈降側で大きく粒度構成が異なる箇所があり、層厚が局所的に変化している可能性もある。そのため、帯磁率や粒度分布のピークに基づく対比面による変位量に差が生じたことも考えられる。また、コアリングや試料分析処理における技術上の問題による可能性もあるが、アカホヤ層準よりも上位では対比面の認定に問題は無い。現状では断層を挟む各1本ずつのコア試料から、これらの現象を説明するための確証は得られていない。
前述の通り、問題となる層準の堆積物は非常に変化に富んでいることから、対比面認定も含めてより慎重な検討が必要であり、F−3断層のアカホヤ層準よりも下位に関して追加のコア分析を実施し、その結果により再度検討を行う予定である。
以上に述べたように、F−3断層においてはアカホヤ層準より下位に関しては、対比に不明確な面があり、以下の議論はアカホヤ層準よりも上位について考察する。
断層の隆起側・沈降側で著しく層厚の変化する層準として、以下の2つが挙げられる。
・TAT02−09の220cmから400cm付近までの層
(TAT02−12では220cmから480cmまでに対比)
・TAT02−09の660cmから780cm付近までの層
(TAT02−12では760cmから935cmまでに対比)
これらの層準の周辺で得られている年代測定値によれば、その活動時期は放射性炭素年代で1400−2700yBP付近(暦年補正値:900−2600 cal yBP付近)および4400−5000yBP付近(暦年補正値:4600−5300 cal yBP付近)と推定される。変位量は各々80cm、70cm程度である。
(ロ)F−2断層
F−2断層に関して、現在得られている分析データを元に検討すると、10枚の対比面が特定された。このうち、イベント層準と考えられる箇所は、
・TAT02−05の410cmから595cm付近までの層
(TAT02−07では780cmから1120cmまでに対比)
である。年代測定値によれば、その活動時期は4800−6700yBP付近(アカホヤ降下からpumiceの下層堆積まで、暦年補正値:5000−7200 yBP付近)と推測される。
また、上記の層準より上の層準についても、隆起・沈降側で厚みの相違があり、断層イベントを含んでいるものとみられる。ただし、これらの層準の中に変位の埋め戻しが完了したことを示す層準が認められず、分析結果の比較によれば隆起側で堆積物の削剥が生じていることも考えられることから、はっきりとしたイベント時期およびイベント回数の特定は困難である。
イベント層準の変位量は530cm程度とみられるが、上記の理由からアカホヤ堆積以降の総変位量と捉えるのが妥当と考えられる。
(ハ)F−1断層
F−1断層に関して、現在得られている分析データを元に検討すると、5枚の対比面が特定されたが、断層の隆起側・沈降側で著しく層厚の変化する層準としては、
・TAT02−03の3.50cmから510cm付近までの層
(TAT02−01では410cmから610cmまでに対比)
が挙げられる。この層準はアカホヤ層からpumice層までの区間に相当しており、その年代は4800−6700yBP付近(暦年補正値:5000−7200 yBP付近)と推測される。ただし、TAT02−01のpumice層は非常に不明瞭なものであり、対比面としての確実度はやや低い。また、F−2断層同様、pumice層より上位の層準の中にイベントが存在する可能性も高いが、隆起側で堆積物の削剥が生じていることも考えられることから、はっきりとしたイベント時期およびイベント回数の特定は困難な状態である。
イベント層準の変位量は100cm程度とみられるが、上記の理由からアカホヤ堆積以降の総変位量と捉えるのが妥当と考えられる。