(3)花粉化石分析

堆積当時の古気候や周辺環境を推定するために花粉化石分析を実施した。花粉分析結果を表3−4−3に花粉ダイアグラムを図3−4−7に示す。

同定した花粉化石は針葉樹6種類、広葉樹14種類、草本類16種類、胞子2型である。以下に下位から上位に向かい植生変遷を考察する。

1) 深度35.72m〜33.6mでは花粉の産出が極端に少なく、植生を推定できなかった。

2) 深度32.76m〜32.05mではPinus(マツ属)、Picea(トウヒ属)、Taxodiaceae(スギ科)、Alnus(ハンノキ属)が30%前後産出し、Gramineae(イネ科)が深度32.05mでは66%と高率に産出する。単位体積当たりの花粉数は130,000個/?である。この深度での植生は針葉樹林、湿地林、草原と広範囲な植生が推定される。トウヒ属とスギ科が比較的高い割合で産出することから、今より冷涼な気候環境であったことが推定される。

3) 深度31.2m〜26.4mではPinus(マツ属)が70〜90%と高率に産出し最も優勢である。単位体積当たりの花粉数は43.000〜150.000個/?の範囲で変動し、深度29.6mが最も多い。この深度での植生はほぼマツの純林が推定される。現植生におけるマツの純林としては海岸林などがある。

 深度30.8m〜29.6mではCyclobalanopsis(常緑のカシ類)やPodocarpus(マキ類)葉少ないがIlex(モチノキ属)がやや高率である。

 深度29.2m〜25.2mではPinus(マツ属)が高率に産し、モミ属がわずかに高い比率となる。一方Ilex(モチノキ属)は次第に少なくなる。

4) 深度24.99m〜15.5mでは花粉の産出は深度20.03mのみであり、深度20.03mではCyclobalanopsis(コナラ属アカガシ亜属)、Castanea/Castanopsis(クリ属/シイ属)が35%前後産出して最も優勢である。この深度での植生は温帯域のものと考えられ、深度26.4mから20.03mの間で気候の温暖化が起こっていると考えられる。ただし、単位体積当たりの花粉数は15,000個/?であり、他の花粉産出試料に比べ極端に少ない。

5) 深度14.8mではGramineae(イネ科)やArtemisia(ヨモギ属)などの草本類が著しく高率であり、この深度での植生は草本主体であったことが考えられる。単位体積当たりの花粉数は37,000個/?である。

6)深度14.10m〜2.78mではCyclobalanopsis(コナラ属アカガシ亜属)、Castanea /Castanopsis(クリ属/シイ属)が15〜50%前後産出し最も優勢である。この深度での植生は暖温帯域の植生が考えられる。単位体積当たりの花粉数は32.000〜520.000個/?の範囲で変動し、深度10.8mが最も多い。

F深度2m以浅ではCyclobalanopsis (コナラ属アカガシ亜属)、Castanea/Castanopsis (クリ属/シイ属)が最も優勢であるが、それらに付随してPinus(マツ属)やGramineae(イネ科)がわずかに増加する。この変化は人間活動によるものではないかと考えられる。